海辺のガラス

EVI

海辺のガラス

「わぁ〜綺麗〜〜」


 海辺で、ちょっと濁った半透明な石を拾い、歓声を上げる私。


 よく見渡すと、周りにもたくさんの似たような石が落ちていることに気がついた。


 茶色、水色、白。たくさんの石を夢中になって拾っていると、


「美咲〜〜そろそろ行くよ〜」


 遠くの方から母が私を呼ぶ声が聞こえた。


 名残惜しい気持ちをその場に置いて、私はその場を離れた。


「見てみて〜母さん。こんな綺麗な石が落ちてたの〜」


 そう言って、ぽっけの中からたくさんの石を手のひらに乗せる。


「綺麗ね〜まるで宝石みたい」


 母は水色の石を手に取ると、太陽にすかしてみせた。


 私もそれに習って、白色の石を手に取って、残りの石をぽっけの中に戻すと、太陽にすかした。


 拾っている時はそこまで気にしていなかった、細かいつぶつぶとした模様を観察する。


 よく見ると、その粒もひとつひとつの大きさが微妙に違っていて、その粒をまじまじと見つめる。


 ただ、ずっと太陽に石をすかしていたことで、だんだんと腕が疲れてくる。


「……⁉︎ 眩しっ‼︎」


 腕の疲れが影響して、太陽光をもろに見つめてしまった。


 すかさず目をつぶり、太陽から避ける。


「あらまぁ、真剣になっちゃって」


 笑う母を肘で突いて私は先を歩く。


「ちょっと待ってって」


 追いかける母から逃げるようにして、私は駆け出した。


 次第に母の足音が、歩きから早足へ。早足からジョギングへと変わる。


 そうして急な追っかけっこは、私の家に着くまで続いた。


 もともと私の家は海が近いこともあって、走っていればすぐに着いてしまう。


 友達からは「津波とか怖くない?」と言われるけれど、私は、この家が気に入っている。


 窓を開けると潮辛い海の匂いが部屋中に広がり、船の上にいるのではないかとも感じられる。


 私は部屋に戻ると、今日拾った石を机の上に飾った。


「うん。綺麗に飾れた‼︎」


 自分のものを飾るセンスに惚れ惚れして、私はそれをずっと眺めていた。


 眺めれば眺めるほど、その透明感はどこからきているのだろうと思い、こんなものがどうして海辺にあるのか、この石はなんなのかと調べてみた。


 ガラス石というものだということがわかった。


 ガラス石は、瓶などが海の近くで割れ、そのカケラが砂などで削られてできるらしい。


 割れたばかりのガラスは角があり、よく怪我をしてしまうが、その角を砂が削ってくれたことで、丸みを帯び、危険なものではなくなっていた。


「へぇ〜ガラスってこんな感じにもなるんだ」


 最近はあまり使わなくなったガラス。


 瓶からプラスチックへと変わっていく時の流れは、海辺の景観も変えてしまうのかもしれない。


 それは、決していい方向とは言い難い。


 海岸にゴミが流れ着くのと、ガラスが流れ着くのでは、明らかにプラスチックの方が景観が悪い。


 今日行っただけでも、何個かプラスチックゴミを見かけた。


 私はそれをみた時、その場に近づくことさえも躊躇ってしまった。


 こんな汚い海岸じゃなかったのに…


 もっと綺麗な砂浜が広がっていたのに…


 一応、海辺でゴミ拾いをするボランティア活動があるらしいということは知っているが、それでは全然追いついていない。


「私も、海岸を綺麗にしなくちゃ」


 あの頃の砂浜にはもう戻れないかもしれないが、近づかせる事くらいなら…


 そう心に決めて、私はまた、家を出た。

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海辺のガラス EVI @hi7yo8ri

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