アリスの親切心

 アリスは小説を片手にログハウスから村長の家を目指していた、小走りだったしのも相まってフィリップの背中が小さく見えた。

 アリスが村長の家に近づいたとき、家の中から爆発のような怒鳴り声が聞こえた、雷のようでもあったから何を言っているのか分からなかった。


 アリスがそんな家の前側に回ったとき、フィリップは家の壁に背を預け座っていた。

「ねぇ、お話とか好きなんでしょ」

 というアリスの手には小説が握られていた。半ば押し付けるようフィリップに渡した。

「あ……ありがとう」

「さっき、中から凄い怒鳴り声聞こえたけど、どうしたの」

「……僕が戻るのが遅かったのと。お父さんの腰痛に効く薬草をとってきてなかったから、ぶたれたんだ……」

「大丈夫?」

「まぁ、もう慣れてるし」


 自称生物学者と用心棒は暫く雑談を続ける二人の横を通り過ぎた。

 ジョンはフィリップの持つ本に気がついたらようだった。

 アリスはルークの持つ狐を発見し、狐の肉は始めていただと思い少しわくわくした。

 ジョン達が家の中に入っていくのを見て、

「私たちもそろそろ家の中入んない?」

 と疑問形で言ったのにアリス一人で家の中へ向かっていた。


「これはいい、上等の狐ですな……いつまでもこの村にいていただけるとありがたいのですが」

 村長は狐の肉を大いに喜んだ。

「いえ、まだまだ先に行かなくてはなりませんから」

「そうですか、残念ですな、おい、マルガリータ狐の肉も頼む」

 マルガリータと呼ばれた若い女、恐らく女中は「はーい」と肉感のある返事をした。


 その日の昼食は少しスパイシーな狐肉とサラダ、リンゴだった。サラダは凄く健康にいいらしい。何がどう良いのかはわからなかった。

 今回もルークは爆速で食べた。

「何か面白い虫はいましたか?」

「えぇ見たことないのがいましたが、でも私の研究対象の虫はいませんでした。なので今日の午後にでもここを出て、先に進みたいと思います」

「そうですか、こんな田舎でも見たことないようなのがいるんですねぇ」

「えぇ本当に、新種かもしれませんが、専門外なのでなんとも……」


 ログハウスに戻った三人は手際よく車に荷物を積みなおし、ものの数分で出発できる状態となった。

「挨拶を最後に軽くしておこう」

「昔から律儀だな」

 ジョンが律儀なのはルーク曰く昔かららしい。


「——それではありがとうございました」

 ジョンは律儀だった。

 アリスは軽く手を振るにとどめていた。

 ルークは特に何もなかったが、何か言った方がいい空気感だと思い、

「ビーフシチューおいしかったです」

 とだけ言った。

 ややけたたましいエンジン音で三人を載せた車は発進した。


 暫くして、

「アリス、お前、前に読んでた小説、あげちゃったのか」

 運転中に前を向きながらジョンが呟いた。

「そうよ、お話が好きらしいからね」

「……」

「それどういう反応? 古本一冊分損した、なんて考えてないわよね」

「そうじゃなくてさ、あの子、字読めるのかなって」

「……」

 アリスはフィリップが普通の都会の人は学校に行くのか、という質問を思い出した。


 

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