おばあさんは洗濯におじいさんは芝刈りに

 おばあさん、ではなくアリスは朝からフィリップと一緒に森の中で食べれる食材を探していた。辺りに人の姿はない。

 森の中はひんやりと涼しかった。


 アリスは内心なんで私が……と悪態をつきた気分だった。

「――それで、この植物は食べれます……」

 説明がはっきり、くっきりしないフィリップという少年もアリスの気分を悪くしている。フィリップというなんにでもオドオドしているような人は、旅をする自由人からかなり距離があって、彼女が一番苦手なタイプの人だった。

「分かったわ」

 自分中心の子を少しオーヴァーに演じつつアリスはとっととオドオドしている、小ボナパルトから距離を取ろうと画策した。

「あ、あのさ、外の国とか村だと、こうやって同年代くらいの子と一緒に何かするって普通なの?」

 少々奇怪な質問をされた。

「まぁ普通ね、私はよくロリィタって子と学校の終わりに野いちご取ったりするわ」

「やっぱ普通なんだ……僕、小さい頃から同年代の子と遊んだことなくて……それと都会の子は学校、行くんだね」

 アリスはフィリップに感じていた違和感の正体は人間なれしていないような態度だったのだ。めんどくさそうと思いつつも、フィリップに少し興味が湧いてしまった。


 食材を取ろうとかがむ時にフィリップに背中向けると、マントを着ていても銃があることが分かってしまうので、かがむ向きに注意する必要があった。しかし、別に分かって悪いことがあるわけでもないし、正面から見たときに革のベルトがある時点で想像できることで、気にする必要はないはずだがアリスの中の1パーセント程の乙女心が気にしたのかもしれない。

 適当に食材を取っていると森の奥からくぐもった銃声が聞こえた、アリスは今夜の料理は豪華になるだろうと確信した。

 

 作業中、暇でアリスは話しかけた。

「ねぇ、フィリップって何か好きな事とかあるの?」

 アリスは少し雑談でもしてみようと思ったのだ。

「すきなこと……童話とか、お話を考えるのが……好きかも」

 その後も色々聞いたがはっきり自己主張した返事は一回もなかった。


「あの、そろそろ、帰りませんか、これだけ集まれば充分でしょうし」

 もうそろそろお昼ごはんだ、丁度お腹が空き始めていた。

「ちょっと、ログハウスに物を取りに行ってきていい?」

「あ、はいどうぞ、先帰ってますね」

 アリスはお話を考えるのが好きだといった少年に、昨日読み終わった小説をプレゼントしようと考えたのだ。


 おじいさん、ではなく自称、生物学者と用心棒は森で狩りをしていた。

「お前、こういう時だけ、自制心あるのな」

「だまれ、察知されたらどうする」

 25メートル程先に茶色い狐がいた。ルークはライフルを微動だにせず構えていた。彼なら外すわけのない距離だ。

 フッと息を吐いた次の瞬間、静かな森に銃声が響いた。鳥が辺りから飛び立っていった。

 狐の元に駆け寄ると、頭を一発で打ち抜かれていた。狐に食われていたネズミの死体が生々しかった。

「革、売れるな」

「宿屋料としてボナパルトさんに献上だろ」

「それはそうと、生物学者の仕事はいいのか」

「見たことない虫がいた、固有種かもしれない、って言っとくさ」

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