第4話 拷問
「【錬成の魔女】だと……? バカな、あり得ん……どう見ても、子供ではないか!」
ジャンボ神父は手配書の人物像を思い出す。
7枚の手配書に描かれた姿は、いずれも老婆の姿が描かれていた。
それは【錬成の魔女】も同様だ。
ブロンドの髪は一致しているが、深く刻まれた皺に、猛禽類を思わせる鋭い眼光、枯れ木のような痩せ型の老女の姿だったと認識している。
断じて、子供の姿などではない。
なにより、手配書が発行されたのは、50年以上も前のことだ。
「あり得ないって言うんなら、理由は一つしか考えられねぇだろ? アンタらがよく言う『魔法』の仕業だ。アタシが本物の【錬成の魔女】って証明だな」
「しょっ、処刑だ! この魔女を処刑する!!」
神父は未知の存在に恐怖を抱きながらも、勇敢にも立ち向かおうとする。
心意気は立派だが、顔面蒼白で四肢は震えており、まともに抵抗できる様子ではなかった。
「シャルル、その神父を拘束しろ。聞きたいことが山ほどある」
「了解ッス、師匠。そーいうことなんで、大人しくしててくださいねぇ〜」
「や、ヤメロ! 私に近づくなぁ!!」
満面の笑みを湛えたシャルルが義肢で神父の衣服を凍らせ、彼の身体の自由を奪っていく。
そんな作業を横目に、メイジーは処刑間際だった少女を見やる。
赤頭巾の幼女が、昔話に聞かされた魔女であると知り、神父のように萎縮してしまっていた。
メイジーは鼻を鳴らすと、懐から指輪を取り出し、それを少女に投げ渡した。
銀色のシンプルな指輪だ。小指の爪程度の、小さな白い石が嵌められている。
怯える少女に「つけろ」と命じると、恐る恐るに指に嵌めた。
すると、白い石から一本の光の筋が発せられた。
光は、森の奥に向かって伸びていた。
「アンタはもう、この村では生きれない。爺さんと一緒に出てった方が賢明だ。その光を辿っていけ。10日くらいすれば、アンタらみたいな『冤罪者』を匿ってくれる連中のところに着ける」
「…………」
「それとも、死にてぇのか?」
ギロリと猛禽類のような、幼女らしからぬ眼光で射抜く。
少女は小さく悲鳴を漏らすと、覚束ない足取りで逃走していった。
それを見送ると、シャルルと神父の元に歩み寄った。
「どうだ、準備の方は……おぉ〜、いつになくガッチガチに凍ってるじゃねぇか」
「ビビってた割に抵抗されたんで、ついイラッとしちゃいました。もう少し凍らします?」
「ヤメロ、コイツが凍死して尋問どころじゃなくなるだろうが。テメェは限度ってヤツを覚えろ」
メイジーのローキックがシャルルの膝裏に命中する。
バランスを崩し転倒したシャルルの隣で、凍えているジャンボ神父の頭を掴む。
そして、恫喝的な低い声色で、尋問を開始した。
「神父様よぉ……アタシたちは、ある男を探してるんだ。ソイツについての情報が欲しい」
「わっ、私は女神様に使える聖職者である。断じて、罪人に屈したりはしない。まして魔女である貴様なんぞに……」
「あぁ〜……そういう正義感みてぇの、イラネェんだわ。お前はただ、聞かれたことだけを答えろ。お分かり?」
気怠そうに問いかける。
しかしジャンボ神父は、それが聖職者としての意地であるかのように、首を縦に振らなかった。
魔女は悪である──そう信じる彼の信仰心は立派だろう。
しかし不幸なことに、この魔女は『短気』であった。
「……シャルル、もげ」
「あ〜ぁ、俺は悪くないッスよ? 素直じゃない神父様が悪いンスからね?」
「な、なんだ? 何をする気だ?! もぐって、どういう意味だ?!」
言葉の意味を理解できず狼狽する神父の左耳を、シャルルの義手が掴む。
たちまち極度の冷気によって、神父の耳が冷却されていく。
最初は感じていた掴まれている感覚が、次第に薄まっていき、逆に冷たさが増していく。
やがて『冷たい』が『痛い』に変わる、しかしすぐに何も感じなくなる。
直後、凍りついた左耳が神父の顔からもぎ取られた。
「ぎっ……ぎゃあああ──」
「ウルセェ、誰も悲鳴を上げろとは言ってねぇだろ」
絶叫を上げるために大きく開けられた口に、メイジーの小さな拳が突っ込まれる。
嘔吐きながら、左耳のあった箇所から徐々に伝わる激痛に、神父は自身に待ち受ける残酷な未来を予見する。
慎重に、彼女らの機嫌を損ねれば、再びシャルルによって、身体のどこかをもぎ取られるだろう。
冷却されるので、痛みに耐えきれず発狂も出来ない。
出血も抑えられるので、失血死も出来ない。
「もう一度だけ、分かりやすく言ってやる。私が聞いたことに、テメェは答える。そうすれば、皆がハッピーになれる。聞かれたことにだけ答えろ。お分かり?」
ジャンボ神父の口から、小さな拳が引き抜かれる。
もう彼には、抵抗の意思は残っていなかった。
哀れな聖職者に出来ることは、メイジーが納得する答えを返すことだった。
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魔女狩リ狩リ~錬成の魔女と眷属の復讐劇~ @CSchannel
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