第3話 彼氏
「そうなんですね。確かに、美祢さんたちはウソをつくことがありました。私は、華乃さんと葉恋さんと蓮斗さんを信じます。」
この言葉を聞いて、私たちの3人は、ホッと息をつく。葵先生は、
「もう、先生は教室に戻りますね。3人も、戻ってください。美祢さんたちと話してみます。」
と、明るい声で言った。私と華乃は蓮斗に視線を向け、その視線がピッタリ重なった。
「蓮斗くん…、ありがとう!」
職員室から出た華乃は、顔を赤めながら蓮斗にお礼を言った。私も、その言葉に頷いて、頭を下げた。
「いや、大丈夫だよ。」
蓮斗は、ニッコリ笑いながら言った。華乃は、先に教室へと戻っていった。蓮斗は、華乃がいなくなったのを確認すると、消え入るような小さい声で、
「………葉恋ちゃんのためなら…」
と、呟いた。私は、不思議になって首を傾げるしかなかった。そして、私と蓮斗も一緒に教室へと戻っていった。戻る途中、蓮斗は1人でぶつぶつ何かを言っていた。でも小さい声だったから、よく分からなかった。
「はい、ではホームルームを始めます。今日の朝の時間は、文化祭の用意や準備です。みなさん、責任をもって、一生懸命頑張りましょうね。みなさんで、楽しくて良い思い出になる良い文化祭を描いていきましょう!」
クラスのみんなが席に座ったあと、葵先生は手を叩きながら元気よく言った。さっき私たちを怒鳴りつけていたときの声と、全く違う。ちなみに、文化祭は、10月26日に行う予定らしい。今はもう9月16日なので、あと1ヶ月くらいだ。私は、お姫様の衣装をお母さんに頼んで作ってもらった。私は、結構気に入っていて、家でも試着で2時間着ていた。ちなみに私は、コスプレカフェの看板作り役だ。私は結構字と絵が上手い方だと思う。だから、念入りにやっていこうと、心に決めた。
「あれ、葉恋ちゃん。葉恋ちゃんも、看板作り役なの?」
声をかけてきたのは、蓮斗だった。蓮斗も、看板作り役なのを思い出して、私は胸がドキドキした。看板作り役は、私と蓮斗だけだった。だから、話したいことも沢山話せると思ったけど。さっきから沈黙が続いている。静かに看板に大きく「コスプレカフェ」と書いて、隣にコスプレ姿の女の子と男の子を描く。この作業は楽しかったけど、蓮斗といると妙に緊張した。出来上がった看板を見て、蓮斗は明るく言う。
「わあ、すごい。葉恋ちゃんって、字と絵も上手いんだね。すごい良いのができたよ。後でみんなに自慢してこようっと」
「そ、そんなことないよ…!」
何だろう、蓮斗といると心が温かくなって、気持ちが明るくなれる気がする。しかも…。
「そういえば、さ。葉恋ちゃんって、彼氏とかいる?」
「え?」
急な展開についていけなくて、私はビックリした。そんな私を見て、蓮斗は顔を赤く染めながら言った。
「い、いないけど…」
私が静かに答えると、蓮斗は動きを止めて言った。
「僕…。葉恋ちゃんといると、楽しいんだ。他に女子とは違う。葉恋ちゃんといる時間は、なぜか特別だった。それで僕、気がついたんだ。」
「な、何を…?」
私は、言葉の続きを確かめるように言った。私はゴクリと唾を呑む。なんか、嬉しい。私といる時間が特別、か…。
「僕、葉恋ちゃんのことが好きだなって。だから、その…。つ、付き合ってほしいんだ。でも、強引じゃないからフラれてもいい。フラれても、仲良くしたい。」
え…?……え……?私、今告白された?え?蓮斗に?私が?私は、言葉を探しながら黙ってるときに、ある言葉が浮かんだ。
『蓮斗くんと、全っ然釣り合わないじゃない!』
クラスの女子が、私がお姫様だと聞いて言ったセリフ。この言葉が、私の心を刺した。私はそれ以上に傷ついた。蓮斗と実際に付き合ったら、女子たちに何を言われるか分からない。でも、私は蓮斗のことが少し気になっている。今は、自分のことを信じよう。私はそう決意して。蓮斗と面に向かって、言った。
「…うん。私も、最近蓮斗くんのことを意識し始めて、気になってきたの。私なんかでよければ、付き合ってほしい。クラスの女子に何て言われるかは分からないけど…。私は、もっと強くなってみせる。」
そんな変なことを蓮斗の前で言いながら言った。この言葉に、蓮斗は表情を明るくして言った。
「うん…!ありがとう、葉恋ちゃん。僕が、彼氏として葉恋ちゃんを守ってみせる。」
「ありがとう、蓮斗くん。……蓮斗くんのこと、「蓮斗」って呼び捨てでいいかな。」
「うん…!もちろん。僕も、葉恋ちゃんのこと、「葉恋」って呼ぶよ。」
私は、幸せの絶頂だった。こうして、彼氏ができて。守るよって言ってくれて。私は、初めて「恋愛って案外面白いし楽しいな。」って感じた。そして、自分にも優しくできるようになった。そして、朝の時間が終わって、席に着いた。葵先生が、号令をかけて1時間目の授業が始まった。そして、今日も何だかんだ女子たちに睨まれながら、1日が過ぎていった。下校する時も、蓮斗は私と一緒に帰った。蓮とは、いつもよりやけにニコニコしている。私も、表情が穏やかになってきていて、心の底から笑えるようになってきていた。彼氏のパワー、蓮斗のパワーってすごい。学校でも、
「葉恋ーー!」
と、よく声をかけてくれる。そのせいで女子たちに睨まれるのだが、私はそんなの気にしない。陰口も叩かれた。けど、蓮斗が約束通り守ってくれた。
「ねえねえ…。蓮斗くんと葉恋、付き合い始めたらしいよ。」
「え…、葉恋興味なさそうだったのに、どうして…?」
こういう陰口でも、
「僕が告白したんだ。もう、悪口などはやめてくれない?僕の好きな人と付き合って何が悪いの?」
と、蓮斗はすかさず返してくれる。私は、その度に蓮斗にキュンとしてしまうのだ。そのおかげで、女子たちが私を言うことが少なくなってきた。私と蓮斗は、一日中ほとんど一緒にいる。お互いのLINEも交換し、いつ、どこでもチャットできるようになった。夜になったら、「また明日ね♪」とか、「寂しいな〜明日ね〜」と、いろいろチャットをしている。今までは心に陰があったけど、蓮斗と付き合い始めてからは、心に光が差し始めたような気がした。蓮斗に感謝だ。でも、私と蓮斗はどちらも恋愛初心者。恋愛のことなど、いまいちよく分からない。普通に付き合って、普通に笑って、いつもより楽しい日々を手に入れるだけでいい、と思っていたけれど。ある日家に、見知らぬ女性がきた。誰か分からなかったので、
「ど、どなたですか?」
と声をかけると。その女性は、思ったより高い声で、ニッコリして言った。
「私は、恋愛マスターの翠月と言います。「翠月様」とお呼びください。私は、恋愛初心者の方々の前に現れます。この世の中を、恋愛が上手くいくような、甘い世界を導く者です。どうぞ、よろしくお願いします。」
え…?恋愛マスター?よろしく?この人、一体何を言っているの?!
恋愛マスター「翠月」様のお通りです! 星尾月夜 @yyamaguchi
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