第3話

 「ななちゃん! ななみ!」 


 ななみ……それが名……この肉体の持ち主……

応じようと口を開けたが……出ない。声が出ない……


「先生! 心拍戻りました!」

「まさかこんなことが」


「良かった! 良かったねえ!」

そう言って彼女は手を取った。


 温かい……


 その温かさに私はここが死後の世界では無いとはっきり知覚した。

 この方は……母君……であろうか?

白衣の男は医者と見て間違い無いだろう。そして助手らしきご婦人が2名……

随分と手厚い看護を受けていたようだ。このななみとやらはかなりの身分のよう

だが……


 「ななみ!」


 息を切らし、男が駆け込んできた。

様子から見て身内、それもかなり近しい者であろう。

身なりから見て、武士かそれに近い階級の者のようだが…… 

 

「先生、ななみは」

「あなたは……」

「ななみの父です。先生、ななみは、娘は無事なんですか!?」


 娘? この者の父君か━━

何か発語できれば良いのだが……今は視線を送るのが精一杯だ。

しかし、声が出たとしてもなんと伝えれば良いのか……


「良かった……無事なんだな」

「あなた」

「八重」

「……今ごろ来て……」

「大丈夫なのか」

「……ええ」

「あの、すみません、少しよろしいですか」

「はい」


 そう言って三人は部屋を出て行った。

 

 ━━それにしても、何と言うか細い腕だ。

 とにかくも現状を把握しなければならない。まずはこの肉体の情報が必要だ。

 全体の体格から察するに、本来はもっと肉付きが良くてしかるべきだろう。まるで数日間、何も食べていなかったのかのような体。何より生きる気力を感じない。


 それは私も同様か。


 左腕、手首周りのこの幾筋もの傷跡。

そして右腕……

相当な事情があったのだろう。自刃した私ではあるが、だからと言って彼女の苦境心情が分かるなどとおこがましいことは言えぬ。ともかくも、今は回復に努めるほかはあるまい。しかし━━


 回復したとして再び刀を振るには相当の鍛錬が必要だろう。

何より一度は死んだ身。再び生を受け……いや譲り受けた? そう言って良いのだろうか? 


 【つづく】


 


 



 

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ぶしたま! 宮藤才 @hattori2525

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