44 旗艦出発


 12歳になる少し前に俺たちは出発する。目的地は宝石を額に持つ人類種のいた星域だ。


 偽装艦ミミックもしっかりと外観は旗艦アルセウスに見えるようになった。そのミミックの機能である迷彩効果を搭載した本物の旗艦アルセウスは中継地点をいくつもワープしながらの移動を計画していた。


 あまりにも巨体で移動だけで偽装がバレてしまいかねない旗艦は、中継器によって移動ポイントを作り短中距離ワープによっての移動がもっとも効率的であると決定がなされた。


「もうすぐ出発だねリン」


「はい、村とも少しの間お別れですね」


「って言っても中継器が安定したら前みたいに超長距離でマテリアルボディーの操作もできると思うけど、ラグとか発生して無理な可能性もあるからな~そこは粒子加速の限界の距離がどれくらいになるかによってきまるけどね」


「超科学に関しては私もまだまだ勉強不足です、コロスケのサポートなしにはまだまだですね」


 コロスケはアシスタントAIとしての役割をしっかり果たしているようだけど、ヒヒラの持つアシスタントAIタモンマルだけはかなり独自の思考回路を持っているようで、なぜかオネエ言葉でサポートしているとか。


「メアルになってお仕事もしばらくはお休みなんですね~、できた隙間時間は何をすればいいのでしょう」


「子どもでも作るかい?」


「子どもはまだ早いです」


「だよね」


 心の準備というものがいるらしい。肉体ではなく精神の問題だともリンは言う。


「ヒヒラが出産するのは来月ですから、お産を手伝って子育ても手伝って色々学びたいですね」


 ヒヒラが俺の子ども妊娠したと知ったのはついこの前だったけど、教育者としての日々に没頭しすぎて言うのを忘れていたと言っていた。


 18で初出産は村では珍しい部類であり、16で結婚してその年に出産がほぼ決まっている。


「ヒヒラの後がまさかタノメお姉さんとは思いませんでしたけど」


 ジト目で見てくるリンに俺は眉を困らせてしまう。タノメ姉さんは村にマテリアルボディーを置いて実家で五女クルアと六女メナと七女クオンの面倒を見てくれる予定だけど、その前に旗艦にて妊娠が発覚してそれが俺の子どもであることは既に周知の事実だ。


 ウルフェン仕様のマテリアルボディーでタノメ姉さんとは何度かそういう行為を行ったけど、まさかこんなにも早く子どもができてしまうとは思わなかった。


 そもそも俺が手を出しているのは妻を外せばタノメ姉さんとメルダさんパドメさんだけだ。もちろんスズもここに入るけど彼女もまだ妊娠はしていない。


「そんなにお姉さんが好きですかそうですか――」


「これは確立論の問題だよ、俺がタノメ姉さんに対して数多く行為に及んだ経験はないよ、ただ姉さん自身が意識の無いマテリアルボディーから受精していてもおかしくはない、だから俺を責めるには間違っているよ」


「でもコロスケによるとタノメお姉さんはタジン様の入っていないマテリアルボディーで致している回数は0回だそうですけど」


 コロスケなんて有能なAIなんだ。


「初めての近親者だったから、ちょっと興奮してはいたけど他の時と変わらない繁殖行為だったと思うけど」


「……別にタノメお姉さんが特別ってわけではないと?」


「ま~姉だけど正直一緒に過ごした記憶はほとんど無いからな、むしろ他人のリンたちよりも知らない人って感じだぞ」


「つまり私は特別だってことですね?」


「そうだな、リンは特別だ」


 リンと会話をしているとヒヒラが俺を探していたのか声をかけてくる。


「やっぱりここにいた~、庭園にいるなんて聞いてないよタジン様」


「庭園ではなくてただのサクラのある広場だよここは」


「でもいるんですよね、なんでですか?」


「それはねヒヒラ、ここがこの艦の艦長が落ち着く場所なのかもね」


「ただリンが行きたがっただけじゃなくて?」


「もちろんそうだよ」


「もう、適当な話をするのは感心しませんよ、お腹の子もそんな子になちゃうと心配ですし」


「女の子だからヒヒラに似るさ」


 この艦にいるクルーや妻たちは妊娠しても遺伝子の操作によってちゃんと女の子だけが産まれるようになっている。これは宇宙統合機構基準法にある艦内クルーに関する基準法から定められている規則であり、たとえ不本意ながら男の子をどういう経緯で養子にしようとも性転換によって女の子にしてしまうほどに拘束力の強い基準法である。


「ヒヒラ~ようやく追いついた、お腹に子どもがいるとは思えない行動力だね、やぁタジン様」


 そうしてきたのはハクラで。


「ハクラどうしたのその格好、かなり気合入っている服だね」


「これビキニアーマーって装備らしいんですけど、ちょっと強そうに見えないよね、むしろ弱そう」


「それは違うよハクラ、その格好は間違いなく強い人が着るものだよ、防具などいらぬという体の強さと厭らしい視線にも何も感じないという心の強さ、間違いなく強者の身に付ける服だ」


「……たしかに!ん~何だかボク強くなった気がするよ!」


「うん!間違いなく強くなってるよ!色んな意味で!」


 リンもヒヒラも呆れているけどハクラが着ているビキニアーマーなる服は悪くない、かなりエッチな姿だ。


「ハクラ~まだ完成じゃないんだよそれ~」


「やぁシャユラン、その大きな剣は何?」


「あ~これはビキニアーマー用の大剣です」


 まるでおもちゃのようなそれをハクラが手に持つと彼女は不満そうな顔をする。


「素手じゃないのがやっぱり嫌なのかな?」


「でもでもビキニアーマーには大剣って決まってるんです」


「ならこっちの服にすればいいのに」


 俺はシャユランへ動画を送る。


「これは……なんですか?布面積が皆無な女性が素手で戦ってます」


「そういうコスプレもあるってことだよ、メイクだけになってもね」


「ふむふむ、なるほど、衣装がコスプレの極意ではないわけですね、むしろそのキャラクターになり切るなら裸すらも、と?」


「もちろんさ」


 俺のコスプレの極意なんて分かるはずもない。


「でもこうして五人でのんびりできるといいな」


「もう、タジン様、五人ではないですよ」


 スズにリリリカにリヌンにパナメにフェイランにハミャン、それにロクトアル・レクエウストンことアルにリシアーヌ・デルシアスタもゼシリアもね。


「連れて行く人全員とのんびり楽しくできるといいですね旅行」


「……そうだね」


 リンは旅行というけれど、俺たちが今から向かう先は結構危険な人物組織団体がいる場所なんだけどね。今はまだ知らなくてもいいかもしれない。


『宇宙統合機構基準時間13時45分、予定通り出発時間がやってきました艦長』


「うん、テセウス、アラームの役目ありがとうね」


『とんでもございません』


 ホロのテセウスは制服を身に纏い宙を浮遊する。


『艦長準備はよろしいですか?』


 マテリアルボディーのアルセウスが新しい制服で俺に微笑んでいる。


「ああ、準備は完璧だよアルセウス」


『それでは旗艦アルセウス、出発します』


 これは宇宙統合機構ミスレール黄星雲カースーン星域防衛艦隊第7艦隊旗艦アルセウスの新たな旅の始まりである。


 第一章 ~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第7艦隊の引継ぎ艦長~超弩級母艦アルセウスを添えて~ @tobu_neko_kawaii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ