第6話 お顔……舐めさせてもらうね?
「さ、さささ、佐久間さん! さすがにこの体勢は……!」
「んー? 何か問題がありますか?」
「も、問題だらけと言いますか……」
「いいじゃないですか。お互いの顔がとてもよく見えます。青葉くんが照れたらすぐに分かりますね」
今日の二人の距離は昨日よりも近かった。
彼女は僕の首に左手を回し、右手は僕の頭の上にポンっと載せている。
彼女に指示されて僕も同じように彼女の首回りに手を絡めていた。
顔が近い。
強風が吹いたらその弾みでキスしそうな危うさがある距離感だった。
「台本のセリフは暗記しましたか? 準備が出来たら優君からお願いします」
この状況であのセリフか……
状況が嚙み合い過ぎていて恐ろしい。
『美咲のことが好きだ。もし俺の告白を受け入れてくれるなら……そのまま目を閉じて俺の唇を受け入れてくれ』
「んぅぅ~~! 受け入れましゅぅぅぅ!」
唇を尖らすな。危ないなぁ。事故って触れ合ったらどうするつもりだ。
「次は佐久間さんの番だよ。暗記したセリフ言ってみて」
「う、うん」
さすがの佐久間さんも若干緊張しているようだ。
珍しく声が震えている。
『優君。昨日のほっぺの味が忘れられないの。今日も……お顔……舐めさせてもらうね?』
昨日、頬を舐められたことで思いついたシチュエーションボイス。
あのドキドキをもう一度味わいたいと思ってこのセリフをリクエストしたのだが——
ぺろっ ぺろっ
「~~~~!?」
佐久間さんはおでこの辺りと鼻の上を本当に舐めていた。
「み、みみみ、美咲!?」
「うふふ。珍しいね。優君がシチュエーションボイス以外の所で私を名前で呼ぶなんて。これは頑張った甲斐あったなぁ」
「が、頑張りすぎだよ!? ちょっと青少年には刺激が強すぎるというか、恋人でもないのにこんなことをしてもらっていいの? っていうか」
「そうですね。私、いけない子です」
佐久間さんの瞳が妖艶に染まっている。
日に日に佐久間さんとの距離が物理的に近くなっていたのはさすがの僕も気づいていた。
「もっといけないこと……やっちゃってもいいですか?」
佐久間さんの両手が僕の両頬を包み込む。
ゆっくりと彼女の顔が近づいてくる。
「か、からかわないでよ!?」
さすがにこのまま流されてしまうのはまずいと思って彼女から距離を取ろうとするが、頬に添えられた佐久間さんの両手がそれを許してはくれなかった。
そして——
「「~~~~っ!?」」
ほんの一瞬だけ、僕と彼女の唇が触れ合った。
驚愕で目を見開いたまま硬直する僕。
とろんとした表情のまま硬直する佐久間さん。
そして——
「「ぷしゅぅぅ~~~~~っ」」
互いの緊張が解けた瞬間、昨日のリプレイのように僕達は同時に背中から倒れ落ちたのであった。
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