第3話 たくさん……優君の声を聴きたいな

 家に帰ってからASMRについて調べてみた。

 佐久間さんの言う通り、たくさんのASMR動画が存在していた。

 どうやら『シチュエーションボイスドラマ』というASMRジャンルが僕と佐久間さんのやっていることに近いようである。

 それにしても——


「こ、これ、やばいな」


 試しに何個か聞いてみたのだけど、想像以上に官能的な世界のようで、聞いていて身体の奮えが止まらなくなった。

 思っていたよりも……エッチなものもある。


 ——『では! 私も青葉くんにASMRを提供します!』


 佐久間さんはこう言っていた。

 彼女はどんなシチュエーションボイスを用意してくれるのだろう。

 想像しただけでドキドキが激しくなった。







「青葉くん。一つ勝負をしましょう」


 翌日の放課後、僕達は相も変わらず誰も居ない屋上に集まった。

 そして開口一番、佐久間さんがおかしなことを言いだした。


「ここに一つのASMRを持ってきました。青葉くんの為に私が頑張って収録しました。もし青葉くんがこれを気に入ってくれたら、私専用のASMR配信者になることを許可してください」


「……わかりました」


 佐久間さんからイヤホンを手渡される。

 すでにスマホの方に収録済のようだった。

 装着したイヤホンから佐久間さんの甘い声が流れてくる。


『……優君……いつも放課後に会ってくれてありがとう……そして昨日は素敵なボイスをプレゼントしてくれてありがとう……私に出来ること……少ないけどさ……私なりに優君を癒してあげたいの……これからもさ……放課後……私と一緒にすごそ? たくさん……優君の声を聴きたいな……だめ……かな?』


 普段聞いたことがないとろけるような甘い声。

 ASMRのテクニックなのか、あえてマイクに近づいて収録されていたようで、佐久間さんの吐息も入り混じっていた。

 甘えるような視線を向ける佐久間さんと目が合ってしまう。


「……参った。参りましたよもう! こんな風にお願いされちゃ断れるわけないじゃないですか」


「やったぁぁ! ありがとう青葉くん! 嬉しい!」


「佐久間さん。ASMRめちゃくちゃ上手なんですね」


「えへへ。青葉くんに褒められた」


「あとASMRの世界では僕を名前を読んでくれるんですね」


「だ、誰だって苗字より名前で呼ばれた方が嬉しいじゃないですか」


「確かに……! 正直一言目の『優君』の時点で僕は敗北してました」


「おっとぉ。もしかして青葉くんは名前呼びフェチですか? ふふん。良いことを聞きました」


「どうやらそうみたいです。もし良ければ普段から『優』って呼んでもらえませんか?」


 僕は勇気を出して提案すると、佐久間さんは悪戯っぽく妖艶に微笑んだ。


「どうしよっかなぁ~。収録の時だけ名前呼びにした方が高鳴りません?」


「……まぁ、一理ありますね」


「というわけで私から名前呼びをしてければ、明日からもここに来てくださいね。一緒にシチュエーションボイスで楽しみましょう」


「中々小悪魔だね。美咲」


「~~~~っ!? い、いいいい、今、私を名前で呼びました!?」


「おっと。口が滑っちゃった。名前呼びはASMRの中だけだったね。これからは気を付けます佐久間さん」


「わ、私は別に名前呼びフェチじゃありませんから? ふ、普段から『美咲』呼びでも全然構いませんけど?」


「それじゃあ佐久間さん、また明日」


「もぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 こうして僕と佐久間さんとの秘密のASMRな一時はこれからも続くことが決定した。

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