超越的存在に愛された少女の、終わらない悪夢(旧:「世界」に愛された女の子)

アールグレイ

超越的存在の愛

「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

優しい声が耳元で聞こえ、まぶたをゆっくりと開ける。

「ん……おはよう、アキ」

目の前にいるのは、太陽のような笑顔を浮かべた幼馴染のアキ。いつものように、彼女は私のベッドの脇に座り、私を起こしに来たのだ。

「今日もいい天気だね。一緒に学校行こう」

アキの手を取ってベッドから起き上がり、窓の外を見る。青い空、白い雲、そして遠くに見える学校の校舎。

「うん、行こう」

私は、アキの手を握り返し、笑顔で答える。

私たちは、いつも通りの朝を過ごした。一緒に朝食を食べ、学校へ行き、授業を受け、部活に参加する。

放課後、アキと二人で商店街をぶらぶらする。たこ焼き屋に寄り、熱々のたこ焼きを頬張る。

「美味しいね、アキ」

「うん、美味しい!」

私たちは顔を見合わせて笑い合う。なんてことない日常の風景。だけど、私にとっては何より大切な時間。

夕暮れ時、私たちは公園のベンチに座り、沈む夕日を眺める。

「今日も一日楽しかったね、ユウキ」

アキが私の肩に頭を乗せてくる。私もアキの頭に自分の頭を乗せ、静かに目を閉じる。

(アキと一緒なら、毎日がこんなに幸せなんだ)

私は、心の底からそう思う。

夜、アキと別れて家に帰ると、私はベッドに倒れ込む。心地よい疲労感と、アキと過ごした幸せな一日の余韻に浸る。

(明日もアキと楽しい一日を過ごそう)

私は、そう心に誓い、深い眠りに落ちる。

しかし、この時、私はまだ知らなかった。この幸せな一日が、永遠に繰り返される運命にあることを。


「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

聞き慣れたアキの声で目が覚める。昨日と同じ、アキの笑顔。

「おはよう、アキ」

反射的に返す言葉も、昨日のものと全く同じ。

朝食のメニューも、登校中の会話も、授業の内容も、全てが昨日の繰り返しのように感じる。

「あれ? この話、昨日もしたっけ?」

思わず口に出た言葉に、アキは一瞬目を丸くするが、すぐにいつもの笑顔に戻る。

「え? 何の話だっけ?」

アキの反応に、私は首を傾げる。気のせいだろうか?

放課後、アキとたこ焼きを食べながら、私は昨日のことを詳しく思い出そうとする。しかし、記憶は曖昧で、断片的にしか思い出せない。

「ユウキ、どうかした?」

アキが心配そうに私を見つめる。

「ううん、なんでもないよ」

私は笑顔を作るが、心の中の違和感は消えない。

夜、ベッドの中で、私は昨日のことを必死に思い出そうとする。しかし、思い出せるのは、アキと一緒に笑ったり、話したりした楽しい記憶ばかり。

(もしかして、私、何か大切なことを忘れてる?)

不安が胸をよぎる。しかし、その不安もすぐに眠気にかき消され、私は深い眠りに落ちていく。


翌朝、再びアキの声で目が覚める。

「おはよう、ユウキ。今日も一緒に楽しいことしようね」

アキは、昨日と同じ笑顔で私を見つめる。私は、その笑顔に安心感を覚えながらも、心の中の違和感は拭えないまま、アキと一緒に新しい一日を始める。

しかし、この繰り返される日常の中で、私は少しずつ、確実に、何かがおかしいと感じ始めていた。


「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

聞き慣れたアキの声。しかし、今日は違う。私は目を開ける前に、この声が何度も繰り返されてきたことを理解していた。

「おはよう、アキ」

私は、ベッドから起き上がり、アキを見つめる。いつもと変わらない笑顔。しかし、その笑顔の裏に隠された真実を、私はもう知っている。

「今日も一緒に楽しいことしようね」

アキは、そう言って私の手を握る。その温かさに、私は一瞬心が揺れる。しかし、私はもう、この偽りの現実に騙されることはない。

「アキ、教えて。これは何?」

私は、アキの目をまっすぐに見つめ、問いかける。アキは、一瞬表情を曇らせるが、すぐにいつもの笑顔に戻る。

「え? 何が?」

「この毎日。同じことの繰り返し。私は、何か大切なことを忘れている気がする」

私の言葉に、アキは沈黙する。そして、ゆっくりと口を開く。

「ユウキ、あなたは何も間違ってないよ。ただ、少し疲れてるだけ。今日はゆっくり休んで、明日また元気な姿を見せてね」

アキは、そう言って優しく私の頭を撫でる。

しかし、私はもう、アキの言葉に騙されない。私は、この繰り返される日々から抜け出す方法を見つけなければならない。


夜、私はアキと寝落ち通話をしてアキが眠りについたのを確認し、こっそりと家を出る。夜の街を歩きながら、私は必死に記憶を辿る。

しかし、思い出せるのは、アキと一緒に笑ったり、話したりした楽しい記憶ばかり。嫌な記憶、不穏な記憶は、まるで霧がかったように曖昧だ。

(どうして思い出せないんだろう……?)

焦燥感が募る中、私は人気のない路地裏へと迷い込んでしまった。

すると、突然、ガラの悪い男たちが私の行く手を阻んだ。

「おいおい、こんな時間に可愛い女の子が一人で何してるんだ?」

「もしかして、寂しいのか? 俺たちが相手してやろうか?」

男たちは、ニヤニヤと笑いながら私に近寄ってくる。私は恐怖で体が震え、後ずさる。

「やめて……来ないで……」

「そう言うなよ、お嬢ちゃん。俺たちと遊ぼうぜ」

男の一人が私の腕を掴み、強引に引き寄せようとする。

「いやっ!放して!」

私は必死に抵抗するが、男の力には敵わず、ずるずると引きずられてしまう。

その時、私の脳裏にある光景が蘇った。それは、アキと一緒に過ごした日々の記憶だった。

(助けて……アキ……!)

私は、心の中で助けを求める。しかし、誰もいない。この暗闇の中で、私は一人ぼっちだ。

その時、路地裏の入り口に、人影が現れた。

「アキ……?」

私は、かすかな希望を抱いてアキの名前を呼ぶ。しかし、アキは、いつもの優しい笑顔を見せることはなかった。

アキは、無表情で私と男たちを見つめる。その瞳は、まるで氷のように冷たく、底知れない闇を湛えている。まるで、この世のものではない何かを宿しているようだった。

男たちは、アキの姿を見て一瞬怯むが、すぐに虚勢を張ってアキに詰め寄る。

「なんだお前、邪魔するな!」

「おい、痛い目を見たくなかったら、さっさと消えろ!」

男たちは、アキに向かって罵声を浴びせるが、アキはまるで人形のように微動だにしない。

すると、一人の男がニヤニヤしながらアキに近づいていく。

「なんだ? お前も俺達と遊びたいのか?」

男は、アキの肩に手を回そうとする。しかし、アキはなぜか無抵抗だった。

「へへっ、いい子だな。じゃあ早速……」

男がアキに触れようとした瞬間、異変は起こった。

男の腕が、まるで蝋のように溶け出したのだ。

「うぎゃあああ!」

男は、悲鳴を上げて後ずさる。他の男たちも、その光景を見てざわめき、恐怖に顔を歪める。

「なんだ!?」

「腕が溶けたぞ!?」

アキは無言で、感情の無い瞳で男たちを見つめる。その姿は、まるで死神のようだった。

「この野郎!」

男の一人が、アキに殴りかかる。しかし、その手がアキに届くことはなかった。男は、まるで透明な壁に阻まれたかのように、その場で静止する。

次の瞬間、「ぐふっ……」という鈍い音が路地裏に響き渡る。男は、口から大量の血を吐いて倒れ、腹からは内臓がはみ出していた。

「ひいいっ!」

残りの男たちは、理不尽な恐怖に駆られ、一目散に逃げ出そうとする。

しかし、それは叶わぬ願いだった。

「ひぃ! ひぃ……!」

一人の男の全身が、突然発火する。男はもがき苦しみながら、黒い灰と化していく。

「ぐあっ!」

別の男の体が、あり得ない方向にねじれ始める。骨が砕ける音が響き渡り、男は絶叫する。

「俺たちが悪かった! だからゆるしっ」

最後の男が命乞いをするが、その声は虚しく空に消える。男の体は、みるみるうちに干からびていき、ミイラのように変化する。

私は、あまりの恐怖に目を背ける。そして、再び目を開けたとき、男たちの姿は消えていた。まるで、最初から存在しなかったかのように。

私は、恐怖で立ちすくむ。アキは、ゆっくりと私の方に歩み寄り、私の手を握る。その手は、いつも通り温かかったが、私はその温かさの中に、何か異質な、人間離れした力を感じた。

「もう、大丈夫だよ、ユウキ」

アキの声は、いつもと変わらない優しさに満ちていた。しかし、私は、その声の奥に潜む恐ろしい力を感じずにはいられなかった。

アキは、私を連れて路地裏を出る。夜の街は、まるで何もなかったかのように静かだった。しかし、私の心は、嵐が吹き荒れる海のように荒れ狂っていた。

(アキは、一体何者なんだろう……?)

私は、アキの手を握りながら、心の中で一つの疑問を抱く。そして、その疑問は、私を深い闇へと導くことになるのだった。


「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

優しい声が耳元で聞こえ、まぶたをゆっくりと開ける。

(また、この声……)

目の前にいるのは、太陽のような笑顔を浮かべた幼馴染のアキ。

(また、この笑顔……)

「今日もいい天気だね。一緒に学校行こう」

アキの手を取ってベッドから起き上がり、窓の外を見る。青い空、白い雲、そして遠くに見える学校の校舎。

(また、この景色……)

「うん、行こう」

私は、アキの手を握り返し、笑顔で答える。しかし、心の中は恐怖と絶望でいっぱいだ。


「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

優しい声が耳元で聞こえ、まぶたをゆっくりと開ける。

(また……?)

目の前にいるのは、太陽のような笑顔を浮かべた幼馴染のアキ。

(また……?)

「今日もいい天気だね。一緒に学校行こう」

アキの手を取ってベッドから起き上がり、窓の外を見る。青い空、白い雲、そして遠くに見える学校の校舎。

(また……?)

「うん、行こう」

私は、アキの手を握り返し、笑顔を作る。しかし、心の中は恐怖と絶望でいっぱいだ。

「ユウキ、起きないと遅刻するよ」

優しい声が耳元で聞こえ、まぶたをゆっくりと開ける。

(また……また……また……)

目の前にいるのは、太陽のような笑顔を浮かべた幼馴染のアキ。

(また……また……また……)

「今日もいい天気だね。一緒に学校行こう」

アキの手を取ってベッドから起き上がり、窓の外を見る。青い空、白い雲、そして遠くに見える学校の校舎。

(また……また……また……)

「うん、行こう」

私は、アキの手を握り返し、笑顔を作る。しかし、心の中は恐怖と絶望でいっぱいだ。


何度も繰り返される同じ朝。

何度も繰り返されるアキの笑顔。

何度も繰り返される偽りの幸せ。

私は、この終わりのない悪夢から逃れることができるのだろうか。


ユウキは、ある朝、いつものようにアキの声で目を覚ました。しかし、その声は、もはや心地よいものではなかった。それは、ユウキを永遠に閉じ込める呪いの言葉のように聞こえた。

「おはよう、アキ!」

ユウキは、満面の笑みでアキに抱きついた。しかし、その笑顔は、まるで仮面のように張り付いているだけで、心は凍りついていた。

「おはよう、ユウキ。今日も一緒に楽しいことしようね」

アキは、ユウキの笑顔を見て、安堵と喜びの表情を浮かべた。しかし、その瞳の奥には、ユウキを支配する歪んだ愛情が渦巻いていた。

ユウキは、アキと朝食を食べ、学校へ行き、部活に参加した。しかし、全てが虚しい儀式のように感じられた。昨日と同じ会話、同じ出来事、同じ感情。まるで、永遠に続く悪夢を見ているようだった。


放課後、二人は映画館へ向かう。ユウキは、アキの手を握り、楽しそうに話しかける。しかし、その心は、絶望と諦めで満たされていた。

映画を見終わった後、二人は公園のベンチに座り、沈む夕日を眺める。

「今日も一日楽しかったね、ユウキ」

アキが、ユウキの肩に頭を乗せる。ユウキは、何も言えず、ただ空虚な目で夕日を眺める。

夜、アキと別れて家に帰ると、ユウキはベッドに倒れ込む。

「ずっと、ずっと、一緒だよ」

アキの言葉が、頭の中でリフレインする。ユウキは、もう何も感じなかった。喜びも、悲しみも、怒りも、全てが色褪せていく。

突然、ユウキの頭の中にアキの声が響く。

「知ってるよ、ユウキがほんとは嫌がっていることも、本気で私を嫌いになったことがあることも」

ユウキは、恐怖で体を震わせる。アキは、ユウキの心の奥底まで見透かしているのだ。

「知ってる、すべての世界のあなたを……あなただけを見ているのだから……」

アキの声は、まるで囁きのように、ユウキの耳元で響く。

「そして、すべての世界の私が、ユウキだけが好きなの! えへへ」

アキの声は、楽しげに笑う。その笑い声は、ユウキにとって、この世で最も恐ろしい音だった。

「全存在、全可能性、全世界……すべては、あなたに収束するの」

「脱出できると思った? ふふ、ふふふ」

「言ったでしょ、すべての私がすべてのユウキが好きだって」

「ユウキはもうそういう存在なの! 私に愛されるだけの存在」

アキの言葉は、ユウキの心を容赦なく抉っていく。ユウキは、もはや抵抗する気力もなかった。ただ、アキの望むままに、永遠に続く朝を生き続けることしかできなかった。


翌朝、ユウキは、いつものようにアキの声で目を覚ました。

「おはよう、アキ!」

ユウキは、満面の笑みでアキに抱きついた。その笑顔は、まるで人形のように完璧で、感情のかけらも感じられなかった。

アキは、そんなユウキを愛おしそうに見つめ、微笑んだ。

「ずっと、ずっと、一緒だよ」

アキの言葉は、永遠に続く朝の始まりを告げる呪文のように、ユウキの耳に刻み込まれた。

ユウキは、アキの愛という名の牢獄に閉じ込められ、永遠に醒めることのない悪夢を生き続ける。繰り返される日々の中で、ユウキの心は徐々に壊れていく。


「ユウキ、今日の髪型も可愛いね」

アキは、ユウキの髪を優しく撫でながら、愛おしそうに微笑む。

「…うん」

ユウキは、力なく頷く。鏡に映る自分の姿は、以前とは別人のように見えた。生気のない瞳、無表情な顔。それは、まるで感情を失った人形のようだった。

「今日のランチは何がいい?ユウキの好きなオムライスにしようか?」

アキは、ユウキの好みを熟知している。それは、無限に繰り返された日々の中で、ユウキの全てを把握した結果だった。

「……なんでもいい」

ユウキは、食欲もなく、ただアキの言うことに従うだけだった。

「じゃあ、オムライスにしようね。デザートは、ユウキの大好きなイチゴのケーキも用意するね」

アキは、嬉しそうに笑う。その笑顔は、ユウキにとっては、もはや恐怖の対象でしかなかった。

学校では、アキはユウキにべったりとくっつき、周囲の視線を気にせずイチャイチャする。

「ユウキ、このペン貸して」

アキは、ユウキのペンを借り、わざとらしくユウキの手に触れる。

「……はい」

ユウキは、何も言えず、ただペンを渡す。

「ありがとう、ユウキ。大好きだよ」

アキは、ユウキの耳元で囁く。その言葉は、甘く優しい響きなのに、ユウキにとっては呪いの言葉のように聞こえた。

放課後、二人は手を繋いで下校する。アキは、ユウキの手をぎゅっと握りしめ、まるで離さないように歩く。

「ユウキ、今日は一緒に帰れて嬉しいな」

アキは、幸せそうに笑う。しかし、ユウキは、その笑顔に恐怖を感じ、逃げ出したい衝動に駆られる。

しかし、ユウキは逃げることはできない。アキの愛は、ユウキを永遠に束縛する鎖となっていた。

ユウキは、アキとの歪んだ愛に囚われ、永遠に続く悪夢の中で、ただ虚ろな瞳で明日を待つことしかできなかった。


ユウキは、まるで魂が抜けた人形のように、アキに身を委ねていた。教室での休み時間、アキはユウキの隣にぴったりと寄り添い、その腕をユウキの肩に回す。

「ユウキ、この前のドラマ見た?あのキスシーン、ドキドキしちゃった」

アキは、ユウキの耳元で甘く囁く。ユウキは、無表情のまま、アキの言葉に反応しない。

「ねぇ、ユウキもドキドキした?」

アキは、ユウキの顔を覗き込み、その瞳をじっと見つめる。ユウキは、アキの視線から逃れるように目を伏せる。

「ユウキ?」

アキは、ユウキの顎に指を添え、顔を上げさせる。そして、ゆっくりとユウキの唇に自分の唇を重ねる。

ユウキは、抵抗する気力もなく、ただアキのキスを受け入れる。それは、愛というよりも、義務のように感じられた。


放課後、二人は誰もいない教室に残る。アキは、ユウキを窓際の席に座らせ、その背後に立つ。

「ユウキ、綺麗だよ」

アキは、ユウキの髪を優しく撫で、その耳たぶに唇を寄せる。

ユウキは、何も言えず、ただ窓の外を眺める。そこには、いつものように沈む夕日が広がっていた。しかし、ユウキの心には、もはや何の感情も湧き上がってこなかった。

アキは、ユウキの首筋にキスを落とす。ユウキの体は、わずかに震える。それは、恐怖なのか、それとも快感なのか、ユウキ自身にもわからなかった。

「ユウキ、愛してるよ」

アキは、ユウキの耳元で囁く。その言葉は、甘く優しい響きなのに、ユウキにとっては呪いの言葉のように聞こえた。


ユウキは、アキの膝枕で横になっていた。アキは、ユウキの髪を優しく梳きながら、絵本を読み聞かせている。

「そして、王子様は眠れる森の美女にキスをして、彼女を目覚めさせたのでした」

アキは、絵本を閉じ、ユウキの顔を見つめる。ユウキは、目を閉じたまま、微動だにしない。

「ユウキ、このお話、好き?」

アキは、ユウキの頬に手を添え、優しく問いかける。ユウキは、ゆっくりと目を開け、アキを見つめる。その瞳には、何も映っていないようだった。

「……覚えてない」

ユウキは、かすれた声で答える。アキは、悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに笑顔に戻る。

「大丈夫、また明日読もうね」

アキは、ユウキの額にキスを落とす。ユウキは、そのキスに反応せず、ただ虚ろな目で天井を見つめる。

夜、二人は同じベッドで眠る。アキは、ユウキを後ろから抱きしめ、その温もりを感じながら眠りにつく。

「おやすみ、ユウキ。大好きだよ」

アキは、ユウキの耳元で囁く。ユウキは、何も言わず、ただアキの腕の中で身を委ねる。


朝、ユウキは、アキの声で目を覚ます。

「おはよう、ユウキ。今日も一緒に楽しいことしようね」

アキは、いつものように笑顔でユウキに語りかける。ユウキは、無表情のまま、アキを見つめる。

「……うん」

ユウキは、力なく頷く。アキは、ユウキを抱きしめ、優しくキスをする。

ユウキは、アキの愛を受け入れることしかできない。それは、永遠に続く悪夢であり、同時に、アキにとっては永遠に醒めない夢だった。


しかし、アキはユウキの変化に気づいていた。ユウキの虚ろな瞳、消え入りそうな声、そして生きる気力を失った姿。アキは、自分がユウキを苦しめていることを悟り、激しい自己嫌悪に陥る。

「ごめんなさい、ユウキ...」

アキは、眠るユウキを抱きしめ、涙を流す。そして、決意する。ユウキを解放することを。

アキは、自らの力で時間を操作し、無限に繰り返していた一日を解除する。そして、次の日、ユウキに何も告げずに姿を消す。

ユウキは、いつものようにアキの声で目を覚まさなかったことに、かすかな違和感を感じる。しかし、その違和感はすぐに消え去り、ユウキはいつものように学校へ向かう。


数日後、ユウキのクラスに転校生がやってくる。可愛らしい女の子だった。

「初めまして、ユウキさん。今日からよろしくね」

転校生は、ユウキの隣の席に座り、笑顔で挨拶する。その笑顔は、どこか見覚えのある、懐かしい温かさを感じさせるものだった。

ユウキは、転校生を見つめながら、胸騒ぎを覚える。

(この子……どこかで会ったことがあるような……)

しかし、ユウキは、それが誰なのか思い出せなかった。

放課後、ユウキは、転校生と一緒に帰ることにする。帰り道、二人は他愛もない話をしながら歩く。転校生は、ユウキの好きなものや嫌いなもの、趣味や将来の夢などを次々と尋ねる。

そして、別れ際、転校生はユウキの手を握り、優しく微笑む。

「これからは、ずっと一緒だよ」

(思い……出した……!)

その言葉と瞳に、ユウキはアキの存在を思い出し、思わず息を呑む。

(もしかして、この子……?)

ユウキは、確信を持てずにいた。しかし、心の奥底では、この転校生がアキであることを確信していた。


次の日、ユウキは、新たな不安と期待を抱えながら、新しい一日を始める。

しかし、その朝、ユウキは恐ろしい光景を目にする。

街を歩いていると、周りの人々が一斉にユウキの方を向き、不気味な笑みを浮かべながら、同じ言葉を繰り返す。


サラリーマンが、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


八百屋のおじさんが、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


女子高生が、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


幼稚園児が、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


散歩させられている犬が、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


ゴミを漁っているカラスが、


「ずっといっしょだよ、ユウキ」


次々と、街中のあらゆる存在が、ユウキに向かって同じ言葉を繰り返す。それは、アキの声だった。アキは、姿を変えても、ユウキから逃れられないことを示しているのだ。

ユウキは、絶望の淵に突き落とされる。アキの愛は、永遠にユウキを束縛する呪いだった。

ユウキは、終わりのない悪夢の中に閉じ込められたまま、永遠にアキの愛から逃れることはできない。

次の瞬間、街はいつもの風景に戻った。

(あれは、白昼夢だった……?)

ユウキは、呆然と立ち尽くす。しかし、次の瞬間、隣から声が聞こえた。

「ユウキ! だいすきだよ!」

それは、転校生の声だった。ユウキは、その瞳にアキの面影を見て、全てを悟る。

アキは、姿を変えても、ユウキの隣にいる。永遠に。

ユウキは、まるで魂が抜けた人形のように、アキに身を委ねていた。



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超越的存在に愛された少女の、終わらない悪夢(旧:「世界」に愛された女の子) アールグレイ @gemini555

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