第12話
ルフト兄さんとアイナ姉さんは無事なようだが……カロスフルール領軍はほとんどが気絶しているようだ。
さっきの
まぁ腕の一本や二本千切れたところで俺がなんとかするからバレないだろ。
『この者達はマスターを売ろうとしたので、少しばかり罰を受けてもらいました。死んではいませんよ』
イデアの計算内だったようだ。良かった。
「――まさか、本当に? あぁ、なんということっ!」
俺が転移してきてから数秒後、ようやく再起動したカルディネが歓喜に満ちた声を上げ、流れるような所作で俺の前に跪いた。
「お帰りなさいませ、我が主様。貴方様が居なくなって千年、
「おい待て」
突然のカルディネの行動と台詞に、ルフト兄さんとアイナ姉さんがギョッとした目を俺に向けてくる。
そりゃそうだろ。
魔王とも称されるイデアルの悪魔の一体が頭を垂れて跪いたら、誰でも混乱するに決まっている。
「あぁしかし、
「何を勝手に……」
「しかし、もうしばらく
こいつ……人の話を全く聞かないな。
カルディネが魔法生物として誕生したときからそうだったが、行動原理の全てが俺を第一にしている気がする。
カルディネの大元である『
「何を勘違いしてるか分からんが、俺はそんなことに興味はないぞ」
「……え?」
間抜けな声をあげて呆然とした表情を浮かべるカルディネ。
世界の統一は前世でやったし、今は『別次元の研究』でそれどころではない。存在に気付くのに千年かかったんだぞ? 理解するのにはもっと時間がかかるに決まってる。寄り道なんかしてられるか。
「まさか……嘘ですよね?」
「本当だぞ。そんなことをしてる暇はないんだ」
呆然とするカルディネ。
そんなに信じられないか? 俺のことを知っているカルディネなら分かってくれると思ったが……
「そんな……あり得ません……。主様は野心家で……頂点にいなければなりません」
「それは間違ってないが」
「えぇ……えぇ、そうです。主様は最強であるべきなのです。……誰ですか? 主様におかしなことを吹き込んだ愚か者は」
「おい、カルディ———」
「後ろに居るその人間どもですか? 情が湧いて殺せぬというのなら、
「だから話を———」
「いえ、まずは主様の洗脳を解いて差し上げます。おぉ、おいたわしや我が主様……
「ちょっ……!」
だから人の話を聞けぇ!
なにやら盛大な勘違いをしたカルディネが生き残りの魔物に触れると、途端に魔物がバタバタと倒れていく。
これもカルディネに与えた魔法の一つ。自分の配下とした生物から生命力を奪い取り、自身の魔力とするのだ。その証拠に、カルディネの魔力がぐんぐん上昇していく。
(はぁ……あんまり戦う気はなかったのだが)
『悠長にしている場合ではありませんよ。今のマスターがカルディネの攻撃を受けたら一撃で絶命します』
(受けなければいいのだろう)
ドッと、魔力の奔流が俺の中に発生する。『
「『
「少しだけ痛いですが我慢してくださいね、主様。すぐに目が覚めます!」
「来い、
風を切り裂いて迫るカルディネに対し、俺は神話を模した盾、
【ミソロジックアーツ】は、俺が世界各国に残る神話を研究した際に記したテーマだ。神にも勝るためにはどうすればいいかと本気で研究したものだが……神話武器の創造に止まってしまった。
まぁ、お陰で神話の再現ぐらいならできるようになったけどな。
キィィィィンッ!!
金属同士をぶつけたような甲高い音を響かせ、突っ込んだはずのカルディネが弾き返される。
「くっ……!」
「無闇に突っ込むなと教えなかったか?」
カルディネを弾き返した直後、
神装武器———
「
月明かりのように淡く、青白い光を放つ大型の弓を引き絞る。番えるのはただの矢ではなく、魔力を具現化した破魔の鏑矢。
神話において、『夜』を穿ち夜明けをもたらしたと云われる
滑り出すように放たれた矢は、まさに閃光の如く。
一瞬でカルディネに到達した矢は何の抵抗もなく彼女を穿ち、まっすぐに森を貫き、薄暗い空の彼方へ消えていった。
「グッ……アッ……!」
矢が貫いた跡には、脇腹が抉れたカルディネの姿があった。心臓を狙ったが、ギリギリで身体を捻って避けたようだ。
抉れたカルディネの脇腹からは、生物のような赤い血の代わりに赤黒い文字列が漏れだしている。
カルディネをはじめ俺が創った『イデアルの悪魔』は確かに生物なのだが、その本質は魔導書である。身体を構成しているのは当然俺が書いた術式であり、
「くっ……この程度……!」
「ふむ……」
カルディネが魔法を使い、自らの身体を再構成し始める。
あぁ、再構成用の術式を組み込んだのも俺だったな。
まさか今になって俺に牙を剥くとは。
(本当はチャンスなんだがな)
『仕方ありません。今のマスターには《ミソロジックアーツ》は負担が大きいのです』
カルディネが回復に集中している今こそ攻撃のチャンスなのだが……俺の意思に反して元の文字列に分解される
【ミソロジックアーツ】による神装武器は、イデアルの悪魔にも勝る火力が出るのだが、その分俺への負担も大きい。
だから
「ま、それでも十分だな」
「っ!?」
身体強化を施してカルディネへと間合いを詰めながら、新たな神装武器を召喚し始める。一方のカルディネは接近を許したらまずいと思ったのか、指をタクトのように振るい、魔物を操って俺を襲わせるつもりのようだ。
殺到した魔物が俺の前に立ちはだかるが……まぁそう来るのも読み通りだ。
「———
今度は両手に術式の文字列が集まり、双剣の形に変化する。二本で一つの神装武器だ。
先駆けて飛び込んできた狼の魔物の爪を避け、鼻先を、《ロムルス》で突く。残念ながらダメージは皆無だが、代わりに複雑な魔法陣が鼻先に刻まれた。
さらにクルリと身体を回転させて狼の魔物をいなすと、その勢いを止めずに横っ腹を《レムス》で斬りつける。
すると……鼻先に刻まれた魔法陣から崩壊が始まり、狼の魔物は数秒と経たないうちに塵となって消えてしまった。
これこそが、
ロムルスでマーキングし、レムスで崩壊を引き起こす。
崩壊する狼を横目に、次の魔物の攻撃をロムルスでカウンターしながらマーキング、勢いをそのままにクルリの回転し、レムスで斬りつけて崩壊させる。と同時にさらに次の魔物の攻撃をロムルスで弾き、マーキング……
クルクルクルクルと、まるでダンスだな。曲の代わりに魔物の断末魔とは物騒だが……まぁこれが効率が良いから仕方がない。
あっという間に魔物を殲滅……というか、スピードも落とさずに魔物の群れのど真ん中を突っ切った俺は、すでにカルディネの目の前だ。
「むっ、時間切れか」
残りはカルディネのみというところで、
「今っ……!」
「遅い」
神装武器、『
俺の斬り上げによって斬り飛ばされたカルディネの腕が宙を舞う。
カルディネの表情は、怒りでも苦痛でもない。
……ただただ、困惑していた。
「……どうしてですか? 主様……。
「馬鹿言うな。お前も俺のものだ。不要だなどと言うはずもない」
「ではなぜ……」
「……悪い子にはお仕置きが必要だろ?」
これは兄ルフトと姉アイナを危険にさらしたお仕置きだ。
———次の瞬間、
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