第8話
イデアのプレッシャーで神官たちを黙らせた後、騒ぎが広がる前にルーメンス神殿を後にした。
数日経ったら噂が広まっているだろう。
『私のせいで……すみません』
(別に良いけどな。目立つのは嫌いではない。……それより、領に魔物が増えている件だが……イデア、お前は予想が付いているか?)
『はい、おそらく……《イデアルの悪魔》が一柱、
(やっぱりか……というか、
『はい。現在、《イデアルの悪魔》を魔王とするのが人類の共通認識のようです』
(なんでそんなことに?)
『あまりに強いため、魔王と称する文献が多く残っていて、それが数千年も受け継がれているようですね』
《イデアルの悪魔》とは、俺が転生前に創った魔法生物の総称だ。
俺が『別次元の研究』に没頭する以前、非常に多くの研究を残してきたのだ。
その中の一つが、『魔法によって生物を生み出せないか』という研究だ。
【召喚魔法】はあれど、それはあくまで別の場所から呼び寄せているだけで、新たに生み出しているわけではない。
全ての生物は自然の営みによって誕生し、役目を終えれば自然へと還る。それが
人間がそこに踏み込むのは禁忌なのだと言うのが暗黙の了解なのだが、その程度で俺の興味が止まるわけもない。
研究に研究を重ねるほど、新たな世界が見えてくるのだ。
生物のDNAの塩基配列は、美しい数列によって表すことができる。
雄雌の比も、繁殖能力も、果てはニューラルネットワークに至るまで。
生物の全てを、術式で表すことができてしまった。
それら全てが、『
そして、その【ゲノムアーツ】の最終課題こそ、《イデアルの悪魔》と呼ばれている14の魔導書だ。
生物の営みの術式に成功した俺は、その逆――術式を書き、生物を生み出すことを目的として研究を始めた。
……結果としては、
結局俺の魂をほんの僅かずつ与えることで、新たな生物として活動を始めたのだが……未だにその
しかしなぁ、あいつらが『魔王』として畏れられる時代が来ようとは。
しかも、何かと悪さをしている様子。
……前世の俺が死んだ後に増長してしまったようだな。少しお灸を据えてやる必要があるか。
『申し訳ありません。イデアルの悪魔は私とは完全に切り離された魔導書であるため、私の支配から逃れています』
(構わん。
という訳で早速……
「父さん、せっかく魔導書が手に入ったんだし、試してみてもいいよね?」
「ん? まぁいいが、いきなりは無理だと思うぞ? ルフトだって相当鍛えて……」
「
自身の魔力が魔導書と共鳴し、内側から溢れる魔力が嵐のように吹き荒れる。肉体はより強靭に、しなやかに。魔力はより深く、濃密に。身体の奥が、火がついたかのように熱くなり、感覚が研ぎ澄まされていく。
この万能感。これこそが、14のタイトルを統べし『
……おっと、酔いしれてる場合じゃないな。久しぶり過ぎて魔力が漏れてしまっている。っと……こんな感じか。
溢れ出していた魔力を操作し、自分の中で循環するようにコントロールしてやる。魔力圧が強い方が実力があると思われがちだが、逆に言えばそれは魔力が外に漏れてしまっているということ。
本当の実力者であれば、魔力をコントロールして自身の中に留めておくことができるため外に漏れだすことはないのだ。
嵐のように吹き荒れていた魔力が嘘のように静まり、気圧されていた父フリードもようやく再起動を始めた。
「ま、まさかついさっき授かった魔導書でいきなり
「まぁ、コツさえつかめば簡単だからな」
「そういうものなのか?」
なんて言ったけど、これは嘘だ
魔導書への理解と魔力の制御、さらに術式のコントロールと、様々な要因が複雑に絡んでいる。言葉で説明できなくはないが、個人の感覚によっても左右されるため、こればかりは何度も練習するしかない。
俺は前世からイデアと共にいるから、今更
さて、早速この星の成層圏辺りを公転している
ただし、
どちらにせよイデアがいなければ成立しない術式だ。
本当、イデア様々だな。
とかなんとか考えてる間に、探査魔法による《イデアルの悪魔》の
(って、どういうことだ? これは)
イデアから送られた情報には、14を超える『イデアルの悪魔』の反応。そのうちの一つが、カロスフルール伯爵領へと迫っているではないか。
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