第4話 彩香と花音

 午後の講義が終わり、彩香は保育園に妹の花音を迎えに行った。自転車で保育園に到着すると、門の少し後ろで花音が彩香を待っていた。花音は彩香の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。


 「お姉ちゃん!」


 花音は彩香の手をしっかりと握り、元気よく声をかけた。彩香は花音の手を握り返し、微笑んだ。


 「花音、今日も元気だね。さあ、帰ろうか。」


 彩香は片手で自転車を押しながら、もう片方の手で花音と手をつないで歩き始めた。花音は保育園での出来事を楽しそうに話し始めた。


 「今日はね、砂場で大きなお城を作ったんだよ。お友達と一緒に掘ったり、砂を集めたりしてね。でも、途中でボールが飛んできて壊れちゃったの。みんなでびっくりしちゃって。」


 花音はその時の様子を思い出して、手を広げて砂でできたお城を表現した。彩香は微笑みながら頷いた。


 「それは大変だったね。でも、お城作り楽しそう。」


 「うん、でも先生が手伝ってくれて、また作り直したんだ。それで、最後には旗を立てて、お城が完成したの!先生が褒めてくれたんだよ。」


 花音は誇らしげに胸を張って見せた。彩香はその様子を見て微笑み、花音の頭を軽く撫でた。


 「それはすごいね、花音。頑張ったんだ。」


 「あとね、今日のおやつはスイカだったの。みんなで食べたんだけど、種を飛ばす競争をして、けっこう遠くまで飛ばせたんだよ!それでね…」


 花音は笑顔を浮かべながら話し続けた。彩香はその話に耳を傾けながら、花音の手をしっかりと握りしめた。保育園での楽しい一日を話す花音の姿に、彩香は心が温かくなるのを感じた。二人は手をつないだまま、ゆっくりと自宅に向かって歩き続けた。


 家に着くと、彩香は自転車を駐輪場に戻し、玄関で靴を脱ぎながら花音に声をかけた。


「花音、手を洗ってきてね。」


 花音は元気よく「うん!」と答えて、洗面所に向かった。彩香も手を洗い、夕飯前にまず花音をお風呂に入れることにした。


 「花音、今日は砂場で遊んだみたいだから先にお風呂に入るよ。」


 花音は嬉しそうに浴室に駆け込んだ。彩香は浴室のドアを開け、湯船にお湯を張り始めた。その間に花音の服を脱がせて、浴室の椅子に座らせた。シャワーを手に取り、花音の頭から優しくお湯をかける。花音は目をつぶりながら、気持ちよさそうにしている。


 「お湯、熱くない?」


 彩香は優しく声をかけながら、シャンプーを手に取って花音の髪を洗い始めた。花音は「熱くないよ」と笑いながら答えた。


 次にボディソープを手に取り、花音の体を洗ってしまうと、彩香は花音を湯船に入れ、自分もその後に入った。


 「お風呂は気持ちいいね。」 


 花音は湯船の中で笑顔でそう呟いた。そして2人はゆっくりと数を数え始めた。


 お風呂から上がると、彩香は花音にパジャマを着せて、髪を乾かした。彩香はパジャマに着替えた後、自分も髪を乾かした。リビングに戻ると、花音はテレビを見ながら待っていた。彩香は台所に立ち、夕飯の準備を始めた。


 まず、冷蔵庫から野菜と鶏肉を取り出し、手早く野菜を切り始めた。人参、玉ねぎ、ピーマンを薄切りにし、鶏肉も一口大に切る。フライパンを火にかけ、少量の油を入れて熱する。次に、鶏肉を入れて焼き色がつくまで炒めた後、野菜を加えてさらに炒めた。少しの塩と胡椒で味を調え、彩り豊かな野菜炒めが出来上がった。


 一方、別の鍋では味噌汁の準備を進める。出汁を取り、豆腐とわかめを加えて煮込む。味噌を溶かし入れて、香り豊かな味噌汁が完成した。


 「花音、ご飯できたよ。」


 彩香はテーブルにご飯、野菜炒め、味噌汁を並べ、花音を呼んだ。花音はテレビを消して椅子に座り、嬉しそうに食卓を見つめた。


 「わぁ、お姉ちゃん、今日のご飯も美味しそう!」


 彩香は笑顔で「いただきます」と言いながら箸を取り、花音と一緒に夕食を楽しんだ。花音は自分の大好きな野菜炒めを大口で頬張り、味噌汁をすすりながら、彩香に保育園での出来事を話し続けた。


 「お姉ちゃん、今日はね、先生が新しい歌を教えてくれたの!」


 彩香は相槌を打ちながら、花音の話に耳を傾けていた。花音の楽しそうな声がリビングに響いた。


 食事が終わると、彩香は食器を片付け始めた。花音はテレビの前に戻り、アニメを見ながらソファに座っていた。彩香はキッチンで食器を洗いながら、花音の背中をちらりと見て、微笑んだ。食器を洗い終えると、彩香は花音に声をかけた。


 「さあ、花音、寝る時間だよ。」


 花音は少し不満そうにテレビを消したが、すぐにベッドに向かって走り出し、彩香もその後を追いかけた。花音はベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて楽しそうに笑った。


 「お姉ちゃん、今日の保育園でね…」


 花音はまた保育園での出来事を話し始め、彩香はその話を微笑みながら聞いていた。花音が話し終わると、彩香は布団をかけてあげた。


 「おやすみ、花音。」


 「おやすみ、お姉ちゃん。」


 花音は目を閉じ、しばらくすると静かに寝息を立て始めた。彩香はその様子を見守りながら、静かに部屋を出た。その時、玄関の鍵が開く音がした。



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