第2話 居酒屋「花むら」

 個人経営の小さな居酒屋「花むら」に到着した彩香は、暖簾をくぐって店内に入った。店内はすでに賑わっており、数組の客が料理を楽しみながら談笑していた。店の奥から、店長のカズさんが彩香に気づいて手を振った。


「彩香ちゃん、いらっしゃい!」


 スキンヘッドに輝く頭を持つカズさんは、少しオカマっぽい口調で話すが、温かみのある笑顔を見せた。彼は派手な柄のエプロンを身にまとい、その姿は店内の明るい雰囲気にぴったりだった。彩香は奥の更衣室へ向かった。制服に着替え、エプロンをつけて髪をまとめると、すぐに仕事に取りかかった。


 彩香はテーブルを回り、注文を取っては厨房に伝え、料理や飲み物を運んだ。客の一人が手を挙げると、彩香は素早く近づいてメニューを差し出した。


 「ご注文はお決まりですか?」


 客が注文を伝えると、彩香は手際よくメモを取り、厨房に戻って注文を伝えた。カウンターではカズさんがカクテルを作りながら、常連客と談笑していた。


 「今日は忙しいね、彩香ちゃん。大丈夫?」


 カズさんが声をかけると、彩香は笑顔で応じた。


 「はい、大丈夫です。」


 彩香は再びテーブルを回り、料理を運びながら客の対応に追われていた。あるテーブルでは、サラリーマン風の男性たちが大声で笑い合っており、彩香が近づくと、にこやかに会釈をしてビールの追加注文を頼んだ。彼女は注文を確認して厨房に戻り、冷蔵庫からビールを取り出して注いだ。


 忙しい時間帯が過ぎ、店内が少し落ち着いてきた頃、彩香は一息ついてカウンターに戻った。カズさんが手を止めて、彩香に笑いかけた。


 「頑張ってるね、彩香ちゃん。…でも、無理しないでね。」


 彩香は軽く頷いて、カウンターの端に置かれた水を一口飲んだ。カズさんは厨房に戻り、彩香は再びテーブルを回り始めた。客たちの笑顔や楽しげな様子に触れながら、彩香は黙々と仕事を続けた。

 

 カズさんは深いため息をつき、視線をカウンターの隅に置かれた家族写真に落とした。写真には幼い彩香と彼女の母親が笑顔で写っていた。カズさんはその写真を指先でそっと撫で、再びグラスを磨く作業に戻ったが、目の奥には深い思いが込められていた。

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