第4話 第六感

友人に美味しい珈琲を飲みたに行こうと誘われやってきた、此処。


【喫茶 ホトトギス】


以前、友人に語った自身の体験談。それを此処の店主に語れば美味しい、それこそ〈極上〉の珈琲を無料で飲むことができるらしい。

珈琲好きの友人が勧める程の珈琲だ。それに店主自ら〈極上珈琲〉と名付ける程とは。これはもう是非とも飲むしかないだろう。

注文してしばらくすると、えらく雰囲気のある青年が珈琲を運んできた。友人曰く彼が店主らしい。

「お待たせいたしました。極上珈琲でございます。…それではお聞かせ願えますか?貴方の体験談を。」

なんとなく友人に目をやると無言で頷いている。早く語れと言っているのだろう。

店主の方に視線を戻し、1つ咳ばらいをしてから語り始めた。


―俺、中学生の頃通学の関係でじいちゃんばあちゃんの家に住んでたんだけど…あれは確か3年生の時だったと思う。学校から帰ってきて直ぐにトイレに行ったんだ。用を足しながらふと『じいちゃん大丈夫かなあ?』って思った。

で、すぐに『は?何が?』って自分で自分に突っ込み入れたよね。

何で突然そんな事考えたのかほんと意味不明でさ…自分気持ち悪って思ったね。

自分にドン引きしながらトイレから出たら、ばあちゃんが誰かと電話してた。ばあちゃんの顔が強張ってて何か良くない電話なのかと不安になってさ。部屋に戻らず電話が終わるまでそこに突っ立ってた。

電話を切ったばあちゃんがさ。言ったんだ。

『おじいちゃんが事故に遭った』

一瞬で頭が真っ白になったよ…。で、ばあちゃんが病院に行ってくるから留守番してて欲しいと言うのにコクコク頷いて。慌てて出ていくばあちゃん見送って。そこからはあんまり記憶にないんだよね。多分あまりにもショックすぎて頭パンクしてたんだろうなあ。

どれぐらいたったか覚えてないけど、じいちゃんの命に別状はないって電話を受けてホッとしたのは覚えてる。暫く入院する事になるとは言ってたけど生きてるだけで全然良いよっ!って思ったな。ほんとに。

安心して余裕が出てきて、ふとさっきのトイレでの事思い出した。

『じいちゃん大丈夫かなあ?』

え?あれってもしかして…所謂第六感的な?もしくは虫の知らせ?

そう考えたら滅茶苦茶怖くなってきて。しかも今家に1人…いや、犬がいたけどさあ。でもやっぱり怖いものは怖い!

や、別に特別怖がりってわけじゃなかったけどさ。諸々のタイミングが悪いし、ましてやあの当時俺14~5歳だからね?夜遅くまで家に、犬がいるとはいえ1人って…。

結局あれが第六感的なものなのか何なのかは未だにわからないんだよね。あれ以降同じような事一切起きてないし。でも色々な事が重なった結果俺にとっては今でも誰かに『怖い体験は?』って聞かれたら、迷わずこの話するぐらいには自分史上1番の

恐怖体験なんだよね。―


「あー、全然怖くなかったよね…はは。こんな話でお代になるのかな?」

自分にとっては怖い体験だったけど改めて語ってみると怖さの欠片もないな…と不安になり、本当にこの話でよかったのかと友人を見る。

「大丈夫だって。おれ、お前のその話好きだしマスターも絶対満足してくれるって!な?マスター!」

「はい。当時貴方が感じた得体のしれないものに対する恐怖心…それは僕にも誰にもわかることはできません。ですが体験談として聞かせて頂けたおかげで理解する事は出来ました。大満足ですよ。」

何だかよくわからないけど満足してもらえたらしい。良かった。

それじゃあ友人お勧めの〈極上珈琲〉。

割と語っていたはずなのに何故かまるで淹れたてのようだが…まあ気にせず頂くとしよう。



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喫茶 ホトトギス ぽてぃお @gakutaso

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