第3話 禁じられた遊び
就職を機に上京して数か月。慣れない環境や仕事に四苦八苦しつつも何とか日々をこなし、やっと落ち着いてきた今日この頃。
ふと家の周りを散策する余裕もなかったなと思い立ち早速とばかりに散策に出かけることにした。
地元とは全然違う街並みにテンションも上がる。
上機嫌で散策を続けていたが少し疲れを感じ何処かで休もうと店を探してる時に、その店を発見した。
【喫茶 ホトトギス】
レトロな外観が自分好みで、これは行くしかあるまいと入口のドアを押す。
『カランカラン』
ドアベルの音が店内に鳴り響く。
まさに王道な内装に、これは絶対に美味しい珈琲を飲めるに違いないと期待が膨らむ。席に着きウキウキしながらメニュー表をめくる。
『極上珈琲 ¥怖い体験談』
値段表記が不思議な事になっているが、それよりも〈極上珈琲〉が気になって仕方がない。珈琲好きとしてはこれは是非とも頼むしかないと注文することに。
しばらくして独特の雰囲気がある青年が珈琲を運んできた。
「お待たせいたしました。極上珈琲でございます。…それではお聞かせ願えますか?貴方の体験談を。」
「えーと、どういう事?とにかく〈極上珈琲〉飲んでみたくて、よくわからんまま頼んでもたんやけど…」
「〈極上珈琲〉はお金ではなくお客様の体験した怖い話を聞かせて頂くことによって提供させて頂いております。」
「なるほど…自分が体験した事やったらどんな話でもいいって事?あんまり怖くないかもしれんけど、それでもいいんかな?」
「はい。貴方の怖い体験談。お聞かせ願えますか?」
―じゃあ、話すけど。え、と。僕こないだまで和歌山に住んでたんやけど。就職の為に上京してきたんやんか。
ほんで怖い話っていうんが子供の頃の話で。それも小学校行くか行かんかぐらいの頃やから結構うろ覚えなんやけど…その日多分近所の子ぉ達やったと思うけど、まあ子供達で集まって遊んでた。追いかけっことか色々やってて、誰かが【だるまさんがころんだ】しようって言いだして、皆しようしよう!ってなって。何回かやってるうちに【へいたいさんがとおる】って言いだした子ぉがおって、なんか響きが面白いなーって。いつの間にか皆【へいたいさんがとおる】でやりだした。もちろん僕もそれでやってた。
突然『そんな遊びしたらあかん。』って言われた。え、何?誰?ってなるやん。
全然知らんおばあちゃんやった。びっくりしたんと異様な雰囲気に自分ら固まってもて。そしたらまたおばあちゃんが『そんな遊びしたらあかん。そんなん歌ったらあかん。』って言うてそんでどっか行ってもた。別に怒鳴られたり睨み付けられたりしたわけちゃうけど無表情で淡々と言われたんが逆に滅茶苦茶怖かった。
しかも何で【へいたいさんがとおる】があかんのかもわからんかったしなあ。
結局皆怖かったみたいで、その後は【だるまさんがころんだ】に戻ったけどな。
大人になってからふと気になってネットで【へいたいさんがとおる】って調べてみたら【だるまさんがころんだ】の和歌山バージョンやって書いてた。周りで【へいたいさんがとおる】ってあんま聞いたことないけどなあ。あの日初めて聞いたもんな僕は。‘’一部地域‘’ではとかそんな感じなんかも。
別にいわくあるとかそんな怖い感じのフレーズでもなさそうやのに…あのおばあちゃんは何で『あかん』って言うたんやろ?
今でも【だるまさんがころんだ】やってんの見たり聞いたりしたら、あのおばあちゃん思い出す。何か脳みそにこびりついてるんよな。
結局何もわからん謎しかないのが…怖いんよなあ。―
「と、まあこんな感じなんやけど」
「はい。とても満足です。おばあさんは何者だったのか?何故【へいたいさんがとおる】のフレーズを禁じたのか?非常に興味深いですね。」
どうやら満足してもらえたようだ。目がキラキラしてるしすごく興奮している。
良かった良かった。
〈極上珈琲〉に口をつける。一口でわかる。これは確かに〈極上〉だ。
少し時間が経ったにもかかわらず、まるで淹れたてのようだ。
だがそんな事はきっと些細な事。今はこの〈極上珈琲〉を堪能することだけに集中しよう。
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