第2話 白い糸人形
ホラー好きの店主に怖い体験談を語れば極上の珈琲を飲む事ができる。そんな話を聞いて早速訪れたのが此処。
【喫茶 ホトトギス】
外観も内装もレトロな喫茶店。
席に着き件の珈琲を注文する。しばらくして、どことなく雰囲気のある青年が珈琲を運んできた。
「お待たせいたしました。極上珈琲でございます。…それではお聞かせ願えますか?貴方の体験談を。」
どうやらこの青年が店主のようだ。
それじゃあと私は語り始める。
―あれは私が小学4〜5年の頃だったかな?友達の間で探検ごっこが流行ってて。探検って言っても所詮は子供の遊びだから近所の小さな山登ったりとか行ったことない道進んでみたりだとかそんな程度のもの(笑)で、その日も友達と2人で裏山に探検に出掛けたの。
今思えば探検というかただの散歩なんだけど、当時は自分達は今探検してるんだ!ってすごくワクワクしながら楽しんでたんだ。
『これは何の花かな?』
『この木の実はなんだろう?』
『今、変な生き物がいなかった?!』
なーんて、敢えて未知との遭遇感を出したりなんかしながら楽しく探検してた。
そうして探検してるうちに少し先の方に生えてる大きな木の表面に何かが付いてるのが見えた。
『あれ何だろ?』
『きのこ?』
そんな事を言いつつ正体を確かめる為に木の方に歩いていったんだけど…。
本当に驚いた時って叫び声とか出ないよね。微かに『…ひっ!』て声が出たたけだった。友達もおなじく。
木の表面に付いてたものの正体。
それは…白い糸で作られた人形。呪の藁人形ってあるでしょ?まさしくあの形。ただ藁じゃなくて白い毛糸?のような糸で作られてた。それが新品の五寸釘で打ち付けられてたんだ。腹にぶっすりと。
テカテカ光る五寸釘で打ち付けられた白い糸人形。
その当時子供達の間で〈学校の怪談〉とか、そういう怖い話が流行ってたから、どうしても〈丑の刻参り〉を連想してしまって怖くてたまらなかった。
友達と2人で恐怖に震えながらも何とかその場から逃げ出し泣きながら家に帰った。
あれはきっと呪いなんだ!
見つけてしまった私達も呪われるんだ!
しばらくは怯えながら過ごしたよね。でも結局私も友達も特に呪われる事もなく今もこうして無事に生きてるんだけど。
でも、本当にあの人形は何だったんだろう…?誰か本当に呪われた人がいたのかな?―
「以上が私の怖い…かどうかはわからないけど体験談です。」
私にとっては怖い体験だったけど他人からしたらどうなんだろう。
「いえいえ、とても素晴らしい体験談です!白い糸人形…僕も是非とも見てみたいですね!」
一応は店主のお気に召したようだけど…
「特にオチとかないしモヤモヤしないです?」
「それがリアルで良いんですよ。一体誰が。何の為に?そう疑問を感じた所で答えを知ることはできない。何故ならば、それは現実で結末の用意された物語ではないから。ああ、だからこそ面白いのです。誰かの体験談は。」
なるほど。確かに現実は必ずしもオチがあるわけでもないしスッキリする事ばっかりじゃない。そう考えると確かに私の体験談はリアルだ。そして店主にとってはそれが良かったんだ。上出来だ、私。
それじゃあご褒美にと〈極上珈琲〉を口に運ぶ。
…あれ?珈琲が運ばれてからそれなりに時間が経ってるはずなんだけど。結構語ったし。全然珈琲冷めてない。何なら淹れたて?ってぐらいなんだけど。
まあいいや。そんなこともあるよね。不思議なことも【喫茶 ホトトギス】では不思議ではないんだろう。
そう結論付け、私は本当に極上な〈極上珈琲〉を堪能する事にした。
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