第三十五話 刺激強すぎ!?
手を引かれるまま廊下を進むと「ひゃあ」とあちこちから悲鳴が上がる。ううう! 先輩は慣れているのかもしれないけど、こっちは生きた心地がしませんよ!?
「あ、あのあのあのっ! 先輩、あの、手、手を、離してくれませんか!?」
たまらず抗議してみると案の定「どうして?」と。もう。
「は……恥ずかしいから」
暑いのは浴衣のせいじゃない。地球温暖化のせいでもない!
すると先輩は「ふ」と笑って今度は指を絡めるようにして手を繋いできた……ってなんで! ホワイ!?
これじゃますます周りに注目されちゃうよっ! ただでさえ浴衣で目立ってるのに!
「り、龍崎先輩……」
ようやく足を止めたそこは
「その呼び方」
「へ」
いきなりなんの話かと思ったら。
「まあ今さら『お菊ちゃん』っていうのもちがうもんね。ならせめて『千菊』にしよう?」
「へっ……えっ……」
戸惑わずにいられましょうか!
「呼んでみて」
「え……と、せっ、千菊、先輩……?」
すると少しくすぐったそうにして「『先輩』は取れないか」と笑う。いや、取れるわけないですよ?
「本当は『千菊くん』って呼んでほしいんだけどね。さつきさんのように」
顎に手を添えて意地悪く微笑む。
「むむ、むりですよっ、そんなの」
「どうして?」
「は、恥ずかしいから……」
はは、と笑って、すらり、とわたしの結わえた髪と浴衣の肩を撫でた。くすぐったいのと恥ずかしいのとで、たまらず「ひぁ」と声が出る。ううう。
「綺麗だよ。とてもよく似合ってる。誰よりも綺麗だ」
「ぶわわっ、やめっ」
鼻血っ、鼻血が出るっ!
たまらず鼻を押さえると「ふふ」と美しく笑われた。んんん、先輩、楽しみすぎですっ! こっちとの余裕の差がありすぎるっ!
「スズちゃん」
「はい……」
「お点前も。とてもよかった。一年生とは思えない、よい出来だったね」
「あ……や、へへ。ありがとうございます。先輩たちのおかげです」
くすぐったいけど先輩に褒められるのは素直に嬉しくてつい頬が緩んじゃう。
「ご褒美に……これをキミに贈るよ」
その手にあったのは、茶道で使う女性用の扇子だった。
「これ……」
よく見ると先輩のものとよく似てる。
「おそろい。ふふん」
「ひぇっ!?」
「ご褒美というか、お礼かな。僕に『自由』を教えてくれたお礼」
受け取って、ほわぁ、と眺める。先輩とおそろいの扇子。それだけで数億円を超える価値がある気すらする。
「ほんとうはお礼にはキスをしたかったんだけどね。さつきさんが校内でなんて有り得ない、とうるさいから」
「は…………はい?」
せ、せせせ、先輩!? え、え? っていうかさつき先輩とそんな話までしたの!?
「これからもよろしく、スズちゃん」
すらりとその手がわたしの左手を取って、そして流れるように美しく屈み、その唇がわたしの薬指の根元に────付いた。
「……ひええええええっ!」
なになに、なんで! キスはやめたって言ったよね!? 言ったのにっ!?
しっ、刺激が強すぎ……。
「あはは。倒れないでね?」
自分でもよくこらえたと思いますっ!
まったく恐ろしい人だ……。
そんなわけで。
わたし、西尾 スズは。
「へ!? 辞める!?」
「うん。龍崎先輩もいなくなったしね。バレー部に専念することにしよっかなって」
もぉう! せっかく気持ちを固めて宣言するところだったのに!
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