第二十九話 お父さん!?

「ところで二人はなにを聞きにきたの?」


 訊ねられて、ああ、とマヨが顔を上げる。


「先生、龍崎先輩は今日は来てませんか?」

「龍崎くんなら今日はたしか欠席だったかと」


「ご病気ですか?」


 マヨが訊ねると「家の用だったかな」と言う。


 家の用。たしか前回の部活もそんな欠席理由だったような。


 ざわ、と胸騒ぎがした。




「うーん。気になるねぇ」


 探偵マヨはまた腕組みをしてまだ日の高い夕方の通学路を日傘片手に歩く。


「『家の用』って、なんだろ」

「……さあ」


「あら? 今お帰り?」


 聞き覚えのある凛とした声。よく似てるけど少し高いほうが先輩で、低いほうがわたしたちの友達。今聞こえたのは『低いほう』だった。


「やよいちゃん……!」

 服装は制服姿のままだった。


「や、やよいちゃんこそ、どうして?」


 わたしが訊ねるとやよいちゃんは手に持った手提げカバンを示して「今からお稽古なの」と答える。


「マサミ先生のところで」


 思わずマヨと顔を見合わせた。


 少し躊躇いはあったものの、このチャンスを逃すまい、と「一緒に行ってもいい!?」と申し出てみた。すると。


「構わないけど。龍崎先輩なら留守かと」


 まさかの答えだった。


「今日も学校を欠席なさっていたの、ご存知? さつき姉さんによるとお父様のところに行かれているらしいわ。私も詳しいことは存じませんけど」


 お父さん……?

 結局謎が深まっただけだった。



「もおーう! 結局謎が深まっただけじゃないかよーおおおおう!」


 いつもの橋の上でマヨが青春っぽく夕日に向かって叫んだ。


「やめて。恥ずかしい」


 わたしが言うとジトリと見てくる。


「お抹茶王子の謎、ああん、早く解き明かしたい! 新刊の発売日、いつよ!?」


 いや、意味不明だよマヨ。


「でも手がかりがほとんどないじゃん」

「むうううううっ!」


 龍崎先輩のお父さんはたしか、お母さんと早くに別れてるんじゃなかったっけ。そのお父さんがどこの誰なのか知ってる人なんて────



「ああ、たしか大学の教授さんだったと思うよ。でも一緒には住んでないはず」


「…………へ!?」


「離婚してるかまでは知らないけど。千菊くんって一人息子でしょ? だからマサミ先生の茶道教室を将来継がせるか継がせないかでかなり揉めたらしいの。結局跡継ぎは千菊くんじゃなくて千菊くんの『お嫁さん』にやってもらうことで落ち着いたって聞いたけど」


「や」

 プリーズ、ウエイト、マイマーザァっ!


 帰宅後に軽い調子で「龍崎先輩……お菊ちゃんのお父さんのこと、なにか知ってる?」とお母さんに訊ねたらまさかの真相発覚とか!


「中三だからもしかして、進路のこと相談してるのかもね? 千菊くんって頭もいいの?」


 それはわたしも知りたいです!


 それにしても、そうなんだ。てっきり龍崎先輩が茶道教室を継ぐのかと思ってたけど、そういうわけじゃないんだ。


 ほう……。


 だったら龍崎先輩も大人になれば『自由』ってこと? マサミ先生の決めた人と結婚さえすれば、マサミ先生からも、茶道からも解放されて、好きな仕事に打ち込める。


 そうか、それならよかった。



 ホントニ ヨカッタ?



 ……ん?

 なに? なんで?


 なんでわたし、こんな変な気持ちなんだろう。



 Q.その時主人公のスズはどう思いましたか?


 ……答えが、わかんない。



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