第二十七話 退部の理由!?

 翌週はもう夏休み明けだった。

 まだざわつきの残る放課後、わたしはマヨと共に茶道部の部室へと向かっていた。


 足取りは、重い。


 ほかの茶道部員に見られたらと思うといても立ってもいられない心境だった。


 だけど。会いたい。

 龍崎先輩に会って、ちゃんと話したい。


 ──迷惑じゃないです。


 そのひと言だけでも、伝えたかった。



「早く来すぎたかな?」


 マヨがそっと部室をドアの小窓から覗く。中はしんとしていて誰もいないようだった。試しにドアの取っ手に手をかけてみるも、ばっちり鍵が掛けられているらしい。


「どうする? ここで待つ? それとも先生に鍵もらってきちゃう?」


 やっぱり今日はやめておく、って選択肢はないんだ、と少しガッカリしつつ、このまま部室付近をうろついているのは精神的にもキツいから「教室にもどって30分後にまた来ることにしよ」と提案した。


 そして30分後。

「あれ、まだ誰もいないよ?」


 さっきよりもずいぶん静かになった校舎。茶道部の部室はなにも変わっていなかった。


「おかしいねぇ。龍崎先輩今日は自主練来ないのかな? ほぼ毎日いる、って言ってなかった?」


「うん……」と答えつつマヨと並んでわたしもドアの小窓から部室内を覗いた。変わらない畳、机、茶器などの道具。お茶を点てる先輩の横顔を思い出して、チクリと胸が痛んだ。


 ああ、会いたいな。

 会いたい。すごく会いたい。

 もはや『会いたい』っていうより、これは。


『恋しい』


 それだ。そのほうがピッタリはまる。だけど……『恋』? えっと……。ええ?



「職員室行ってみる?」

「え、なんで」

「先生に聞いてみようよ。毎日自主練してるんなら先生もなにか知ってるかもでしょ」


 マヨの行動力ってばスゴすぎる。


 顧問の先生とは普段ほとんど顔を合わせない。この前の京都合宿の時も『お飾り』みたいにいただけで、進行はマサミ先生とさつき先輩がほとんど担っていたし。


 だからちゃんと会話をするのは、じつはこれが初めてだった。


「あ、西尾さん」

「え……はい?」


 茶色の髪を黒のバレッタでハーフアップにした若い女性の先生。名前は安藤先生。前にいたマヨではなくて、後ろのわたしを呼んだ。なんだろう。


「ちょうど聞きたいことがあったの。あなたに」

「なんですか?」


 龍崎先輩のことで頭がいっぱいだったわたしは、突然の質問に正直戸惑った。


「もし嫌でなければ、退部の理由、聞かせてくれない?」

「えっ……」

 





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