第十六話 生き別れの!?
茶舗で昼食をとってからは夕方まで自由行動となった。わたしたち一年生チームは『通りをぶらぶら買い物ツアー』と、やよいちゃんのアツい希望でお寺も一箇所だけ行くことに。
「
「ええ。復習です。ここには茶道部として学ぶべきことがまだまだあるので、自由行動の時間にも来たかったの」
げえー、退屈だよーと文句を垂れるマヨをやよいちゃんは「『興味がない』ではなくて『興味を持つ』の」と一喝した。「ほらご覧になって。ここはかの有名な千利休ゆかりの寺院で────」
ふむふむ、ほー。とやよいちゃんの小難しい説明を真面目に聞くポウちゃんの横で「早くお買い物行こうようー」とごねるマヨ。んふふ。けっこうバランスいいチームじゃない? わたしたち。なんて自分で思ってくすりと笑った。
龍崎先輩がいなければやよいちゃんもわたしを特別睨んだりしないし、さつき先輩もいつもより穏やかな気がする。……って、え? 龍崎先輩の存在って……?
いや、いや、いや。
なにひどいこと考えてんの、わたし。
我ら茶道部は、龍崎先輩あっての茶道部なのに。
みんなとお参りしたり買い物をして過ごす時間は本当に楽しくて。わたしはさっきバスから見た着物姿の人のことはもうすっかり忘れていた。
忘れていたのに。
「お菊ちゃーん! もう、おっそい! はよ歩きんさいな、もぉう」
おみやげ屋さんの軒先で見ていたキーホルダーからぱっと顔を上げる。
だって今、誰か『お菊ちゃん』って言ったよね?
キョロキョロと辺りを見回すと、麦わら帽子の小さな女の子が、たた、とわたしの後ろを走って通り過ぎた。そしてその後ろから。
艶やかな着物が見えた。
チリン。
また風鈴の音のような幻聴がした。白い肌に
見間違いじゃない。間違うはずがない。
だって『その人』は、あの日のままの、いや、あの日より美しくなった、
お菊ちゃんだったんだから。
困ったような笑みを見せながら、それでもするすると美しく歩みを進める。
たぶん先に行った女の子を追っているはずなんだけど、声は一切出してない。
そうか。だって『声』は。
……男性だから。
通りがけに一瞬、目が合った、気がした。
「りゅ……」
声を掛けてはいけない。
瞬間的に察して咄嗟に口を噤んだ。
「スーズ! 決まった?」
店内にいたマヨが現れた。わたしは心臓がバクバク鳴っていて、全身から変な汗が止まらない。
「あ、あのねマヨ」
着物で歩くあの速さなら、走ればすぐに追いつける。
「えっと……なんというか」
「なに、どうした? っていうか顔赤いよ? スズもしかして熱中症?」
「や……ごめん、元気っ! あー、えっと、あのその、お、お姉ちゃんが! 生き別れのお姉ちゃんがいて。そこに!」
「はあ?」
「わ、わかんないけど、いたの。だからわたしちょっと、行かないと! ごめん! ほんと。ゆっ、夕方にはちゃんと旅館に戻るからっ! ごめんっ」
こんなこと自分がするなんて自分でもびっくりだよ。でもなぜか龍崎先輩を放っておけなかったんだ。
走り出さずに、いられなかったんだ。
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