三席目 初心者は京都で苦み旅

第十四話 どこですか!?

 駅集合の電車旅。

 普段とちがう場所で二泊三日の夏合宿!


 お泊まり!

 観光!

 非日常!


 興奮せずにいられないよね!?


「みなさん。おはようございます」


 って、えええええっ!

 ま、マサミ先生もご一緒なんですね……!


 これはなかなか、ピリッと刺激がある旅になりそうだ……。


 スケジュールは割とびっしりで。自由時間はそれほどなさそう。去年行った小学校の修学旅行みたいな感じかな?


「自由時間の行動は基本的には学年を『班』として集団で行動してください。くれぐれもひとりでふらふらしないこと」


「ハイっ!」と返事をするものの、浮き足立つのはしかたないよねぇ?


 それにしてもこういう挨拶は部長の龍崎先輩がするのかと思ったけど基本的にはすべてさつき先輩がやっている。


 あれ。ていうか、龍崎先輩どこだ?

 キョロキョロしていると「どこを見てるの」とやよいちゃんに睨まれてしまった。うお、こわ。


「いや……龍崎先輩、いないな、と思って」

「龍崎先輩は別行動。私たちとはスケジュールそのものがちがうの」


「え。そ、そうなんだ」


 なんだそれは。そんなことってあるの? っていうかどちらに……?


 やよいちゃんにそれ以上詳しく聞けるはずもなく、「では出発します」というさつき先輩のハキハキした声とともにわたしたちの京都合宿は始まった。



 初日は一般的な京都旅らしく寺社仏閣を巡りつつ、茶道に関する資料館なんかも見学した。


 歴史。ふおお、歴史だ……!


「なんか独特の匂いするね」

「読めないな、この字は」

「ねー、お腹空かない?」


 星のヘアピンをキラリと光らせるマヨは行きの電車では大張り切りだったのに着いて観光が始まった途端にこんなだらけた調子。ポウちゃんが「たしかに」とその都度くすくす笑うからシラケた空気にはならずに済んでるけどさ。


「マヨ、もうちょい歴史を楽しもうよ……」

「うーん。正直なところ、あんま興味ないかも」

「えええ」


 先輩や先生に聞かれはしなかったか、と慌ててキョロキョロ周りを見てから「ばか」とわたしは目を細めた。


「わたしのお楽しみはやっぱり旅館のごはんかな?」


 そんなわけで、夜。

 マサミ先生のご贔屓の『ちょっとイイ旅館』にて見たこともないような豪華なお膳のお夕食をいただいた。


「ふぎゃあー! これこれ! こういうのさ!」

「し、しゅごい……」


 なん、なん、なんっだこれは! 美しい! とろける! 香る! こりこり! ふんがー!


 興奮するわたしとマヨ。ポウちゃんは黙々と、やよいちゃんは慣れたふうに、みんなで食事をした。


「このあとマサミ先生による『茶の湯の歴史と心』についてのご講話がありますので、8時になったら『しらゆりの間』に集合してください」

「ハイっ」


「『ご講話』って眠そうだねぇ」

「マヨ、絶対寝ないでよ?」


 わたしたちのやり取りを隣で見ていたポウちゃんが「ぷふっ」とかわいく笑った。


「みなさん、行きますよ」

 やよいちゃんは準備が早い。


「まだ全然時間余裕じゃんー」

 マヨが言うと「下級生ですから」とピシャリ。


 ハイハイ、というわけでわたしたち4人が『しらゆりの間』に一番乗りした。




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