第十二話 本当に親子!?
それは入部後に初めて迎えた第2金曜。そう、あの龍崎先輩のお母さん『マサミ先生』のご指導日でのことだった。
「えと……西尾といいます」
「あら。西尾さんって、もしかして西尾 マリさんの?」
「あ、はい。娘です」
あらまあ。と先生は微笑む。上品なお着物姿、小柄で少し丸っこい感じ。だけどその眼光は鋭くきっちりと結えられた黒髪が『完璧主義』を物語る。
「マリさんお元気?」
ハイ、元気です! などと答えながら、ドキドキが止まらない!
だ、だ、だって先生、さっきまでめちゃコワだったんですよ!? 二年生の先輩二人、お叱りを受けてそこで泣いてますよ!?
え、部員が少ない理由、こっち?
「はいでは次。さつきさん。お
「はい!」
『お点前』とはお茶を点てること。こんな字を使って書くってこともつい最近知った。
しんと静まる部室。しゅんしゅんとお湯の沸く音だけが響くようだった。
さつき先輩のお点前も龍崎先輩に負けてない。またちがった美しさを持っていて、言うなれば、そうだなぁ。龍崎先輩は
……と。あれ?
「あら。さつきさん、
『袱紗』とは茶道で使う布のこと。これがないとお点前は始まらない、とっても大切なもの。
「あれ……ええと」
慌てて周りを探すさつき先輩。こんな姿珍しい。
「すみません。持っていたはずなのですが」
「あらあら。困ったことね」
先生は言いながら自身の予備の袱紗をさつき先輩に手渡した。
「次からはしっかり確認なさってね」
「はい……」
先生の機嫌がそこまで悪くなかったことと、ほかの所作が完璧だったこともあってお叱りはなかった。さすがにさつき先輩が叱られたりしないよね。
「千菊さん」
「はい先生」
親子、と聞いていたから龍崎先輩はマサミ先生とどんなふうに接するのかなと見ていたら。それは思っていたよりもずっと『師弟』らしかった。
「個人ではなく茶道部として
「残念ながら予備の用意はございません」
「あら」
「申し訳ないです」
「部としてひとつくらい袱紗の予備があるといいですね」
「承知しました」
というか本当に親子? この雰囲気じゃ間違えても「お母さん」なんて呼べないよね。まあ、あえてそうしてるのかもしれないけど。
でも自分だったら、と思うと……お母さんと師弟関係? 敬語で話すの? うーん。やっぱりうまく想像できない。
「千菊さん。あなたが不甲斐ないと部の空気も緩みますよ。一年生も入部したのです。部長として、もっとしっかりとなさい」
「はい。肝に銘じます」
美しく謝罪する龍崎先輩。そこには親に対する反発心なんかもちろんない。だけど本心も、ない……? そんな気がした。
ただ『マサミ先生』を肯定する。機械のように美しく。そして『マサミ先生』が望むままに動き、答える。そこに感情はなく、あるのは貼り付けたみたいな微笑みだけ。
なんだろう。この、体温のない感じ。
まるで操り人形みたいだ。思った途端、なんだかぞくりとした。
龍崎先輩って…………?
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