第三話 めくって見せて!?

 部室とされていたのは普通の教室。だけどそこには、どどーーん、と半分以上の面積に畳が敷かれていた。枚数は……十くらいかな? 机やイスは壁際にほんの少しだけあって、六つくっつけてテーブルみたいにして使われている。


 畳のところの中央付近に部活紹介で壇上にいた『お抹茶王子』こと龍崎先輩が先ほどの和服姿のまま正座をしていた。わ。お茶をててるんだ。


 しゃんと伸びた背すじ。すらりと優雅な腕の動き、指づかい。シロウトのわたしから見ても「キレイだ」と惚れ惚れする。「ほわお……」と小さく感嘆するのはマヨだった。


 やがてお茶は龍崎先輩を囲む二辺にきちんと正座をして待つ4名の部員に順に振る舞われ、静寂の中、お稽古(……と呼ぶのかな?)は終わりを迎えた。



「はじめまして。部長の龍崎です」


 わたしたちの前に現れた先輩は思ったよりも背が高く、低い癒しボイスだった。ふむ。マヨはこういう人が好きなのか。王子様、ねえ。やっぱりよーわからん。


「ああ、さつきさんの妹。似てるね」


 言われて頬を赤くするのは宇治原さんだった。「ハイ! 宇治原 やよいですっ!」と大きく答えてブン、と勢いよく頭を下げる。なるほど宇治原さんはさっきのコワイ先輩の妹なんだ。それで『お抹茶王子』のことにも詳しかったのか。


 するとなぜか感化されたらしいわたしの隣のマヨが「根岸 真代ですっ」と宇治原さんと同じように頭を下げた。え。なんでそうなる?


 そのまま自己紹介をする流れになって丸っこい印象の三つ編みちゃんも「山田 ほおづき、です」とぺこりと頭をさげる。


 珍しい名前だねぇ、とほかの先輩たちも寄ってきた。


「『ポウ』って呼んでください」

『ポウちゃん』って呼び方かわいい! 何組? など会話が咲きはじめた。


 んん。入部する気がないんだからできればわたしは自己紹介とかしたくない。ポウちゃんのおかげで話も弾んでそうだし、このまま逃げられないかなぁ……。と思っていると「キミは?」と龍崎先輩にご指名されてしまった。うおう。


 たしかにわたしだけ自己紹介しないのもヘンだよね。まあ、仕方ない。入部はあとから取り消せばいいんだし。


「えと……。西尾 スズ、です」


 その瞬間、龍崎先輩の瞳が少しだけ大きくなったような気がした。気のせい……?


 ぺこり、と頭を下げると「ちょっと見せて?」と龍崎先輩にいきなり腕を掴まれてびっくり! たまらず「ひがっ!?」と変な声が出る。な、なになに!? 当然周りの先輩たちも何事かとこちらに注目する。


「腕、めくって見せて」

「へ、へえ……?」


 さすがにわけがわからん! すると龍崎先輩はわたしの腕からその手を離して自身の着物の左袖をすらりとめくる。ほどよく筋肉のついた白い腕が顔をだし、マヨが覇気でよろけた。


「ここのところにホクロがあるんじゃない?」


「ホク、ロ……」


 ある。たしかにある。

 ちょうど先輩と同じ位置に。


 あるけど。

 なんで?


千菊せんぎくくん。新入部員への説明はわたくしがいたしますので」


 宇治原さんのお姉さんが現れて龍崎先輩は「ああハイハイ」と微笑んで場を譲る。去り際に「これ以上減らさないでよね?」と笑顔でたしなめるように釘をさしていった。


 ほう……。な、なんだったんだろう、今の先輩の行動は……。


「副部長の三年、宇治原 さつきです」


 茶道部の活動は基本的には週に二度。火曜と金曜の放課後に行われる。顧問は二年の国語の先生。だけど普段の部活にはほとんど顔を出さないんだそう。


「月に一度、第2金曜には外部の先生に来ていただいてご指導を受けております」


 その『外部の先生』というのはほかでもない、龍崎先輩のお母さんなんだそう。うわお。


「この部室は基本的には茶道部専用となっていますので、部活動の日以外でも自主練などで使用することは可能です。鍵は顧問の先生に────」


 さつき先輩の説明を聞きながら、なんだかもう後戻りはできないような気がしていた。


 西尾 スズ。

 中学一年。


 運命に逆らえず『茶道部』に、入部!


 パンパカパーン!

 パチパチパチ~! ……じゃないっ!


 まったくもう、一体どうしてこんなことに!?



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