第37話 魔力も滑る?

次の日からしばらくゴブリン狩りを続け、村に帰ってきてからは槍の訓練と身体強化の訓練を行う。



そしてゴブリンの村を見つけてから7日後の事だ。

いつもの様にゴブリン狩りへ向かう為にフォクス村の門を目指す。


門を出る少し前に以前模擬戦をしたジューク君とバッタリ遭遇する。


「………ッ」


「………?」

ものすごい目つきで睨まれる。

俺としては、突然現れた怪しい男に突っかかる若い気持ちも理解できる。だから前回のことは正直気にしていないのだが…



【また叩き潰しますかマスター】

やめてあげなさい。



睨まれたままで気まずいので一応会釈しながら門の方へと向かい、門番の方と少し話して通してもらう。



門が閉まるまでジューク君は俺を睨み続けていた。



「あんなに睨まれたら流石に気まずいな」


【マスターがプライドをポッキリとへし折ったからでは?】


「それなら俺だけじゃなくてアートも悪いんだからな?」


まぁ過ぎたことはしょうがない…

気を取り直してゴブリン狩りをしよう。




この7日間の間に俺は自力で2倍の身体強化を維持できる様になった。

魔石を取り込んで筋力も上がっており、今の俺であれば身体強化無しでもかなり余裕を持ってゴブリンを倒すことができるし通常のホブゴブリンも問題ないくらいまでステータスと技術が上がっている。





そして昨日の夜部屋でいつもの様に、その日に手に入れた魔石をスマホに取り込んだ時のことだ。


name:アイダ(戸田藍)

職業:"アート"のマスター

HP:80/80 (21up)

魔力:501/501 (187up)

筋力:56 (24up)

器用:62 (22up)

スキル:"アート" 子機3/4 (作成可能1) 魔力体(人型)0/1(作成中)



やはりゴブリンの魔石ではステイタスの上がりがかなり悪い。同一の魔物の魔石での上昇が少なるのか、それともステイタスが上がるにつれ要求される魔石の質が上がるのかは未だ不明だ。


子機についてはブライドさんにもすでに渡してある。そして4人でのチャットルーム”フォクシーズ"を作成して時々みんなで話している。

ちなみにチャットルーム名はリンが決めた。




そしてついに魔石を累計200個取り込んだ時にアートの機能が新たに解除された。それが魔力体だ。


いつものメッセージに加えて追加で知らせが来た。


………

魔石の取り込みを確認

魔力を抽出します

一部リンク者に還元します

………

累計200個の魔石の取り込みに成功

魔力体(人型)の凍結を解除します

………

成功


当然解除された時にアートにその機能について聞いてみた。


「アート、今凍結解除された魔力体ってのは?」


【魔力の体を生産できるようです】


「ん?魔力の体?だれの?」


【私の】


「え?アートの体ができるの?」


【通常魔力は固定化できませんがスキルの力によって可能な様ですマスター】


「それは凄いけど魔力体だと何ができるの??」


【…食事ができる様になります】


「…は?えーと、他には?」


【後はマスター好みでかわいいです】


「全然使えねぇじゃねぇか…

それにAIの癖に自分で可愛いとか言うなよ…」


【失礼ですねマスター。私はマスターのPCからマスターの好みを完璧に把握していますからね】


「うぐ…」


ゴブリンの掃討が控えている今少しでも戦力を上げておきたかったが、いつも一緒にいるアートが自由にできる体が出来るのであればこれからの旅でも寂しさが和らぐか…



それに男なら可愛いとか言われるとつい見たくなってしまうのが定めだ。


というかアートのやつ許可を出す前に勝手に作り始めてやがった。実はかなり楽しみにしてるのだろう。1人だけ食事の時可哀想だったしな。



魔力体ができるまで3日ほどはかかるそうだ。





そんなこんなで昨日のことを思い出しながらも俺はゴブリンを狩っていく…




「ふぅ〜そろそろお昼にするか。結構仕留めたけどどれくらいだった?」


【ゴブリン28体にボブゴブリン4体ですマスター】


「俺の身体強化しか使わずにこれなら結構いいペースだな。午後からはアートの魔法も使ってペースを上げていこうか」


【了解ですマスター】



最近はお昼にリンゴを獲って食べる事が多かったから、今日は肉を食べたい気分だ。




「アート、今日は肉を食べたいから休憩がてら川辺に向かおう。途中で獲物を見つけたら教えてくれ。居なかったら魚だな」


【了解ですマスター】


俺は川辺の方へと向かう。



【マスター獲物がいました】


「おお、早かったな」

歩き出して数分でアートに声をかけられた。この付近で獲物を見つけるなんて今日は運がいいな。


【100m先茂みの中ですマスター】





「……おい。あれゴブリンだよな?」


【他に何に見えるんですか?マスターの目はお飾りですか?探してた獲物ですよ】


「…ゴブリンって食べれるの?」


【食べれますよ。本におすすめの調理法はゴミ箱に入れる事と書いてありました。


「それ食べれないやつじゃん…」



ゴブリンを放置しておく訳にもいかないのでサクッと仕留めて魔石だけ取り除く。

気を取り直して川辺まで向かおう。



今日は運がいいと思ったのがフラグだったか、ゴブリンにはやたら出会うのに、食べれそうな獲物には出会えずに川辺についてしまった…

仕方ない魚にするか。

と言ってもいくら身体強化しても川から素手で魚を捕まえるのは難易度が高い。つまり、アート大先生のお力を貸してもらわなければ。


「アートさんの魔法でちょちょいとお願いしやす!」


【はぁ…ウォーターボール】


ため息をつきつつも川の中でウォーターボール操作して魚を中に取り込んでいく。4匹ほど水の玉に取り込んだところでふわふわと浮いて俺の方へと寄ってくる。



パシャン


【手が、あ、魔力が滑りました】


水球は俺の頭上で止まったかと思うとそのまま弾けて頭上から水が降ってくる。


魔力が滑ったんならしょうがないか…

俺もよくスベるしな…


あれは忘年会での隠し芸大会の時のことだ…

ネタを思いつかなかった俺はマジックをすることにした。4つの紙コップの中に入れた500円玉が瞬間移動するよくあるやつだ。本当は500円玉は1枚では無くて複数使ってるのをバレない様にやるのだ。

俺はめちゃくちゃ練習してこの技に限って言えばプロレベルだと自負できる。誰がみてもタネには気づかれないはずだ。

いざ隠し芸大会が進んでいきついに、俺の前の新入社員の鈴木くんの番がやってきた。


「今日は先輩方にマジックをお見せします!

こちらになんの変哲もない500円玉となんの変哲もない4紙コップがあります。この500円玉をこちらの紙コップの中に入れます…入れました。そして私が指をパチンと鳴らすと!」

「この様に先ほど入れたこちらのカップには何もありません…ですが!こちらのカップを開けると先ほどのコインがこちらに移動しています!あ…」


「おい!コイン2枚あるのバレてるぞ〜」


まさかのマジックの失敗にハゲ社長からのヤジが飛んできて会場は笑いに包まれた。


そして、俺の番がやってくる…

最悪だ…鈴木くんがマジックと言ってコインと紙コップを出した時から冷や汗が止まらないし頭は真っ白だ。代案が急に思い浮かぶはずもなく終始気まずい雰囲気で終わったという地獄のスベりを思い出してしまった…


てか、魔力が滑るってなに?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界チャット〜せっかく異世界転移したのにチートじゃなくてチャットかよ!?でも、結局チートじゃね?〜このAI優秀だけど辛辣すぎるんだが!? @N-a-o-ya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画