人ならざる者

楠木の雛

独白

 この世に住む人々は一様に僕を蔑む。正確に言えばなのだが、それこそが最大の蔑みであるように、僕は感じてしまう。

「……」

 ほら、また無言で僕の前から去っていく。見るに耐えない置き土産を残して。

 いつもこうだ。僕の元に来る人々は、生み出した腐ったものを僕に与えてくる。僕の苦しさなんて無視して、冷ややかな視線を向けてくる。

 日常的に繰り返されるそれは、拷問のよう。

 救助信号は常に出しているつもりなのに、救いの手も希望も見当たらない。唯一あるのは、絶望に溺れ最底辺から慟哭する僕の心だけ。

 日の目なんて当てられず、人の世の隅で茫然と過ごしていく。

 ――そして、愛という光を渇望しながら苦難に耐えていると時折、何か異質なものがやってくる。一瞬、『救いの手が差し伸べられたのでは』と懇願に似た形で予感するが、心の奥底では分かっている、これが救いなどではないことを。

 黒い影、耳障りな声、たまに僕を突いてくる鋭利なもの、それによる痛み。精神的にも物理的にも、明確な傷を負わせてくる。

 一丁前に苛立ちを覚えるが、反抗などできるはずもない。僕は弱いのだ。自分一人では何もできない弱者。

 これまで無窮に繰り返した、自分への呆れと嘆き。そしてそれをまた行うことに惨めさを感じて嘆くという、精神をすり減らすだけの負の連鎖。

 悔しさを噛み締め、負け犬らしい憎しみを抱きながら、黒い影の正体を認識する。



 ――だ。

 忙しなく羽音を鳴らしながら野蛮にがっつくカラス達。嘆息しか出なかった。やっぱり、この世界に僕への救いはない。光どころか漆黒。

 身体中を貪られるような感覚と視界は幾度目か。そんなことはもう数えていない。

 全てが痛い……全てが心身に刺さる、全てが目障りに思えて来る。

 カラスにより腐乱していく状況は、僕の心を映し出しているように見える。

 だがその時、カラス達が四散。

 そんな事象と共に、人間の声が、僕に名付けられた蔑称――名前を呼んだ。

「えーと…………あった! これか、って」

 僕と対照的に、あっけらかんとした男がまた、ゴミを与えてくる。

 

 僕は一介のゴミ置き場。隅に追いやられ、人から蔑まれるゴミ置き場。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人ならざる者 楠木の雛 @kusunokii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画