噂3:街での噂
【住民:A氏の話】
──ああ、その話。知ってますよ。孫──あそこの■■高校に通ってるんですけどね──あれがちょうどこの間遊びに来たときにね「おじいちゃん知ってるー?」なんてね、話してましたよ。
あれ……ねぇ……たぶんBさんちの娘さんのことなんじゃないかと思うんですよ……。ああ、いえ、あくまでも思うってだけですけど……。
Bさんのところにね、四十過ぎの、もう大きい娘さんがいるんだけど。うちの子と歳近いから、小さい頃なんかはね、家も近いし、ほら、うち通学路の前だから。朝学校行くときに、顔見たら挨拶なんかしてね。いや、まあ特別仲が良いってわけじゃないけども。その、ご近所さんとしてね。普通の、普通の交流はありましたよ。
でも、いつからかなあ。たぶん、娘さんが高校生くらいの時だと思う……うちの子が高校上がる前くらいだったと思うけど……。とにかくね、もう二十年以上前よ。何があったのかは知らないけど、引きこもりにね、なっちゃって。
ある日突然ね、見かけなくなっちゃって。最近見ないなあ、なんて思ってたんだけど。それっきりよ。
──何で引きこもったか? いやあ、それはちょっと、わからないけども。でもね、うちのばあさんなんかも言ってましたよ。あそこんちの子は引きこもりになっちゃったんだってね。
──ああ、そっかそっか。なんで孫の話を聞いて、Bさんちの娘さんかと思ったのかってね。いやね、私、見たんですよ。いつだったかは忘れちゃったけど、何年か前の冬にね、こう、コート着て、長くてボサボサの髪をした女がね、この辺をうろついてるのを。よっぽど通報しようかと思ったんですがね、そいつがBさんちの玄関の前に立って二階の部屋を見つめてるもんでね。ああ、なるほど、Bさんちの娘さんだったのか。ってね。それでしばらく見てたらね、ふらふらと、小学校の方に歩いてったんですよ。不審者なら、ねえ、通報しないとマズイでしょうが、まあBさんちの娘さんってわかってればねえ。通報するのも悪いかって。私はそのまま見送ったんです。
──え? いやまさか、それが本当にBさんちの娘さんだったのか、それをBさんにねえ、確かめるなんてことは。流石にねえ。でも別にBさんも通報したわけじゃなかったようですからね。やっぱり、あれは娘さんだったんじゃないですかねえ。
**********
【住民:B氏の話】
──は? いや、うちに娘はいませんけど。
ええ、はい。息子が一人いますが。娘はいません。
──いやあ……そういう噂は聞いたことないですね。
え? いえ、息子はもう成人してます。
──ここには十年ちょっと前に越してきました。
あ、そうだ、お隣さん。たしかお隣さんには娘さんいたって聞いたなあ。そっちと間違えたんじゃないですかね?
**********
【住民:C氏の話】
──え? あの、何ですって?
──はあ……あの、ごめんなさい、え? その女の……幽霊? が、うちの娘だって言ってた人がいるんですか?
ちょっ……と、ごめんなさいね。それ、どなたがおっしゃってたんですか? ──そりゃ、言えないってのはね、あなたのお立場を考えればわかりますよ。でも……いいです。わかりました、いいです。別にそのお化けがうちの娘だって話が噂になってるってわけじゃないんですよね? ……いえ。別に、あなたが謝ることじゃないです。いいです。もう、いいです。
──うちの娘はもう二十年以上前に嫁いでうちを出てます。
あの、ごめんなさいね、もう帰っていただいて良いでしょうか?
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