第11話 "源"の命名と魔力レクチャー

 不破さんの機転により八浪の追跡を逃れた俺は、昼休みの話の続きをする。


「不破さんも、超能力を発現した日に不思議な夢を見たんですね?」


「そうね、発現した日、と言うか今日見た夢なのだけど。」


「え?不破さんも今日発現したんですか?俺もなんですよ」


「そうなの?つくづく気が合うわね。」


 互いにへぇーと言いながら話を進める。まずは俺が見た夢の内容を不破さんへ伝えた。


 俺の見た夢を聞いて不破さんも答える。


「私も大体一緒ね。気づいたら草原に立ってて、巨大な”塊”を見つけたわ。そして”塊”に触った瞬間、”塊”を含めたその空間全てが私の胸の中に吸い込まれていった。そして目が覚めたらワープが出来るようになっていた。って感じね。」


「そうですか...となると、あの夢を見て、超能力の”みなもと”に触れることで超能力が発現するんですかね?」


みなもと?あぁ、あの塊のこと...。そうね、それで間違いないと思うわ。ところで堀田君、あなたは他人の”塊”を見ることが出来るのよね?それ、どうやってるの?」


「あぁ、”源”を見る方法ですね。それは...」


「ちょっと待ちなさい」


 俺が説明しようとすると、不破さんが手で俺を制する。なんだ?自分で話を振っておいて。


「塊だの源だのと分かりづらいわ。いったん統一しましょう。」


 それもそうだ、確かに2人の間で固有名詞が錯綜していた。


「そうですね、じゃあ不破さんの言う”塊”と、俺が”源”と呼んでるやつは同じだと思うので、どちらに統一しますか?」


「別にどちらかに合わせる必要はないわ。ほら、不思議な力のエネルギー源と言えば、ちょうどいい名前があるじゃない。」


「ちょうどいい名前?」


 なんだろう?てんで思いつかない。


「察しが悪いのね、ファンタジー小説とか読んだことないのかしら?”魔力”よ、”魔力”」


「あー!なるほど!」


 そう言って俺は手を打った。


「確かに不思議な力の源と言ったら魔力ですね。誰でも持ってますし。」


「へぇー、誰でも持ってる物なのね。」


 そうか、不破さんはまだ魔力の扱い方を知らないから他人の魔力を見れないのか。


「それは自分で確かめて見てください。」


 俺はそう言って、不破さんに、魔力を涙に溶かすイメージを説明する。


「涙に溶かすイメージね、やってみるわ。」


 そう言って不破さんはしばらく目を閉じ、意を決して目を開く。


 すると...


「うっ」


 と呻いて不破さんは目を抑える。そうして瞬きを繰り返し、恨めしそうに俺を睨む。


「どういう事??...とても痛かったのだけど???」


「えぇ...。」


 何がいけなかったのだろう...そう思って俺は魔力を目に纏い、不破さんを見る。


 不破さんの足元には小さな魔力のがいくつも転がっていた。


 なるほど、不破さんは魔力を粒状に出して目に入れてしまったのか。それは痛いだろうな。


「どうも魔力を砂粒みたいにして目に入れたのが原因みたいですね...。液体を溶かすっていう意味で言ったんですけど、説明不足でしたね。すみません。」


 そう言って俺は謝るが、不破さんは首を横に振った。


「いいえ、最初は私も液体の魔力を涙に溶かすイメージだと思ったわ。どうしても魔力を液体にするイメージが湧かなかったのよ、私の魔力はとても堅そうだから。だから砂糖を溶かすみたいに、細かい粒を溶かすようにすれば大丈夫かと思ったのだけれど、溶けずに目に残ったわ。」


 なるほど、と言って俺は少し考える。


「もしかしたら、放出出来る魔力は、本人の魔力の”硬さ”に依存するのかもしれません。」


「”硬さ”?」


 首を傾げた不破さんに、俺は人によって魔力の硬さに違いがあることを説明した。


「俺の魔力はだから、魔力を涙に”溶かす”イメージでも行けたんだと思います。けれど魔力がの不破さんには、そのイメージで魔力を目に集めると目を傷めてしまう。」


「つまり別のイメージを作る必要がある、と?」


「そうなりますね」


 うーん...と言って俺と不破さんは新たなイメージを考える。目に魔力を溶かすイメージ...纏う...覆う...


「そうだ!」


 そう言って俺は親指と人差し指で輪っかを作り、そこに魔力で”膜”を張る。丁度石鹸などでシャボン玉を作るときのイメージだ。その”膜”を通して不破さんを見る。


 膜の向こうには不破さんの巨大な魔力が、草原に浮かんでいる様が見えた。


 思った通りだ、魔力が涙に溶けてることが重要ではなく魔力を見ることが重要だったんだ。


 突如、指の輪っかから自分を見られた不破さんは、少し困惑気味に


「どうしたの?」


 と尋ねる。


「不破さん、魔力を薄く引き伸ばして目に被せることはできますか?みたいに!」


 俺の言葉を聞いて不破さんも俺の言葉の意味に気づいたらしい。


「そういう事ね、さっきのは輪っかの中の魔力越しに、私の魔力が見れるか試してたのね。」


 俺は大きく頷く。不破さんも頷いて再び目を閉じる。しばらくした後不破さんはついに目を見開く。


 その目は星空色の膜で覆われていた。良かった、成功したようだ。


「不破さん!できてますよ!」


「ええ、そのようね。これでようやく他人の魔力が見える...わ」


 そう言って不破さんは俺の胸元へと視線をやり、呟いた。


「大きいわね...。」



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俺と私の異能生活 狩野院 翁 @naoki0514

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