第53話 公開処刑
王都の広場は多くの市民たちで埋め尽くされていたが、拘束された王、シャルロッテが兵士に連行されてきたことで急に静まり返る。聖也、由美、そしてガウェインたちロイヤル・ガードも縛られて並べられる。皆披露しきって抵抗する気力も失われているように彩乃には見えた。
「どうして……」
「こんなのは聞いてない。もしかして未来が変化した? いや、これが分かっててエレンミアはシャルロッテさんたちに伝えたのか……」
その光景をふたりが呆然として見ていると、枢機卿とシーマがその後に現れる。満面の笑みを浮かべる枢機卿レンブラントとは対照的に、シーマの顔は憔悴しきっているように彩乃には感じられた。シャルロッテたちが跪かされると、枢機卿が民衆の前に出た。
「なんと良き日なのでしょう。みなさんの祈りが天に通じたのでしょうか、神の御意志に背く大罪人をようやく捕らえることができました。親殺しのシャルロッテ、そしてその一派。さらに女神様を裏切ったと思われる勇者セイヤ。これで正義はなされましょう」
大仰な態度でそう語るが、人々は無表情で見つめている。
「おや? 反応が薄いですねぇ。では、ここでショータイム! ああ、言葉の意味はお気になさらず。シーマさん準備を」
「あっ、はい……。お前たち!」
慌ててシーマが周りの兵士たちに指示をする。シャルロッテたちの背後に彼らはひとりずつ立ち腰の剣を抜く。
「さすがの勇者さまでもこの縄は引きちぎれませんか? これは人間の恐怖、憎悪、妬みなど黒い感情を集めて縄の形状をとった呪具。先の戦争で高位の魔族を拘束するために使用された一品で、正直私も触れたくない感じですね」
ニヤニヤしながらそう告げる枢機卿。顔を上げたセイヤがそれを睨みつける。
「おや? 負け犬さん。さすがに吼える気力もありませんか、残念ですね。あの、何でしたっけ、最後の長い名前の必殺技……。すーぱーめがとん……」
「ぎゃ、ギャラクティカ・マグナム……、だ」
項垂れたまま、ぼそっと呟くセイヤ。
「そうそう、それ。ただのグーパンだと油断して消し飛ぶところでしたよ。危ない危ない。でも、やはり自力の違いは埋められなかったですねぇ。これも短命種ゆえの限界といったところでしょうか。どうです? 人間辞めてみませんか。そうすれば……」
「断る」
「でしょうね。あなた世代のヒーローは安易な闇落ちはしないものですし。ああ、残念ですよ」
もう興味を失ったかのように移動し、次にシャルロッテの前に立つ枢機卿。
「シーマさんのときのあの異常なファイアーボール。横目で見ながらあれには驚かされましたよ。でも、連発できないとは。ほんとうにあなたという人は……。あの若き日、私の申し出を受けていればこんなことにはならなかったでしょうに」
「ふんっ、誰が貴様の女などなろうものか! まず、その顔が気に入らん」
彼はその言葉に驚いた顔をしてみせる。
「ルッキズムですか? 人を見た目で判断してはいけないと幼いころに学びませんでしたかね。こう見えて、私、モテるのですけど。でも、もういいのです。あなたの娘さん、アヤノちゃんでしたか? 将来性がありますねぇ。何より可愛らしい」
「なんだと!? む、娘には手を出させん!」
「王よ。いや元王さまですね。そう仰れてもあなた動けないじゃないですか。あなたを称え、尊敬していたはずの民衆もほらこの通りですよ。皆、自分のことが大事なのです。明らかにこの場での悪役は私なのですけど、彼らの現在の豊かな生活は私の率いる教会によって成立している。誰も自分が不幸になるような正義には動かないのが現実なのですよ。美しい理想主義は物語の中だけにして欲しいものですね」
そう言ってから顔を上げる枢機卿。そしてシーマの方を見る。
「では、シーマさん。断罪のお時間です」
「あ、ああ……」
シーマがゆっくりと手を挙げると兵士たちは剣を上段に構えた。
「た、助けなきゃ!」
「ああ!」
すると、窓から飛び出そうとする彩乃とヴィスに後ろから声が掛けられる。
『待ちなさいなのー。動くのは今じゃないわよー』
彩乃が振り向くとそこには妖精エアリィが浮かんでいた。
「エアリィ! で、でも……」
『ほら、出てきたわよ。アヤノちゃんも知ってる頼りになるおじさんがね』
彩乃は再び窓の外を見る。そこには人混みのなかを悠然と進む一際大きな髭の男の姿があった。
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