第48話 シーマvsシャルロッテ
「ああ、これだよ。これ。普段は力の全開放なんてできないからね。どうだい、シャルロッテ? 僕の偉大さが分かっただろう」
「貴様のそれは……、教会の……。禁忌に手を出したのか」
「ははっ、それは負け惜しみかい? 禁忌とは失礼な。この技術は開発段階だが、僕たち人類を次の段階へと進化させるものなのだよ。僕は一般人とは違う。選ばれた人間だからね、たいして影響はないのさ。さあ、はじめようか!」
――この口調の変化はシーマの単なる高揚感によるものなのか、それとも脳に影響がでているのか……。
シーマから放たれる各種属性の上級ランス系魔法。自分の有能さを示さんとする魔法の槍の雨。被弾すればただでは済まないそれを最小の動きで躱していくシャルロッテ。
――速度、威力ともに申し分ない。魔法構築の複数並列処理もシェヘラザード様に匹敵するといっても良い。流石は百年に一度の才を持つと言われるだけはある。昔見たシーマとはまるで別人だ。これは研鑽によるものなのか、それともやはり……。
「ちょこまかと! その目の良さだけは認めないといけませんね。確か、魔法を構築する術式の構造が視えるとか。剣で斬ったりできるんでしたっけ、そろそろ自慢の銀剣さまに頼られたほうがよろしいのではありませんかね、王さま」
「ああ、ドゥラリュンヌは次代を担う若者に託したよ。もう、銀剣も持っておらぬから伝統的な儀礼に従えば王ではないとも言えるな」
「はあ!? アンタ、俺を舐めてんのか? 銀剣なしでこの僕に勝てるとでも? 糞っ、頭にきた!」
シーマの魔法攻撃の手数が増す。
――やはり、持続力に問題があるのか。魔法構築にムラが出てきた。威力にも幅がある。集中力それに判断力も……。
「この程度の魔法であればこの数打ちの長剣で十分であるな」
そう言うとシャルロッテは本当に魔法攻撃を斬り、霧散させていく。
「本当に魔法を斬っただと!? ふざけやがって、これなら斬れまい!」
シーマは両手を天に掲げる。上空に巨大な魔法陣が出現した。
「極大魔法か。それならば仕方あるまい。魔法には魔法だな」
「はあ? ファイアーボールで何をするっていうんだい? 何千という兵士の軍勢すら消し炭にするこの最上位魔法を相手に正気を失ったか?」
「いや、実はそうでもないのだがな。私のこのたわいもない魔法を見るのは初めてであったか。ならばそう思うのも仕方のないこと」
シャルロッテが小声で【火球となりて】と呟くと彼女の白く細い指先に魔力が集まり小さな炎を形成し始めた。そこに一般的なこの詠唱文には存在しない【Grounds, sea and all of the people who survive, please give me your power a little】という文言が差し込まれる。すると体内から送り込まれるはずの魔力ではなく、つまり彼女の外部、あらゆる場所から小さな魔力の粒がシャルロッテの元に集まってくる。その魔法の炎は次第に巨大なものへと成長し、色も温度変化の上昇を示しているのか黄、白、青と移り変わり最後には通常見るはずのない黒炎へと姿を変えた。
「な、なんなんだ!? その出鱈目な魔法は!」
動揺するシーマにお構いなしに彼女はその指先の巨大な黒炎を天空に浮かぶ魔法陣へと向ける。そして最後に【対象を破壊せよ】と呟くと高速で射出された。空に大きくあったはずの魔法陣は一瞬で消失し、轟音が辺り一面に響き渡る。晴れ渡っていた空は数秒の間ではあるが光を失い、夜の闇のような禍々しい黒さに覆われていた。
「昔、先代の勇者さまから助言を頂いたのだよ。外世界には皆から元気を少しずつ分けてもらって戦ったという英雄がいたようでな。実際私ものちにそれを目にすることになるのだが……。まあ、そんなことはいい。もともと私は魔力を蓄えることに不向きな体質でな、これができるのはそのお陰でもあるらしいから、つまり貴様には無理であろうがな」
「ははっ、はは……。なるほどな。こんな神話の世界の魔法なんて使われたら……」
その場に崩れ落ちるシーマ。彼の目からは戦意は喪失しているのがシャルロッテにも分かった。
シーマとシャルロッテの戦いと同時に始まった勇者セイヤと枢機卿レンブラントの攻防は激しさを増していた。そもそもこの場所は、セイヤとヴィスによって更地となってしまった魔王城跡であった。自責の念からそこにあったクレーター状の巨大な凹みもセイヤひとりでせっせと更地に戻していたのだが、その苦労も無駄なものになっている。強力な魔法攻撃、勇者の聖剣の威力によりあちこちに無数の穴が空いていくのだった。
「おい、聖剣を腕で受け止めるなんてどうなってんだお前の身体はよお!」
「ふふ、これは私の鍛え方が良いと言いたいところですが、言ってはなんですがそちらの聖剣がナマクラなのでは?」
教会騎士を倒しきった由美たちは、その異次元の戦いに呆気にとられていたが、それと同時にこのふたりが心から戦いを楽しんでいるようにも思えていたのだった。
「残念ですが、お遊びはこの辺にしておきましょう。やはりシーマ殿は期待外れのようです」
「あん?」
軽口を叩いてはいたが、正直なところセイヤには微塵も余裕は無かった。ここから更に本気でいくという枢機卿の言葉に背筋に冷たいものが走る気がした。
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