第45話 星詠みの導き②

「ん? 聖也、ここには確か魔王城があったはずだが……」


「うっ、だからさあ……」


 枢機卿に続き、シャルロッテから再び答えにくい質問をされて動揺する勇者セイヤ。


「まあいい。枢機卿、私を探していたようだが何か用でもあったかな?」


 質問が自分から枢機卿へ移り勇者はホッとする。


「親殺しの大罪人として追われ、逃げておられたのではありませんでしたか? シャルロッテ王よ」


 枢機卿レンブラントの言葉にも動じないシャルロッテ。


「誰が逃げたなどと。私は常にこの国を想いそのために行動している。この国を、いや、世界を混乱に陥れようとしておる教会とは意見が合わぬようであるがな」


「何を仰るかと思えば……。相変わらず教会、いえ、神への敬意の欠片もありませんね。ああ、嘆かわしい」


「言っておれ。貴様こそ神の教えを道具として使っておろう。この悪魔が」


「ふふっ。まあ、あなたの不敬すら神は大きなお心でお許しになられるでしょう。ですが、それはあの世のほうで女神様にしていただくとして……。私は教皇様から頂いた権限を行使するまでです。さあ、みなさん。あの女はこの国の王ではなく神を冒涜する異端者です。その命で償わせなさい!」


 枢機卿の言葉に剣を抜く教会騎士たち。その身も心も神へ捧げたという彼らの常人離れした強さは大陸中に知られている。異端刈りと称して行われるその戦闘は残忍、女こどもが相手であっても容赦なく慈悲の心などない。教会騎士というのは市民だけではなく他国の兵士たちからも恐れられていた。


「シャルロッテ様、ここは我らが!」


 ガウェイン、ショーン、クリスが前に出る。


「油断するな。アレはもはや人ではない。外世界の『カガク』の力によって人間が本来持つ安全装置が外されておる。たちの悪い魔物だと思って対応せよ」


「はっ!」



「由美お姉ちゃん……」


「はい、彩乃様。私も教会騎士の戦いは初めて見ます。まさかこれほどのものとは」


 ガウェインたちロイヤル・ガードの強さは大陸一とも言われることは彩乃も聞いていた。しかしその卓越した剣技を持つ彼らが押されている。


「ありゃ、ドーピングだ。おそらくあの兜や甲冑に特殊な魔道具が仕掛けられてるんだよ。脳内麻薬が垂れ流し状態。潜在的な力も出し放題で、痛みなんかたいして感じやしねえ。彩乃ちゃんもクマ獣人を見ただろ、あれに使われてる科学技術とおんなじだな。美雪さん、いや、シェヘラザード様が教会の魔道具を分析してたから知ってるんだけど」


「そんな……」


「まあ、あんなもん使い続けてたら人間としては終わっちまうけど」


 彩乃は、その口調以上に父が悲しげな表情を浮かべているのが気になった。


「人間として終わる?」


「ちょっと説明が難しいんだけどね。クマ獣人の場合その変化は緩やかなんだけどさ、人間本来の姿、動物っていうかケモノだな。理性のないヒトそのものの本性を曝け出した状態になるんだ。赤ん坊、ちいさな子どもっていやあ聞こえはいいが、社会性のない力の強え化け物ができあがるんだ。個体差はあるが教会としては、教育しても効果がないから処分しちまうんだけどな。あの教会騎士の場合は、まあ、使い捨てだろうな……」


「なるほど。セイヤ様の言う通りですね。連中の動きが粗くなってきました。反射の速さは厄介ですが、技術で勝るガウェインたちが巻き返しはじめました」


 由美の言うように教会騎士たちが翻弄され始めたように彩乃にも見える。


「でも、あれは……」


 兜を弾き飛ばされ、鎧を破壊され、身体に深い傷を負いながらも前進する教会騎士たち。腕を切断されても戦意を失わず、脚の腱を切られても這いつくばって進む者もいる。


「ああ、ありゃあ、脳に直接埋め込まれてるみてえだ。こりゃ、最悪だ……」


 父の呟きを聞きながら、彩乃は以前観たゾンビ映画を思い出すが、その光景は作り物ではなく現実のもので震えが止まらなかった。



「ふむ。これはまだまだ改善の余地がありますねぇ。某国にクレーム案件です。まあ、まだストックの数はありますから何とでもなりますが……。ちょっと、シーマ殿、見ているだけじゃなくて手伝いなさいな」


「あっ、はい……。仕方ないですね」


 枢機卿レンブラントに促されると、シーマは持っていた杖を高く掲げる。


「我の呼びかけに応えよ、冥府の死霊ども!」


 すると地中から白い骸骨の群れが這い出してくる。


「あっ、ホネ吾郎さん、それにホネ助さん、ホネ吉さんにホネ一郎さんも!」


 それはあの大型帆船で仲良くなり、勝手に彩乃が名づけたスケルトンたちであった。それを見た由美の表情も変わる。


「くっ、あれを召喚したか……」


「おい、由美ちゃんあれを知ってるのか? どう見てもただのスケルトンじゃねえぞ、上位種? いや変異種級のやべえ感じしかしねえ。俺でも苦戦するんじゃねえか」


 動揺する由美と父の前に両手を広げて立ちはだかる彩乃。


「駄目だよ、あのホネさんたちは私の友だちなんだから!」


「えっ? 彩乃ちゃん、そうは言ってもだな……」


「姫様……、お気持ちは分からなくもないのですけど、こればかりは……」


 突然の彩乃の行動に戸惑う二人であった。

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