第41話 星詠みの導き①
眩しかった光が収まり、少しずつ慣れてきた彩乃の視界に写るのは何も無い更地だった。目を凝らすと周辺には緑の木々が見える。ところどころクレーターのようになっているところもあり、地面の状態から比較的最近ここで大怪獣が暴れたのかと彩乃には思える光景が広がっていた。
「彩乃様、あそこに小屋のようなものがあります。行ってみましょう」
そこには木や石を無造作に積み上げただけの、以前見たスラムの建物のほうが彩乃にはマシにみえる人工物が存在していた。
建物に近づき、警戒のため由美たちが武器を構えたのと同時に、中から黒い影が飛び出した。
「!?」
一瞬で武器が弾き飛ばされる。彩乃の銀剣はシーマの呪縛外にも関わらずいっさい反応しなかった。
「うわっ!?」
再びの浮遊感。眼の前には久しぶりに見る父の顔があった。
「彩乃ちゃーん!」
「お、お父さん?」
父にたかいたかい状態で持ち上げられていた彩乃は、ゆっくりと降ろされる。満面の笑みで両手をいっぱいに広げ、娘を抱きしめようとする父を華麗に躱す彩乃。
「へっ?」
「だって、お父さん。くちゃい!」
鼻をつまんで距離をとる娘とその言葉ににショックを受け崩れ落ちる勇者セイヤ。
「そ、それは仕方ないだろ……。星詠みがここでじっとしてろって言うし……。風呂なんて……。やっぱ、お父さんが悪いのか……。ううっ……」
「ゆ、勇者セイヤ。お久しぶりです!」
「ああ、君は由美ちゃんだね。うん、とっても美人さんになって。これはなかなか」
すっと何事も無かったように立ち上がる勇者。心なしかキメ顔のように彩乃には見えた。
「お父さん!」
「ど、どうしたんだい、彩乃ちゃん? そんな怖い顔をして」
「別に!」
勝手に姿をくらましたことを怒っているのだろうと反省する聖也だったが、彩乃は父の一瞬鼻の下を伸ばしたような顔に反応していたのだった。
「セイヤ様、どうしてあなたがここにいらっしゃるのですか?」
「ああ、それね。なんかさ、妖精さんがやってきてさ。分かる? 妖精、羽が生えててこんなちっさいの」
「ええ、エアリィなら存じております」
「おっ、それ! そのエアリィちゃんだよ。そいつがなんでも星詠み様のお告げだって言うんでよ。そんで俺はここで彩乃が来るのを待ってたんだ」
「ほ、星詠み様が、エレンミア様が私たちがここに来ることを知っておられたというのですか?」
「ああ、あの婆さんの占い良く当たってたからな。俺も昔世話になったもんだぜ。でも……。先日、大きな『気』がひとつ消えたんだ……。やっぱ、遺言みたいなもんなんだろうな」
「……。そうですか、星詠み様が……。それで他に何か?」
「ああ……、説明ももういらないかな。連中も来たようだし」
聖也が向けた視線の先、木々の間から武装した兵士たちが現れるのが由美にも見えた。
「なぜ、この場所が……」
展開する兵士たちの次に現れたのは、教会騎士たちを引き連れて歩いてくる枢機卿だった。
「やあ、これはみなさんお揃いで。ですが、このあたりに魔王城があったはずなのですが……。勇者セイヤ、ご存知ありませんか?」
「さ、さあ……?」
戸惑う聖也。さすがに魔族の少年と暴れまわって破壊したなどとは、娘の前で良いお父さんを演じ続けていた彼には言えることではなかった。
「そうですか。あなたがいることも想定外なのですけど……。ちょっと、シーマ殿? これは聞いてませんよ」
そう枢機卿が言うと、彼の隣の空間が歪む。そこに現れたのはあのシーマであった。彩乃はその姿を見て固まる。
「僕は彼女たちが王家に伝わる秘密の抜け道で、ここに出てくるだろうってことまでしか……。それも禁書庫に忍び込んで図面を見つけるのに苦労したのですよ。まず、その労をねぎらって欲しいのですけどね」
「ああ、もちろん貴殿のことは高く評価しておりますとも。ですが、お姫様を城で拘束したあと連れてきていただけていたら、こんな面倒なことにはならなかったのですけど。これでは、まだ十分な働きとはいえませんね」
「はあ!? ちょっと! 南部での戦争も、親王派の切り崩しに弱体化、それをシャルロッテに気づかれないよう命がけで立ち回ってきたっていうのに……。あと僕はあの城の結界を無くすことしか言われておりませんし、それはないのでは……。」
「頼りにはしているのですよ。もうあと一息といったところですねぇ。ああ、ちょうどよい。そのあなたにとって
「?」
枢機卿とシーマの視線の先を彩乃も見る。白銀の鎧に身を包んだ騎士が森を抜けてこちらに歩いてくるのが見えた。
「お、お母さん!?」
「彩乃、無事であったか。ほう、聖也もいるではないか。なるほど、星詠み様の言われたことはこういうことであったか」
母、シャルロッテだった。ガウェインとショーン、クリスの三人の姿もそこにはあった。
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