第7話
自分は悪くない。自分が悪い。
ぐるぐると、終わらない責任のなすりつけ合いを繰り返して、僕はまた身体が勝手に動き出すことを必死に抑制した。行き交う人たちから怪訝な目を向けられても、僕は天を見上げながら闘い続けるしかなかった。
やがて、三度目のバーが降り始める。
電車がやって来るのが見えて、僕はほっと胸を撫で下ろした。大丈夫だ。この電車が通り過ぎれば、なんとか家に帰れそうな気がする。
そう思って、向けていた視線を天から前へと変えた。通り過ぎていく電車、その車体には、二次元のキャラクターの姿が載せられていた。
二次元とすぐに結びつくのは、僕の場合、ゲームである。小さな頃は、何度も二次元の世界を旅したものだ。
思い出して、更に思い出す。直近の思い出。そういえば須藤も、ゲームが好きなんだったか。
流れて行く電車。巨大な姿で僕の視界を覆う金色の髪をした、二次元の女の子。
ふと、どこかで見たような気がした。昔やったゲームのキャラクターか何かだっただろうか。
脳内の記憶を探ってみたけれど、思い出せなかった。
電車が通り過ぎる間際、普段なら見えるはずもない速度だろうけれど、何故だかはっきりとキャラクターの上部に小さく書かれていた文字が読み取れた。
【株式会社セカンド・ディメンション所属Vtuber『朝日キララ』】
Vtuber。最近、世間をにぎわせている存在だということは知っているけれど、あまり詳しくはない。知っていることと言えばせいぜい、YouTubeなどの動画配信アプリで二次元の姿をした配信者がゲーム実況などをしている、というぐらいだ。二次元好きな自分としては一度見て見たいとも思っていたけれど、最早その界隈は溢れに溢れているし誰から見ればいいものか、と悩んでいる内に忘れて、時間がなくなった。
しかしながら、たかが、というのは失礼に値するのかもしれないけれど、それでもたかが、ゲーム実況をする程度だった「ものがこんなにも社会に影響を与える存在になるとは。電車一面にでかでかと載るなんて、どれだけの費用がかかっているんだろう。所属会社が広告として申請したのか、それとも駅側が使用の許可を申請したのか。どちらにせよ、僕には途方もなく、関係もない話だ。
僕は一歩踏み出そうとした。また、思い出す。須藤、二次元、そして、スマホ。
あの時も、何か文字が見えていた。なんだったか。
3Dモデルで表示された、青い髪の穏やかな顔つきの二次元の女の子の上に【アバター編集】。確かその横に……【
画面の中の奥の君 スライム系おじ @pokonosuke
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