電話BOX

ぽてぃお

第1話

仕事上のトラブル続きでご無沙汰だった飲み会。

何とかひと段落ついた安心感と久々の酒の席でつい飲みすぎてしまった。

酔いを醒まそうと家までの道を鼻歌を歌いつつ歩く。この公園を抜ければそろそろ我が家が見えてくるはずだ。

ふと、違和感を感じた。前方にぼんやり光る何かがある。…何だ?

近付いてみればそれは電話BOXだった。こんな所に電話BOXなんてあっただろうか?何かに吸い寄せられるかのように電話BOXへと足を向ける。

緑の公衆電話に黄色い電話帳。

今では見かけることも少なくなった電話BOX。懐かしさを感じながら辺りを見回していると張り紙を見つけた。


『後悔していませんか? xx-xxxx』


この番号に電話すれば…どうなるのだろう?

酒の力もあり好奇心をおさえられず受話器を手に取り耳に当てる。

そうだ、お金を入れなければと財布を取り出そうとして気付く。まるでこれを使えと言わんばかりに電話の上に未使用のテレホンカードが置いてある。柄も何もない真っ白なテレホンカード。それを手に取り電話に投入し張り紙に書かれた番号をダイヤルする。

PRRRRR… PRRRRR… PRRRRR…

呼び出し音が鳴り続けるだけで誰も出ない。ただの悪戯だったかと受話器を置こうとしたその時。


「…はい。」


心臓が止まるかと思った。何故ならその声は。その懐かしくも悲しい声は…。

あの日、永遠に失ってしまった。恋になりそこなった。親友のあいつの声だった。


全てがキラキラして何だってできる何だってやれると思っていたあの頃。

自分の隣にはいつだってあいつがいて、あいつの隣は自分の特等席だった。

そんな日々がずっと、ずっと続くと思ってた。

蝉の鳴き声が五月蠅い日だった。2人、日陰でアイスを食べていた。

ポツリとあいつが言った。

「好き。」

時が止まった。蝉が鳴いている。溶けたアイスが手に滴ってきて不快だ。

何も。何も返せなかった。ただ力なく笑ってやり過ごすしかできなかった。

どれぐらいそうしてただろう。

「帰ろっか」

あいつは優しく笑って言った。怒るでもなく悲しむでもなく。ただ普通に。いつも通りに穏やかだった。

それが最後の会話になるとは思いもしなかった。また明日も明後日もその先も。変わらない日々を過ごせると思っていた。思っていたんだ。


翌日。あいつが死んだ。事故だった。


あいつは最後まで穏やかな顔だった。ああ。やっとわかった。あいつの事が好きだ。

好きだった。けれどもう遅いんだ。今更だ。恋にならない。なれない。

あの時、ただ「好き。」といえばよかったんだ。それだけでよかったのに。

後で悔いるから『後悔』本当にその通りだ。


でも、今。何の奇跡か冗談か。繋がった。

この受話器の向こうにあいつがいる。今この言葉を伝えてもどうしようもないのはわかってる。わかっているけど今度こそ後悔したくないんだ。だから。


「好き。」


言えた。鼻声だし震えてるしで何とも情けないけれども。それでもきっと。あいつには伝わる。


「うん!」


受話器の向こうにとびきりの笑顔のあいつが見えた。










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