ブランコと提灯

@kanzeki

第1話 花火

その夜も曇りだった。



「……」


何気なく時間の浪費を感じて、スマホから目を離した。外は落ち込んだ色をしている。

雲はまだ、ところどころ穴あきで、隙間を縫って西日が差していた。

画面には豊かな自然が、窓の外には屹立きつりつするビル群が広がっている。それから瞼をおろしても、疲れは癒えなかった。

ぬるくなった麦茶を飲んで、濁した。

しばらくの間、橙色のサーチライトが空から降り注いでいた。


一面のガラスは水の粒を纏って、灯を反射する。それから、粒がスルスルと流れ、道筋ができて、サッシに消えた。

結露だと思っていたが、雨粒だったらしい。二時間ほど前に小雨を降らせたようだった。

流れた跡は透き通っていた。


冷えた鍵がぎこちなく上がり、音を立てて外へ出た。じめついていると思われたが、案外、風が吹いて乾いていた。他所から風鈴の音が聞こえる程である。


徐に、雲が埋め尽くす空を仰ぎ見る。

胸から息が抜けていった。降り注ぐ監視の目はもうない。

曇天は、重い布団のようだった。


辺りはひどく鎮まり返っていたが、しばらくすると、銃声のような、ドスの聞いた音が雲に反射してきた。


そうだった。ポストにいれられていたチラシを思い出す。確か、祭りのチラシもあった。


初めの、口笛のような音なんてものは、遠くて聞こえなかったが、確かに、霰が降るような音はわかった。

きっと煌びやかな火が宵闇によく映えているだろう。それから、さらさらと隠れて行くのだろう。

壮麗な景色を想起させる音だった。

光そのものは、建物の死角にあり、私の目には届かなかった。喧騒があり続けても空は淀んだままで、むしろ、何枚も暗幕を下ろすように、晴れた空を覆っていた。


近くの道を提灯の明かりが通り過ぎた頃。

しいんとして、陰気くさい街に戻る。

一時間後には雨が降るらしい。

部屋に戻り、ただ漠然とした不安を空に問いかけていた。

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