第7話 大団円

 死刑執行は、それからほどなく行われたが、あまりにも多い人数だということで、政府の発表だけで、詳しい人数や、姓名までは、公表されなかった。

 最近では、

「死者への尊厳」

 ということを言われるようになり、死者というのは、

「死刑囚であっても、死んでしまえば、罪は許される」

 という考えから、その尊厳は守られるというのが、この世界であった。

 他の世界では、

「被害者家族に対して、気の毒すぎる」

 ということで、死刑執行される人には、

「基本的な人権はない」

 と言われてきた。

 それでも、死刑執行の前日から、執行されるまでというのは、

「死刑囚であっても、罪にならないことであれば、少々のことは許される」

 ということであった。

 だから、死刑囚が、

「食べたいものがある」

 といえば、お金さえ払えば食べられるし、

「オンナを抱きたい」

 という希望も叶えてくれる。

 それはまるで、戦争中における、

「出征兵士の前日を思わせる」

 というものだ。

 前の日には、若いということで、童貞であれば、すぐに嫁を取らせて、契りを結ばせる。

「この世の愉しみを少しでも味合せる」

 ということで、

「オンナの権利は、この際ない」

 といってもいい。

 お互いに好き同志であればいいが」

 と言われるかも知れないが、それも辛い。

 好きな人が戦争に取られて、

「明日をも知れぬ命」

 ということになるのだ。

 そんな時、

「替え玉がいればいいのに」

 と思った人もいたかも知れない。

「同じ顔の人が他にいて、その人に戦争に行ってもらえればな」

 という考えであったが、もっと奥深く考える人は、

「何も人間でなくて、ロボットのような兵士がいて、ロボット同士で戦わせるということにすれば、人は死なずに済むではないか?」

 ということを考えていた。

 そう思うと、

「なぜ、戦争などが起こって、人が死ななければいけないのか?」

 という基本的なことが分からなくなる。

 だから、

「同じ顔の人に身代わりになってもらう」

 という考えもあるわけで、実際に、

「整形をした人が、本当は殺されるところを助けられて、その人に恩を感じることで、その人の代わりに、戦争に取られる」

 というような小説を読んだことがあった。

「顔の整形」

 というのが、その時には、どういうことなのかということがよく分からな方ので、それ以上何も言えなかったが、

「国家の公共が大切なのか、個人の尊厳が大切なのか?」

 ということを考えるのが、この国だったのだ。

 死刑囚が全員処刑されたということが伝わってから、数日後に、一人の男が、ある島から脱出してきたということであった。

 記憶は失われていて、医者が、その人物を診たのだが、医者は、何やら、頭を傾げていたのだ。

「これは口にしてもいいことなのか?」

 ということを考えていたが、それが、国家に関わることであれば、

「公共の福祉」

 ということで、口外をしてはいけないことだといえるだろう。

 さすがに、病院に帰って、院長には報告しないといけないので報告を行った。

「今日の脱出してきたという人なんですが、完全に記憶を失っているんですよ」

 というと、院長は、

「ほう、それはどういうことなのかな?」

 と落ち着いた様子で答えたが、

「どうも、その記憶喪失というのも、何か作られた記憶喪失のような気がするんです」

 というと、

「どういうことだい?」

 というと、その院長は、

「その男は、故意に記憶を失っていたということかな?」

 というので、

「はい、そういうことのようです」

 と答えると、

「君は、そのことを決して口外してはいけないよ」

 と言われた。

 彼も、そのことは分かっていたので、それ以上口外するつもりはなかったが、何か背筋に寒気が走ったのだ。

 院長は、それを聞いて、その医者が退室したそのタイミングで、誰かのところに電話を掛けていたようだ。

 その相手というのが、

「黒岩教授」

 だったのだ。

 黒岩教授はそれを聞いて、

「きっと、その人が、まるで催眠術にかかっているかのようだということかな?」

 と聞かれた院長は、

「そのような感じですね。彼が一言言っていたんですが、まるで、どこにでもいるような顔だったというんです」

「ほう」

 と、博士は、乗り気になり、

「それは、ロボットのような顔かな?」

 と聞くと、

「ええ、そうです、まるで、作られたかのような顔だと言っていたので、それが、どこにでもいる顔に見えたんだと思います」

 という。

 医者は、精神的な分野で、博士たちが研究している、同じ顔に成型するという心理学的な試験計画を知っているのだが、最初は、

「まさか、そんな状態だっただなんて」

 と思ったのだ。

「公共の福祉」

 とはいえ、人権であったり、この国の未来を考えると、あまりにも先に進みすぎているように思えた。

 確かに、

「ロボット開発」

 であったり、

「タイムマシンの開発」

 という、二代巨頭と呼ばれる研究に、

「同じ顔をした人たちが、どのように活躍する」

 ということになるのか。そのあたりが難しいところだと思うのだった。

「同じ顔をしている人が、今、この国にはたくさんいるんだろうな」

 と先生は感じたことで、今回の事件に、

「黒岩博士が絡んでいる」

 ということがすぐに分かったのだった。

 この医者は、黒岩博士からの依頼で、

「バーナム効果」

 と、

「同じ顔をした人間」

 というものの関係を調べていた。

 死刑囚を全員処刑しようと考えた時、医者は、誰にでも当てはまることを口にすることで、いろいろな、

「世界を二分するもの」

 という発想が生まれてきた。

 二分するものとして考えられるものが、

「ロボット工学を開発している国」

 と、

「タイムマシンを開発している国」

 との間でどのような発想があるか、考えてしまう。

 普通は、その両方の研究を、同時に行うというのが、国の考え方ではないだろうか。お互いに、その発想を共有できると思うからだ。

 しかし、実際には、そんなことはありえない。同じ国であればあるほど、お互いに、研究するということがうまく行かないだろう。

 それが、この国の体制であったり、他の世界の、

「日本という国」

 だったりするのだ。

 まったく違っているように思えるのは、自分たちが中にいるからで、表から見ると、似た者同士、

 だから、

「それぞれの国で、お互いを意識して、仮想敵国にしていた」

 などということは誰にも分からないだろう。

 同じ顔を作り上げて、片方の国に送ることで、分からなかった部分を見ることができる。それが、この国の、

「心理的な秘密兵器」

 ということであり、作戦でもあったのだ。

 この国に迫ってくる国というのが、

「次元を通り超えることとなる日本という国だ」

 ということは、こっちの世界では分かってはいるが、向こうの世界では分からないだろう。

 何といっても、向こうの世界では、すでに、タイムマシンを作り上げていて。ロボット工学も作っていた。

 それは、

「あちらの世界では実現不可能であるが、次元を超えたパラレルワールドであれば、実現可能なのだ」

 ということに辿り着いたからだ。

 こっちの世界では、

「同じ顔の人を作る」

 ということまでしか分かっていないが、これが未来において、

「日本を追い越す」

 ということになる。

 というのである。

 今この国を救えるのは、

「誰だというのだろうか?」

 それを考えると、島から流れ着いた男であった。

 その顔は、

「見覚えがあるのだが、誰なのか、初めて見る顔だ」

 ということで、

「あれ? これもどこかで?」

 と思ったことであった。

 それがすぐには分からなかったが、その時に感じたのが、

「辻褄を合せっること」

 だったのだ。

 そう、辻褄さえ合わせれば、それがいかにうまくいくかということであるが、そのような現象を、

「デジャブ」

 というのだ。

「デジャブ」

 と、

「バーナム効果」

 まったく別物であるが、これこそ、

「ロボット工学」

 と、

「タイムマシン」

 との違うを感じるようになると、それこそ、

「同じ顔の人物として作ったのが、大門博士だということだ」

 一体、大門博士は、どこにいるのであろうか?

 時代が進むと、

「死刑執行」

 と、

「安楽死」

 という問題が、解決される時がやってくるに違いない。


                 (  完  )


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二つの世界と同じ顔 森本 晃次 @kakku

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