第八話

自由時間の中で各々が覚醒後の自身の身体能力を確認する為、様々な事をやってみせた。


純粋にスピードを測る。


「100メートルで5.2秒か。運動は苦手と聞いたが、覚醒すればそれも関係ない。だが筋はいいかもしれんぞ佐藤」


「そうですか先生!くぅうう…今まで13秒切った事なかったからこんな嬉しい事は…!」


「にゃああああああああああ!!」


「おぉ、3秒切るか。速いな猫山」


「上には上がっ!」



どれだけの重量の物を持ち上げる事が出来るのか。

美紅の計らいで一つ当たり20トン超えの巨石とそれを持ち積み上げる大型重機が用意される。


「うおおおおおおおおおおおお!これで、二つ目えええええええええええ!!」


「大丈夫、藤原君?」


「よ、余裕だぜえ中沢ぁ!てか、俺よりも―――」


「え?」


「同じ大岩4つ積んでるお前の方がやべえって!?」



ジャンプすればどれだけ高く跳び上がる事が出来るのだろうとか。


「にゃふふ、猫である私に跳躍力で勝てるかなぁ――――?」


「その勝負!乗ったあ――――!」


「交互に飛び跳ねながら言い合ってる…」


「すごいね。計測機だと二人とも15メートル超えてるっぽいよ……そういえば高坂君はどうだった?僕は10メートルやっと超えた位の感じだったけど…」


「俺か。確か……20メートル?」


「いやぶっちぎりだね」



今の反射神経でどれだけボールを避け続ける事が出来るのだろうとか。


「おらあ!」


「くっ」


「にゃあ!」


「このっ」


「やあ!」


「まだまだっ」


「ぇ、えーい!!」


「あぶなっっ」


外野4人から狙われ続ける高坂1人の図。


「いや待て、終わりが見えないっ」


――――などと試せる事は全て行った。


そしてやはりと言うべきか。

そのどれもで恐ろしい程の結果を叩きだす事が出来たのだ。


「吾輩が思った以上に色々やった様で何よりである。どうだったか?今の貴様達のスペックがどれほどか、実感が持てたか?」


「はい。末恐ろしいですね、これは…」


「だろう?だがそれに浮かれ過ぎないようにするのだ。幼稚な心に過ぎたる力は簡単に身を滅ぼすのだからな」


皆の言葉を代弁するように高坂が応えた。

覚醒した直後のそれとは比較にならない程の、動けば動く程に感じる高揚感はある種癖になりそうだった。


とはいえ美紅が諭す通り、今の自分達にとって過ぎたる力である。


これが能力者としての身体能力。

純粋に高められた肉体スペックは十分に慣らさなければ、何かの拍子で加減を間違えかねない程に桁が違う。


「今後は覚醒後の力加減のやり方も訓練していく。能力者用の装備は相応に頑丈だがそれでも限度がある。力み過ぎて壊しました、となって慌てるのも不本意だろう」


「故に気持ちを入れ直すようにしろ。以上である」と最後にそう言葉を締めて自由時間は終わる。


水分補給と小休憩を間に挟んだ後、整列した亮達5人の前に立った美紅・ルーシェは次にすべき内容を伝える。


「次は『アーツ』に関してである。覚醒し、その力を十全に扱って初めて、能力者はその真価を発揮する事となる」


アーツ。


能力者が発現するとされる異能力。

科学的な説明が及ばない理解不明の超常の力を総じて呼称した言葉である。


覚醒した状態で初めてアーツは使う事が出来るようになるが、その内容は千差万別。


攻撃に特化した、もしくは防御に特化した。

味方を癒す支援に特化した能力であったり、完全に非戦闘員向けの変わったアーツの存在も確認されている。


「アーツは適性検査によってパーソルデータを収集された後、パーソナルリングから確認が出来るようになっている。確認してみるといい」


パーソナルリングでの操作を教えて貰った後、高坂 亮ら5人はそれぞれが自身のアーツを確認する事となった。








「『点火イグニッション』?……意味は分かるが、どういうアーツになるんだ、これ」


高坂 亮は眉を顰めていた。

パーソナルリングから投影されるホログラムモニターには自身の名前、生年月日。

更に体重や身長など何時計測したか分からない様な情報さえも記載されている。


その中にアーツという項目で名称が確認出来る訳だが―――。


「記載されているのは名称だけ?名称はある癖にどんなアーツかは自身で調べろと?何か中途半端だな…」


「りょーう!どうだった?」


美愛が亮の腰に抱き着きながら亮のホログラムモニターを見ようと脇下から覗き込んできた。


「おい、また先生からお叱りの言葉が来るぞ」


「いいっていいって。互いにどんなアーツか確認し合えってさ……で、亮はこれ『点火』?火付けるの?」


「読んでその通りの意味だったらそうだけど、どうなんだろうな……ちなみに美愛は?」


「にゃふふ、何だか分かる?」


「どうせキャッ〇ウーマンとかだろ?」


「どこぞのアメコミヒロインみたいな?けどぶっぶー。不正解」


美愛がパーソナルリングからホログラムモニターを投影して見せて来た。


「えーと…『獣化トランスビースト?』」


「そ。まあ私がこんな見てくれだからかな。アーツの名前もそうだしどういう能力かって想像もし易いよね」


「確かに。アーツの影響で外見が変わる事もあるって先生も言ってたもんな」


で、猫か。

アーツ名は見た所特定の動物を指したものではなさそうだけど、当人次第で変わったりするのだろうか?


「高坂、猫山。どんなアーツだった?」


「藤原か。佐藤と中沢さんも」


亮と美愛の下に藤原 裕、佐藤 洋、中沢 礼香の3人が集まる。


「俺達も確認し合ってたんだ。後、やっぱり全員で共有してた方がいいだろ?」


「確かに、それもそうだ。俺は『点火』ってアーツだった」


「『点火』?火付けるのか?」


「美愛と同じ反応だぞそれ……で、藤原達は?」


「俺は『肉体再生リザレクション』」


「僕は『俊足ハイ・スピード』だったよ」


亮に聞かれ自身のアーツを答える裕と洋だったが、礼香だけは俯いていて言い難そうな表情を浮かべていた。


「中沢さん、どうしたんだ?」


「いや、俺と佐藤もまだ教えて貰ってないんだよな」


「うん。何だか言いたくないらしくって」


「中沢さーん?どしたのー?ちなみに私は『獣化』ってアーツだったにゃ?」


「うぅ、イメージ通りだよね猫山さんは…」


礼香は言葉を濁すばかりで二の足が踏めないという様子だったが、少しの苦悩の後、小さくボソッと呟いた。


「『怪力ストロングパワー』だって……全然可愛くないよぅ」


『怪力』


他の4人が「あー」とどこか納得した様な表情を浮かべてしまったのは不可抗力である。

それを見てしまった礼香は顔を真っ赤にする。


「えっ!何で「あ、分かるぅ」みたいな顔するのぉー!」


「いや、だって自由時間の時に片鱗見せてたしな。俺の倍大岩持ち上げてたり」


「ボール投げる時も中沢さんだけ音が違ったにゃ。亮も当たったらやばそうだったって一番必死に避けてたし」


「ああ。一人だけ音が違ったから、つい」


「あははは……僕はノーコメントで」


フォローや否定をしない時点で洋も他の3人に同意しているようなものであった。


礼香はこの世の終わりを見たかのような表情のまま美紅に駆け寄る。


「せんせー!アーツって変えられないんですか!?」


「無理だな。どういうアーツを宿すのか、その条件はあるのか解明だってされてない。今の所、アーツはランダムに決まるとしか言えんのだよ。……まあ、それが中沢の才能だと思って誇るといい。シンプルで分かり易い良いアーツではないか。吾輩も訓練方針考えるの楽だし」


「楽って言った!?最後の絶対本音ポロって出てますよねー!?」


中沢 礼香の現実は無常である。

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