しっぽ21本目 新しい仲間、新しい誓い。だけど……。

 みんなで帰って来た。公園の時計の針は、朝の六時四十分を指している。

 わたしたちは元の姿に。清助せいすけさんは銀子ぎんこが被ってるペルソナの中。借表かりおもて君と銀子ぎんこの怪我も治って二人は驚いている。「ペルソナの霊力のおかげかも」って清助せいすけさんは言った。

 マアミの妖力で、剛田ごうだ君にはまた眠ってもらった。記憶も消せるらしい。これ以上わたしたちの正体を知られないように。

 なんだか長い旅をしてきたみたい。

「マアミ。君はこれからどうするのかな」

清助せいすけさんがかけた言葉にマアミはしばらく考えて。

「ワタシ、山に帰る。真美まみお母さんと二人で生きていく。ワタシの妖力で記憶を消せば、学校の人たちは何も覚えてないわ」

 ええ、そんな。せっかく打ち解けたのに。

「わたしはさみしい。そのまま学校に通えるでしょ? もっと仲良くしたい」

唯子ゆいこ、わがままは言わないの。決めるのはマアミよ」

 そんなこと言ったっておばあちゃん。

「ぼくに提案があるんだけど、いい? 優和ゆうわさん、良かったら普通の猫としてうちの子にならないかな。そうすれば望月もちづきさんもぼくも、さみしくないし」

 借表かりおもて君、ナイスアイデア! マアミには新しい家族の中で幸せになってほしい。

「……いいの? 借表かりおもて

「かまわないよ。ぼくの家族も歓迎してくれるさ」

 マアミが笑った。それはOKオーケーのサインね。

 良かった! これでもっと仲良くできる! うれしい。

看恵みえさん、あなたにお礼を。ありがとう」

 銀子ぎんこが頭を下げた。本当は清助せいすけさんだけど。

「いえそんな、どんでもありません」

 おばあちゃんも慌てて頭を下げていた。

看恵みえさん。困難に毅然きぜんと立ち向かい、決して怯まない姿を私はずっと見ていた。あなたは健気で聡明な方だ。そばにいる唯子ゆいこさんはきっと、立派に成長するだろう」

「イヤですわ清助せいすけ様ったら」

 ペちっ

 おばあちゃんたら。照れて清助せいすけさんのつもりで銀子ぎんこをたたいてる。

「痛いですのおばあちゃま。ひどい」

唯子ゆいこさん。せい君。君たちにペルソナを託したい。二人でより良い未来へ進んでほしい」

「「はい」」

 より良い未来。それは……。借表かりおもて君はどう感じたのかな。

「いいね。看恵みえさん」

「はい」

 あら、次にペルソナを継ぐのはパパのはずじゃ。わたしも「はい」って言ったけど、いいのかな。

「マアミ。願いとは未来へ向かうためにある。死をくつがえすことはペルソナはしない。これからを生きてほしい。真美まみさんの願いを叶えてやっておくれ」

 マアミは黙ってうなずいた。大丈夫。わたしも応援する。

「あの、これ」

 借表かりおもて君がハンカチを広げた。砂? 白くてキラキラしてて、砂粒より大きい。

「……そうかせい君。今一度、救ってくれるかな? 唯子ゆいこさん。彼のペルソナを」

 清助せいすけさんの言われた通りに、借表かりおもて君に返した。彼がペルソナを白い砂にかざすと。

借表清かりおもてせいがお願いします。これを形に。〝約束〟は優和ゆうわさんを、『マアミをせいいっぱい、守ります!』」

「えっ、ちょっっ! せい君!?」

 あれ。マアミがほほを赤くした。なんか清助せいすけさん、慌ててるけど。

 ペルソナから光があふれて消えた。借表かりおもて君の手には、元通りになったチョーカー!

「どうぞ」

 借表かりおもて君から受け取ったマアミは、信じられないって顔をして。

「お母さん? 真美まみお母さんなの?」

 チョーカーを抱きしめて、笑顔で泣いてる。応えるようにそれは輝いた。

 真美まみさんだ。真美まみさんの魂が戻って来たんだ!

「せ、せいくぅぅぅん。君は大変なことを口走ったねえ」

 おめでたいのに、清助せいすけさんは何を言っているのかな。

「あの、ぼくは何かまずいことを言いました?」

「別に変なことは言ってないと思いますけど……?」

 わたしも聞いてみた。マアミは借表かりおもて君の新しい家族だもの。彼が守るのは当然よね。

「ゆ、唯子ゆいこさんまで? まったく、どいつもこいつもお!」

 今度はすねちゃった。どうして?

「冗談だよ。ハハ……はぁ。もう行かねば。このままでいるのは無理だからね」

 ああ、もう帰っちゃう。もっとお話しがしたかった…でもそのため息は?

銀子ぎんこさん。唯子ゆいこさんの願いが叶えば君は解放される。魂は自由だ。どうするかね?」

「ワタクシは……。離れたくありませんわ。清助せいすけ様とも、望月もちづきのみなさんとも」

「そうか。君は私と一心同体だ。これからもよろしく」

「うれしいお言葉。誠心誠意、お仕えいたしますわ」

 しっぽがすごい。ブンブン音が鳴ってる。そうか。銀子ぎんこさん、決めたんだ。

みな。私は君たちと共に生きている。いつまでもペルソナにいるよ」

清助せいすけさん。あなたのおかげで、ぼくは自信が持てました。さよなら」

清助せいすけ様。望月もちづきはいつまでもお守りします。どうかお達者で」

「ありがとう。清助せいすけのおっさん」

みんな、思い思いの言葉でさよならを言った。わたしはもう一度、言いたい。

 願いじゃなく、を。

「わたし、必ず叶えます! さよなら、清助せいすけさん」

 清助せいすけさんが、ニコって笑ったような気がした。

「ああ、唯子ゆいこさんの成功を祈っている。『頼むよ、本当に』」

 ペルソナがぼんやり光って消えて、それから清助せいすけさんの声は聞こえなくなった。

 青空が広がっている。結界が解けて、元のとても平和な公園に戻った。

唯子ゆいこ。あとは恋の成就ですわね)

 借表かりおもて君にバレないように、銀子ぎんこが頭の中に話しかけてきた。

 そう、告白するだけ。でも、清助せいすけさんに新ためて誓ったのは。

(ねえ銀子ぎんこ。〝約束〟を果たした今なら、わたしのお願いを解くことはできる?)

(できますが……? まさか、あきらめてしまったんですの!?)

 そうじゃなくて。わたしは、わたしの勇気でこれから生きていきたい。だから、

(誰にも、何にも頼らずに自分から借表かりおもて君に告白したい)

(後悔はしません? ダメだったとしても唯子ゆいこの責任ですわよ)

(失敗を受け入れるのも、勇気よ)

(ンまっ! とってもご立派ですわ。ずいぶんと大きく出られましたわね)

 言い方! 日本語、変! 大きく成長したと言って。

(喜んで解いてさしあげますわ)

 とか言いながら、さみしそう。実はわたしもだけど。

(これで願いは解かれましたわ。唯子ゆいこ、グッドラック)

 えっもう? この場で終わるなんて。特に変わった様子は無くて拍子抜けした。

 これからは、わたしの勇気に挑戦よ。

 このあと、おばあちゃんの車で眠ったままの剛田ごうだ君を彼の家まで連れて行った。

              ◇ ◇ ◇ ◇

 わがに帰って来た。結局、おばあちゃんの勧めで学校はお休みにしちゃった。借表かりおもて君も。様子がおかしい剛田ごうだ君もお休みねきっと。

「今夜はお祝いよ。いっぱいご馳走作るからね。借表かりおもて君とマアミも一緒にね」

 そして夜。新ためて借表かりおもて君とマアミを招いてお祝いした。テーブルにはご馳走がたくさん。二人は「おいしいおいしい」って言っておばあちゃんの味を、力いっぱいほおばってた。わたしたちはケモ耳娘みみむすめで。二人から「シュールありえない」って言われちゃった。

 そしてみんなんでたくさんお話をした。借表かりおもて君もマアミもいっぱい、笑ってくれた。

 明日もいっぱい笑いあいたい。

 だけど。

〝約束〟を果たして願いが解かれた今、銀子ぎんこはペルソナに戻らなきゃならない。

 でもわたしが決めたこと。銀子ぎんこも分かっている。おばあちゃんにも伝えてある。

 ──やがて。楽しい幸せな時間が終わって借表かりおもて君とマアミが帰ってから。

 縁側で、銀子ぎんこをはさんで三人で並んで座って。

「ねえ銀子ぎんこ。いつまで、一緒にいてくれる?」

 本当は……。銀子ぎんこがいなくなるなんてイヤ。

 もっとお話しがしたい。そばにいてほしい。

 わたしの恋を見とどけてほしい!

「ワタクシは、ペルソナと共にある身ですわ。願いがある時だけこの世界に現れる者」

「いけないわー。歳を取るとー、すぐ疲れちゃうわー……。おやすみ」

 おばあちゃんの目に涙が光ってた。気を使ってくれて、二人にしてくれてありがとう。

「わたしがお願いしたら、〝約束〟したら。いつまでもここにいられるよね?」

「それは…………」

 分かってる。わたしは分かってる! こんなのお願いでもなんでもない。

 無理だって、ただのわがままだってことくらい!

明日あすの朝、帰ります。清助せいすけ様のお言葉をお借りしますけど、ワタクシは……唯子ゆいこ。あなたと共に生きています。いつでも、ペルソナにいますわ」

 銀子ぎんこは優しく、わたしにほほずりしてくれた。

「うん……うん!」

 たまらず彼女をギューってした。

「苦しいですわ。ワタクシもギューっ」

「わたしはもっと、もっとギューっ!」

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