しっぽ19本目 ペルソナの九尾

「うあああああ!!」

 優和ゆうわさんの絶叫。

唯子ゆいこ! 唯子ゆいこ!!」

 おばあちゃんの叫び声。わたしを抱きしめてくれている。

 つむっていた目をゆっくり開けると、膝には借表かりおもて君が。本当に時間が過ぎていない。

(あれ。なんでぼくは、ぼくを見下ろしているんだ?)

 はい? どうして。

 借表かりおもて君の声が、わたしの頭の中に響くの?

(協力してくれると言ってくれたじゃないかせい君。君はまだ、私とペルソナの中だよ)

 今度は清助せいすけさんが。みんなひとつになったまま。

「おばあちゃん。わたし」

唯子ゆいこ! あんなんことをして。ペルソナを被ったままだし、どうなっているの?」

 呪いはかかっていない。わたしの体だ

「あの。えっと、おばあちゃん。みんな一緒にいるの。銀子ぎんこはもちろんだし、借表かりおもて君も。それに、清助せいすけさんも」

「おばあちゃま」

唯子ゆいこさんのおばあさん」

「初めまして看恵みえさん」

 わたしの口からみんなの声を聞いたおばあちゃんは、固まってしまった。

看恵みえさん。説明している時間はないんだ。剛田ごうだ君と借表かりおもて君の体を頼みます」

 わたしは借表かりおもて君を預けて立ち上がる。

(みんなの心をイメージしておくれ唯子ゆいこさん。君が望むままの姿になれる)

 みんなの心。みんなの──みんな、みんなは強い!

 わたしはオーロラのような、虹色の光に包まれた。これはきっと、四人の心の色。

「その姿……。しっぽが九本。ペルソナの、目が」

 おばあちゃんの驚いた声。見える、感じる。体が、力が大きくなっていく。しめ縄みたいだったしっぽがほどけて九本。その全部が孔雀くじゃくの尾羽のようにそそり立つ。

 そしてペルソナの、目。

 優和ゆうわさんと真美まみさんを繋ぐために開いた、黒い瞳の金色の目。今のわたしは。

「わたしは、ペルソナの九尾」

唯子ゆいこさん。君は無敵だ)

(ああ。唯子ゆいこの勇姿がワタクシには見えますわ)

(ぼくにも見える。すごい)

 みんなんで優和ゆうわさんを見すえた。今から、彼女と真美まみさんを助けに行く。

(そうそう、せい君のペルソナを忘れてはいけないよ。きっと力になる)

(え? ぼくは〝約束〟を)

(果たしたよ。大丈夫だ)

(ええ?)

 うん。わたしは間違っていなかった。

「おばあちゃん。借表かりおもて君のペルソナを」

 受け取った。その時に、ちょっと触れた指先から信頼が伝わる。

「お願いおばあちゃん。優和ゆうわさんを自由にしてあげて」

 これで彼女は自由に動けるはず。なのに、うずくまったまま。叫び声もんだ。

 もしかして動けなくなったか、気を失った?

 近づいてみよう。ゆっくり、気をつけながら向かう。あと数歩、というところで。

 魂が、わたしを狙って撃ち出された。

(やめて!)

 真美まみさんの叫びがまた。

 魂の動きがゆっくりに見える。金色の目に霊力を込めて、魂を止めた。右手で優しく、直接つかむ。痛くない。手が、焼けない。

 ドン!

 黒い雷撃と衝撃。黒い電流がしつこく、まとわりついた。

 九尾を、白銀に光らせて散らす。これもペルソナの九尾の霊力なのね。

 剛田ごうだ君の魂は無事。小さなペルソナといっしょに、とっさに両手で包んで良かった。

(やめて! マアミ! やめて!)

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 何度も襲う雷撃。白銀の九尾で全てを裂いて、空へ散らした。

 真美まみさんの声が、雷撃の音に虚しく消されている。どうしても優和ゆうわさんへは届かない。

唯子ゆいこさん、もっとペルソナの霊力を使いなさい。マアミに圧倒的な力を見せるんだ)

 ドンッ!

 九尾の白銀の光りを、雷撃にして優和ゆうわさんへ。──弱く。

「うあ! うああああ!!」

 優和さんは苦しんだ。それでも、突進して来た。二本のしっぽの毛を逆立てて。

 猫の瞳をした彼女が人間の顔に。猫又だけど、その体も人間に近づいている。

 ペルソナの九尾に優和ゆうわさんは弾き飛ばされた。転がって、起き上がってまた来る。

 鋭い爪がペルソナとわたしを引き裂こうとするけど、弾く。

「ああ! ああ! ああ!」

それでも、やめなかった。何度も何度も。

 大きな涙の粒をまき散らしながら。

((((…………))))

 わたしたちは声も手も出せなかった。爪が振り下ろされるたびに、みんなは感じている。

 憎むだけじゃない。どうしても生き返らせたいという、必死な願い。

(やめて! マアミ! もうやめて!!)

 二人がこんなにすれ違ってしまったなんて。悲しすぎる。

 彼女はまだあきらめない。ペルソナの九尾には効かないのに……金色の目に涙がうかぶ。

「あなたと真美まみさんの心を会わせたいのに」

(おかしい。マアミの妖力が減らない。こんなに続くのはどうしてだ?)

清助せいすけさん。ここじゃ、ここじゃあダメなんだ。結界の中が優和ゆうわさんの憎しみと悔しさでいっぱいになってる。そのエネルギーが彼女を意固地にしているんだ)

 借表かりおもて君が、結界のおかしな気配を感じてくれた。そうか、優和ゆうわさんが止まらないのは彼女が、自分の心に呑み込まれているんだ。

(憎しみも悔しさもない場所ですの? そんなの、このペルソナにしかありませんわ)

(それは、ううむ。出来ないことはないが、しかしきっかけが)

「!!」 みんなの意見のおかげで思いついた。

(大事な人を、物を守ろうとする気持ちがあれば、どう?)

(それはどういうことですの? 唯子ゆいこ

 今の優和ゆうわさんは、守る気持ちを忘れている。それならきっかけは、真美まみさんを守らせればいい。そして憎しみも悔しさもない世界へ、連れて行く。

 二人だけで会えるところへ!

(そうか望月もちづきさん! もう一度、勇気を出すんだね! あれを使って)

(♡)借表かりおもて君。全部を言わなくても分かってくれたんだ。

(ずるいですわ、お二人だけで)

銀子ぎんこさん、信じようじゃないか。うん、あれだな。君たちもう付き合っちゃえよ)

 ヤダそんな、こんな時に。イヤじゃないけど。ウエルカムだけど。

(え? え? なんでそうなるの?)

(ダメだコイツ。早くなんとかしないとぉぉ! 唯子ゆいこさん!)

 清助せいすけさんンンン! 急にわたしにふられてもぉ!

(えええ! ぼくが悪いの?)

 優和ゆうわさんの爪はずっとわたしたち、ペルソナの九尾を攻めていた。

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