しっぽ13本目〝呪い〟と〝贄〟と。

 いない。優和ゆうわさんがいなくなった。いつの間に?

(ああ、唯子ゆいこ……)

 銀子ぎんこの声……変身したんだ。でも、どうして。覚えがない。

 地面に、黒い色と白い色。焦げてる。何? これ。

銀子ぎんこ。どうしたの? そんなに落ち込んで。優和ゆうわさんはどこへ行ったの?」

(マアミはすでに去りました。その、あなたに負けて……逃げたのです)

 負けて、逃げた? わたしが、勝った? どういうこと。

(覚えていらっしゃらないのですね、唯子ゆいこ。あなたは)

「狐の化け物! なんでペルソナを被っているんだ!? 望月もちづきさんはどこだ!」

借表かりおもて様! どうやってマアミの結界の中に)

 借表かりおもて君? 来てくれたんだ。わたしを探してくれてたんだ。

借表かりおもて君! わたしはここ!」

「イヤーカフとブローチ…その声は、望月もちづきさん? そんな、どうして……化け物に」

 化け物? そうか。ケモ耳娘みみむすめだから。でも化け物だなんて。

唯子ゆいこ。あなたは、〝約束〟を破ってしまいました。ワタクシは無理矢理に憑依ひょういさせられて……あなたと共に化け物、になったのですわ)

〝約束〟を。獣人……わたしは、手と足を見た。ケモ耳娘みみむすめより毛むくじゃらで、太くて大きくて真っ赤。顔を触ったら、狐の長い口。長い牙。ペルソナを被っている。変わらないのはイヤーカフとブローチだけ。どうして?

(獣人の力でマアミを降参させたのです。あいつは逃げました。おお、なんとおいたわしい……あなたは、ペルソナの呪いを受けたのですわ)

『絶望』……これが、銀子が前に言っていた……いやだ。そんなの。

望月もちづきさん…もしかしてペルソナの呪いを。話しを聞かせてほしい」

 いや。だめ。こんな姿じゃ。見ないで。

(いけない。マアミの結界が消える。人に見られてしまいますわ!)

「待って! 望月もちづきさん!」

 わたしは、逃げた。高くんで、早く借表かりおもて君から離れたくて。

              ◇ ◇ ◇ ◇

 夢中でどこをどうやって逃げたのか。気がついたら夜で、家の前にいた。

 おばあちゃんが今のわたしを見たら……でも、帰ることができるのはここだけ。

唯子ゆいこ……」

 いつの間にか扉を開けてたおばあちゃんが、抱きしめてくれた。

「〝約束〟を破っちゃった……ごめんなさい」

「謝らなくていいのよ。感じたの。よく無事で帰って来てくれたわね」

 そう言って、もっと強く抱きしめてくれた。わたしを責めずに。

「おばあちゃま。申し訳ございません。ワタクシがついていながら」

銀子ぎんこもいるのね。あなたも謝らなくていいの。早く中に入りなさい」

 ──あとは、銀子ぎんこが全てを話してくれた。ああ。わたしは一生、狐の獣人のままなんだ。

 もうクラスのみんなにも会えない。借表かりおもて君……。

 涙が止まらない。もう、どうにもできない。銀子ぎんこにも迷惑をかけた。この呪いで、もっとペルソナに縛りつけてしまった。

「ごめんなさい銀子ぎんこ。〝約束〟を果たすって誓ったのに」

「いいえ、もう泣かないでくださいまし。これかからのことを考えましょう」

「その通りよ。二人ともお腹がすいたでしょう。食べやすいものを作るわね」

 おばあちゃんは、たまご粥を作ってくれて。フーフーして食べさせてくれた。

 おいしい、とっても。また泣いちゃった。今度は、幸せすぎて。

              ◇ ◇ ◇ ◇

唯子ゆいこ。この呪いを解く方法が、ひとつだけあるの」

 やっと落ち着いたわたしにおばあちゃんは突然、言った。

 あれ銀子、何? どうしてあなたの悲しい気持ちが伝わってくるの。

「昔、六十年前。私が六歳の時にその方法を知ったのよ。望月もちづきの一族の一人が〝約束〟を破ってしまってね。呪いを止めたのは、私のおじいさんなの」

「ワタクシがおばあちゃまにお会いしたのもその頃でしたわ。その一人は勝手にペルソナを使い、欲がふくらんで結局…その……。お伝え出来ません」

 わたしのひいひいおじいさんが、止めてくれた。その時に初めて二人は出会ったんだ。

「よく聞いてね唯子ゆいこ。呪いを解くには、それ相応のことが必要なの。それはね」


にえをペルソナに捧げることなの」


 聞きたくなかった。にえって、それはおばあちゃんの命を。イヤ。

「イヤよ! 銀子ぎんこも止めて! なんで何も言わないの!」

唯子ゆいこ。おばあちゃまはあなたに未来を、望月もちづきとペルソナを託したいのです。ワタクシにはその決意と覚悟を止めることはできません。いえ、止めません!」

 そんなのイヤだ! わたしはこのままでいい! 誰にも見つからなければいい!!

「わたし、死ぬまでこの家に隠れる。そうすればいい。望月もちづきとペルソナには、おばあちゃんがいるじゃない。パパもママも! 大切な人がいなくなるなんて、イヤ!!」

唯子ゆいこ! 私と! あなたのパパとママが! 大切なのは唯子ゆいこだけなの! その姿で一生を終わるなんて、みんなが許さない!! …………いいえ。あなたの気持ちが一番大切。借表かりおもて君への恋を、あきらめちゃダメ」

 何も言えなくなった。でも。わたしのために。

「分かってちょうだい。唯子ゆいこ


「ごめんください。望月もちづきさんは、唯子ゆいこさんは!! いらっしゃいますか!」 

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