しっぽ8本目 謎の転校生。が、わたしに刺さる。

(んまっ! 唯子ゆいこ様。お顔面がパー…いえホクホクですわね)

(やっぱり分かる? だって秘密よ。ひ・み・つ。二人の)

(分かりますとも。ワタクシも自分のことのようにうれしいですわ)

 パーとかなんとかって聞こえたけど、どうでもいい。今も二人で歩いているし。

(油断は禁物ですわよ。どこに落とし穴があるか、分かりませんわ)

(分かってる。分からないのは分かってる。日本語が変になっちゃったのも分かってる)

(ああ唯子ゆいこ様。何をおっしゃって。ダメだこりゃ。ですわ)

 ほっといてよ。

「おおう。二人で何してるんだ? 早く教室に入れー」

 先生と鉢合わせしちゃった。

 あら、先生の後ろにいる女の子は……キレイ。わたしに笑顔を…キレイ。

「あの、先生。その子は?」

「おおう、借表かりおもて君。転校生だよ。みんなの前で紹介するから先に教室へ入れー」

「…………」

 借表かりおもて君が静かになった? 彼の目が真剣。もう一度女の子をみたら。

 わたしは思わず彼の後ろに隠れた。引っ込み思案のせいじゃない。

唯子ゆいこ様。この子、変ですの。普通ではないですわ)

 銀子ぎんこさんも何かを感じた? 借表かりおもて君も気づいたからあんな目を?

 ──席で待っていると先生が入って来た。さっき会った女の子と一緒に。みんなが一斉にざわめいてる。背が高くてスラッとしてるし、大きな猫目が可愛い。白いチョーカーにずっと手をそえてる。前髪が一筋、すごく自然な感じで灰色がかってる。生まれつき?

 わたしの席の左隣りの列、一番後ろの席にいる借表かりおもて君は。

 さっきより厳しい目をしている。ずっと彼女を見てる。

「おおう、みんな。新しいクラスの仲間です。はい、自己紹介してー」

優和ゆうわマアミです。山奥から来ました。みなさん、わたしと仲良くしてください」

 優和ゆうわさんは笑顔でハキハキとあいさつした。声もとてもキレイ。

 もう一度ニコっと笑って深くお辞儀して。礼儀正しい。

((ヒェっ))

 彼女が顔を上げたとたん、わたしを見てきた! ずっと睨んでる!

(ゆゆゆ、唯子ゆいこ様! 隠してたのは妖力ですわ。あれはあやかしですわ!)

 優和ゆうわさんの唇が、冷たい笑い方。目が、笑っていない。

(ムリこわい! なんで今、気づいたの!?)

(たった今、こちらに欲望をむき出しにしましたの! 強い妖力ですわ!)

 借表かりおもて君と目があった。わたしを心配そうに見てる。彼は口パクで「大丈夫?」と言ったみたい。睨まれたの、分かったんだ。うなずくしかなかった。

「おおう、じゃあ優和ゆうわさんの席はあそこー」

 先生が指をさしたのは、窓側の一番後ろ。教室全体を見渡せる位置だ。彼女は静かに席についた、と思う。怖くて見られなかったから。とたんに。

 刺さる、刺さる! 彼女の視線が! わたしを見ているのが分かる。視線を感じるってこのことか。いえそれ以上。痛い、痛い! なに、この感覚!

(あああのあやかし、きっとペルソナを! 唯子ゆいこ様! 今日はとっとと帰りますの!)

(そう言われても! 借表かりおもて君と打ち合わせしなきゃなんないし!)

 もう一度、借表かりおもて君を見たら「我慢して」って伝えてくれた。うう。

 早く放課後になれ! 

唯子ゆいこ様。休み時間ごとに借表かりおもて様のおそばにいたらよろしいのでは?)

(そうしたいけど、いつも一緒だと彼の迷惑になるんじゃ。みんなの目も気になるし。とにかく今日はおとなしく…)

(言って場合じゃありませんわよ)

 授業が始まってもずっと視線が刺さったままで、先生の声が頭の中を通り過ぎて行った。永遠に続きそうな一限が終わってやっと休み時間。

 優和ゆうわさんが気になるけど、見るのは怖い。

望月もちづきさん、ちょっと」

 え、え。え? 借表かりおもて君がわたしの腕をつかんで引っ張って。痛くはないけど、強引に廊下まで連れてこられた。ちょっとうれしい、けど。

「み、みんなの目が」

「みんなは優和ゆうわさんの周りに集まってる。彼女も楽しそうに話しているよ。大丈夫」

 ヒソっ「でもここじゃ無理だから、あの時の場所まで。急ごう」

借表かりおもて様の言う通りになさって。いったんここを離れるのが良いですわ)

 ──屋上への踊り場に到着するなり。

望月もちづきさん。優和ゆうわさんは、人じゃないみたいだ」

(はい! あやかしですの!)

「廊下で会った時、何か変だと思っていたけど。彼女の君を見る目は、獲物を狙ってる目だよ。心当たりはない?」

 どう言おう。もう嘘は、つきたくない。……けど。話題をすり替えるしか。

「ゆ、優和ゆうわさんが人じゃないなら、か、借表かりおもて君はなんだと思いますか?」

 やっぱり、やっぱり辛い。

「考えられるのは、あやかし。何か強い感情を君に向けてる」

唯子ゆいこ様。ペルソナは秘密に)

「た、多分、望月もちづきが守っているものを狙っているのかも……ごめんなさい。今は、これしか言えない」

「謝らなくても大丈夫だよ。今日はできるだけそばにいる。いくらなんでも学校で襲ってはこないだろうから」

「ありがとう。お願いします」

「学校が終わったらすぐに帰ろう。ぼくが家まで送る。打ち合わせは帰りながらで」

 とても苦しかった。完全な嘘は言ってないけど、どうしても心が引っかかってしまう。

 それから今日一日は気が休まらなかった。借表かりおもて君は、何人かを誘ってわたしに話しかけてくれた。銀子ぎんこさんも、静かに見守ってくれた。

              ◇ ◇ ◇ ◇

 やっと帰りのホームルーム。帰ったら、すぐおばあちゃんに知らせよう。

「おおう、借表かりおもて君。このあと、ちょっと手伝ってくれるかな? まずはこれを職員室までー」

((せんせいいいい!))

 銀子ぎんこさんとキレイにハモった。

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