しっぽ7本目 へたれる、信じる、チャンスる、決まる。

 ええと。昨日は決意したけど。

 いざ教室に入ったら、ムリこわくなっちゃった。借表かりおもて君にどうやって切り出そう。

唯子ゆいこ様。まだ借表かりおもて様にお聞きにならないの?)

 そう言われても。わたしがまだ不安なの分かってるくせに。

望月もちづきさん!」

((ヒエっ!))

 いきなり借表かりおもて君から来た。

「昨日はありがとう。探す手間がはぶけて助かったよ。でもちょっと驚いたな。いつもの君なら、手渡しなんてしないと思ってた」

 本当は告白するためだったんだけど。

「ゴールデンウイークに何かあったの? ずっと気になっていたんだけど」

 え…そ…れは。ええと、ちょっぴり……の。

「勇気。を知ったから。かな」

「勇気? そうか勇気なんだ。がんばってるんだね。望月もちづきさん(ニコっ)」

 っパアアアアアア!

 今、わたしに光がさした。じゃなくて、借表かりおもて君の言葉で笑顔を超えちゃった。顔が変になってるかも。鏡、かがみ! カバンから出して自分の顔を整えた。

「良い笑顔だね。今日もイヤーカフが似合ってる」

 っパアアアアアアっアアア! また褒められた!

(ンまっ! 唯子ゆいこ様! お顔面が壊れてますわよ!)

「だれが福笑いやねん! あっ」

 銀子ぎんこさん、イヤーカフからわたしの表情が分かるのね。恥ずかしい。顔が熱い!

「も、望月もちづきさん?」

「わたしを……探さないでくださあああああい!」

「また走って出て行ったね」「二度目のコントか?」「今日もラッキーだわ」

「「「望月もちづきさんはオモロい!」」」

               ◇ ◇ ◇ ◇

 どうしてこうなるの。恥ずかしくて、屋上へ出る踊り場まで走って来ちゃった。

 勇気を出してうまくいったと思ったら、すぐ失敗。

「ギャグだわ……」

「も、申し訳ありません。唯子ゆいこ様」

「違う、わたしのせい。あんなに舞い上がるなんて、調子に乗りすぎたの」

(しっ! 誰かがこちらに来ますわ。お静かに!)

 階段を上がって来る足音。駆け足だ。

望月もちづきさん! 探したよ。急に教室を出て行くから」

借表かりおもて様! 唯子ゆいこ様、彼の本心を聞くのは今ですわ!)

 走ってわたしを探しに来てくれたんだ…うれしい…でも。

 ボソっ「探さないでって言ったのに」

唯子ゆいこ様ああぁぁ! せっかく借表かりおもて様が来て下さったのにいい)

 借表かりおもて君の前であんなことを二度もしたんだもの。顔を見られたくない。

 のに、膝を抱えてうずくまってるわたしの隣に座った。余裕なんてないのに。

「実は今日、望月さんに確かめたいことがあったんだ。昨日のことで」

 彼から切り出してきた。ひょっとしてペルソナのことかな。

「ぼくの独り言、本当は聞こえてたんじゃないかな?」

 はい、聞いてました。でもペルソナは秘密、今はどう答えれば……。

借表かりおもてさま…君。結界をなぜ…じゃなくて、結界ってどういうこと?」

 銀子ぎんこさんンンン!?

(わたしの声まねして、どういうつもり!?)

(ワタクシにお任せください)

 引っ込み思案のくせに。……ありがと。

「やっぱり聞いたんだ。どう言えばいいかな…結界は……」

 お願い。嘘を言わないで。でもペルソナを秘密にしているわたしは嘘をついている。

「体質なんだ。昔からたまに幽霊のような、あやかしみたいのが見えたり感じたりしてた。だから自分が何者か調べてみたら、霊力があったから。石碑の結界を感じたのも、たまたま分かっただけなんだよ……信じてくれるかな」

 霊力のことを正直に言ってくれた。石碑のところにいたのもたまたまか…そういえば「なんで今さら気づいたんだろう」って言ってた。

(借表様は嘘を言っておりません。とても強くて、きれいな霊力を感じます。弱いはずなのに。唯子ゆいこ様に信じてほしいからかも。ワタクシは信じますわ)

(うん、わたしも。わたしも、言わなきゃ)

 嘘を続けるのは辛い。どう言おう……そうだ。

「わたしは信じます。借表かりおもて君こそ、わたしに聞きたいことがあるんじゃないですか?」

唯子ゆいこ様? 大丈夫ですか)

(彼から質問してもらった方がいい。借表かりおもて君にはできる限り伝えたいから)

「約束の地って刻んである石碑、望月もちづきさんの家の人が建てたんだよね。あの、あれはどういう意味? 聞いてもいいかな」

 うわ、そっち? てっきりイヤーカフのこと聞かれると思ってたけど。

 どっちにしろ下手にごまかせない。言えることだけでも、誠実に。

「ま、守るって〝約束〟したの。その、幸せのために。悪用されないために。……それしか言えない。ごめんなさい…信じてください」

「…………」

 借表かりおもて君、何も言わない。信じてくれるかな。

「だから君も結界に守られていたんだね。信じるよ。言えないことは、誰にでもあるよね。それで充分だよ。ありがとう」

 信じてくれた……。イヤーカフもやっぱり分かっていたんだ。

 こんなので、こんなわたしを信じてくれた。わたし……。

「おばあちゃんが結界を張ってくれたの。あの、清助せいすけさんは、もしかして仮面かめん清助せいすけさん?」

唯子ゆいこ様あああぁぁ! ぶっこみすぎいいい)

 いいの。ちょっと吹っ切れたから。もっと、わたしを信じてほしい。

 もっと、借表かりおもて君を信じたい。

「結界はそうだったんだ。清助せいすけさんの名も聞いたんだね。でも、どうしてその人を?」

望月もちづきと関係のある人が昔、その人にお世話になったの。事情があって、お礼をしなくちゃいけなくなって今、子孫の人を探してるんです」

「………うん、知っているよ」

(ビンゴですわ! もっと聞きたいですけど)

 わたしからペルソナのことを言えたらいいんだろうけど……。

 おばあちゃんからから禁じられいるし。もどかしい、信じてもらうって本当に難しい。

「ぼくも…清助せいすけさんのことを、もっと知りたいんだ。子孫の人がいるなら会ってみたいな。どうしても叶えたいことがあって聞いてみたい。──ごめん、これ以上は言えない。君も、それ以上は言わなくていいよ。ありがとう」

 秘密があるのはお互い様です。

清助せいすけさんの本物が」って言っていたけど…聞かないでおこう。信じるって決めたもの。

望月もちづきさん。それとは別のことなんだけど」

 えっ、別のこと? 言いづらそうにしてるし顔が赤い。

「あの、両手で君の手を握ってしまってゴメン。気持ち悪かったよね」

 うっ……。あの時の借表かりおもて君の暖かさを、ずっと覚えてる。彼の手の大きさも。

 ボソっ「うれしかった。ずっと、そうしていてほしかった」

 あ! 本音が出ちゃったたたた、しまった! 顔が熱い!

 借表かりおもて君すごく困ってる。失敗しちゃったかな。

 ボソっ「……お、女の子から、そんなこと言われたのは初めてだ……よ」 

 ボソっ「……わ、わたしも、男の子に手を握られたのは初めてで……す」

 今日のわたし、どうかしてる。

 時よ止まれ。じゃなくてええと、次はどどどうすればばばば。

(ンまっ! 良い雰囲気ですわあ。唯子ゆいこ様。チャンスなのでは?)

 でで、できません! 今、告白なんて、できません!! 心の準備が、余裕がガガガ。

「おーい! 借表かりおもてー。望月もちづきさんはいたー? ホームルームが始まるぞー」

「ふう。行こうか。みんなも君を探していたんだ」

唯子ゆいこ様! あなたはもう、独りではありませんわ)

 独りじゃない……わたしが。みんなも、わたしを探してくれてたなんて。

 ちょっぴりの勇気が、こんなに変えるなんて。

 借表かりおもて君の顔がまだ赤い。悪い人は、きっとこんな態度は取らない。

「こ、このことは、ふ、二人だけの秘密に……あの、その、良かったら清助せいすけさんのことを、ぼぼぼ、ぼくと一緒に調べてくれるかな? ほ、放課後に計画を立てたいんだけど」

 きゃああああああぁ。借表かりおもて君から誘って来るなんて!

(きゃああああああぁ。借表かりおもて様が勇気を振り絞るなんて! カワイイですわあ!)

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