しっぽ6本目 走れ、勇気!
やっと、放課後。
今トイレの個室で、クラスのみんなが帰ってしまうのを待っているところ。
(
(今日はもう無理。朝にあんなことになっちゃってから、いろんなことがあり過ぎて)
あれから恥ずかしくて教室に戻りづらかったし、みんなはなんかソワソワしてたし、
(申し訳ございません。ワタクシがボケたことを言ったばっかりに)
(いいの、わたしの勇気が足りなかったから。でも、良いこともあったじゃない)
みんながいっぱい話しかけてくれるようになった。アワアワしながら返事しても、嫌な顔しないで付き合ってくれた。
(本当に良かったですわ。みなさん、
今までみんなは、わたしの性格に呆れていたと思ってた。でも話しをして分かった。そうじゃなくて、そっとしておいてくれてたんだ。とってもありがたかった。
(ちょっぴりの勇気でこんなに変わるなんて。自分でもびっくりしてる)
(少しずつでよろしいと思いますわ。ボケつっこみでしたけれども)
◇ ◇ ◇ ◇
誰もいない教室。
あれ? 借表君の席の下に。これは、黄色いお守り。落ちてる。
「
彼のお守り、初めて触った。普通より大きくてゴツゴツしてる。なんだろうこの感触。
「お守りのことは気づきませんでしたわ。彼のお顔ばかり見ていましたの」
「どうしよう。机に置いておこうかな。……でも」
『でも』? いつものわたしならそう思わないはず。声をかけて渡すなんてできない。
そうじゃない、違う。今、わたしがやらなきゃいけないのは。
ちょっぴりの勇気よ。直接、渡さなきゃ。まだ間に合うかもしれない。
「
あら。さっきから敬語を使うのを忘れてた。でも彼女は気にしてないみたい。急ごう。
「
わたしは走った。ありったけの思いを伝えたい。
「変身してジャンプします? あっという間ですわよ」
「明るいうちは目立つから無理よ」
わたしは。
「自分の足で走りたい」
「まあああ! その意気ですわ。きっと、
〈イラっ〉
と、ちょっとだけした。そんな、下の名で呼ぶなんて。
「
「どないせえっちゅうねん。そうお呼びになればよろしいのに、ですわ」
わたしったら、
「細かいことは気にしない! ですわ。ゴールへ向かって走るのみですの!」
「どこが100メートル走やねん。公園がゴールじゃないわ」
お守りを! 渡してからがスタートよ!
◇ ◇ ◇ ◇
「もう走れない」
(た、たくさん人様がおられますわわわ。ム、ムリこわいですの)
だから真似しないでって。
公園の真ん中は広場になっている。この中にいるはず。お願いここにいて!
(
いた。
彼が帰らないうちに早く声をかけなきゃ。
(あの、なぜコソコソするのですか?
(なぜって。心の準備がガガガ)
告白するって、こんなにドキドキするんだ。もっと、いっぱいの勇気がいるんだ。
こんな気持ち、初めて知った。彼に気づかれないように、植木の陰にしゃがんだ。
彼は石碑の周りをゆっくり、ぐるぐる回ってる。何をやっているんだろう?
(お声をかけづらいですわね)
(何かを探しているのかしら)
ブツブツ言っている。わたしたちは聞き耳を立てた。
「ここに石碑があったなんて。それに結界が。なんで今さら気付いたんだろう」
((結界!?))
彼は、普通の人じゃない。あなたは何者?
「うーん。そんなことより、せめて
(
(ゆゆゆ、
本物って言った。ペルソナのこと?
それに『怖くてできない』。変なことばかり言ってる。
(
わたしは、いつの間にか立ち上がってた。ボーゼンとしてしまって。
「びっくりした。
見つかった。自分で姿を見せたんだけど。マヌケだわ、わたし。
「告白するために」って言えない。
「あ、あの。お守りを落としたので、届けに……」
お守りを見せた。
「あれ、いつの間に。ありがとう。ぼくがここにいるってよく分かったね」
どう説明しよう。「おばあちゃんが
もし、もしも
(ペルソナを奪おうとしているのだとしたら、
「た、たまたま、です。偶然…」
それ以上、言葉が見つからなくて。
「あ。も、もしかしてぼくの声、聞こえた?」
声がうわずってる。焦っているような。
「何も、何も聞こえなかったけど……きゃっ!」
ムリこわくて
「大丈夫? ほら」
彼の顔を見たら。その目は、何も企んでいないように見える。けど。
恐る恐る右手で、彼の手を握ると……暖かい。そのまま引っぱられて立ちあがった。
「小さい……
そんな! 握り返してくるなんて。
頭が真っ白。そんなドキドキすること、しないで……。
「ぼくは男としては手が小さい方だけど。女の子のはみんな、こんなに小さいのかな」
なんて優しい目。わたしの顔と、手を行ったり来たり見つめてる。
「わ、わたしは、特に背が小さい方だから…
「……ありがとう。うん、うん……」
ドキン! 心臓が!
(あら? そんな、これは。ですの)
「あっゴゴゴごめん! 迷惑だった?」
手を離された。わたしはボーっとして、自分の右手を左手で覆った。
何も言えなくて、顔が熱くて。もっと包んでいてほしくて。
──涙が。
「あの、お守りは渡したから!」
告白どころじゃなかった。涙を見せないように、逃げるしかなかった。
「
聞こえた「ありがとう」は彼の本心だと思いたい。けど、何を信じていいか分からなくなった。振り返らず、返事もできずに走った。
◇ ◇ ◇ ◇
「で、
わたしは沈んだ気持ちで
彼の手と優しい目が、暖かかった。わたしの手を大事に包んでくれた。そんな人が。
「わたし、
「彼は妖力を持っているのかしら。
「
「え? 妖力じゃなくて?」
「霊力を持つ者がペルソナのことを調べている。となると
やだ、
石碑には
そうじゃなくて、本当は最初から知ってたとしたら。
「
わたしは、かなり情けない顔をしていたみたいで。
「そんな顔をなさらないで。彼の霊力はとても澄み切っていましたわ。欲望だらけの悪の心ではそうはなりません。ですから、ワタクシには分からないのです」
「それなら妖力じゃないのも分かる。でも
「ええ。そうですわ。何か疑問でも?」
「となると、
「「あ!」」
「あの、おばあちゃん。彼、イヤーカフのこと何も言わなかった。わざと?」
「言えなかったのかも。
そう思ってもいいのかな。
「
「それはないでしょうね。彼の霊力だとよほどのことが無い限り気づかないはず。ただ、手を繋いだ
わたしは、
今、その気持ちだけははっきりした。わたしがやらなきゃいけないことは。
いえ、わたし自身がやりたいこと。
「わたし、
「
そう言っておばあちゃんはテーブルにカレーとサラダを並べ始めた。もう夜の七時。
「さて、夕食にしましょ。今夜は
辛口カレーに隠し味のメイプルシロップの香り。絶対ガッカリしないおばあちゃんの味。
「
「食べてみる? 変身したら
──
おばあちゃんは、ケモ
「
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