しっぽ3本目 ムリこわい〝約束〟

 ──やっと、家に帰って来た。ヘアクリップのおかげで誰にも見えなかったみたい。

銀子ぎんこ様、そろそろ唯子ゆいこから離れてくださいな」

「いけません、失礼しましたわ看恵みえ様。唯子ゆいこ様も。今すぐに」

 銀子ぎんこさんが離れてくれたあと、すぐ鏡で確かめてみた。わたしだ、良かった。

 ところで、さっきの。

 ペルソナと〝約束〟はしたけど。言われている意味が分かんない。

「おばあちゃん。覚悟ってなに? どういう意味?」

「ペルソナとの〝約束〟を果たせなかったらどうなるか。は覚えているわよね?」

 聞いたことあったかな? 覚えていない。思い出せなくて黙ったままでいたら。

 おばあちゃんの目が。目つきがムリこわい。

唯子ゆいこ! あなたは何てことを!!」

 ビクッてなった。そんな、いきなり怒鳴るなんてムリこわい。

 目を合わせられなくて、うつむいたまま体が固まった。

「み、看恵みえ様も落ち着いてくださいませ。ワタクシからお話しいたしますわ」

 銀子ぎんこさんの声がまじめ。もっとムリこわい。

唯子ゆいこ様。あなたがペルソナと交わされた〝約束〟には、破られるのを防ぐ縛りがありますの。もしも、唯子ゆいこ様が破ったら」

 やだ、不安になる。何を聞かされるのかな。

「ペルソナからを受けますわ」

 今、なんて。

 わたし、変な顔であぜんとしていたみたい。銀子ぎんこさんは、分かりやすく言ってくれた。

「お怒りになったペルソナから、が与えられますの」

 罰。呪い。

 銀子ぎんこさんが、念を押していたのは……わたしに覚悟があるか、確かめていたんだ。

「どんな呪いが、わたしに!?」

「それはペルソナがお決めになること。ですので、破られて初めて分かりますの。最悪の場合は……唯子ゆいこ様の死、だけではではなく望月もちづきのみなさまも含めて……死ぬことに」

〝約束〟を破ったら、みんな死ぬ……頭が混乱して。信じられなくて。

 だって、おまじないなのに命を、死ぬなんて。

 そうだ。『おまじない』は漢字で書くと『まじない』だった。

 銀子ぎんこさんの「あとはよろしくね。ではいけません」の、本当の意味はこれ……。

 おばあちゃんはとても辛そうな顔をしている。そんなの、見たくない。

「わたし、やめたい。なんでもするから、どんなことでもするから!」

唯子ゆいこ!あなたの恋は、その程度のものなの!?」

 またビクッてなった。わたしの恋が軽いと思われたのかな……。そうじゃなくて。

 なんか悔しくて、涙があふれてきた。

 わたしは本気だった。だからお願いした。引っ込み思案だから必死に! でも!

「だって、わたしが失敗したら…おばあちゃんも、パパもママも、どうなるか」

 涙が止まらない。つっかえながら言うのがやっと。

「方法はありますわ。唯子ゆいこ様の恋の成就よりも先に、清助せいすけ様の子孫を見つけること。もしくは、いやなお話しですけども……唯子ゆいこ様がお亡くなりになること。これも恋の成就よりも前に」

「それにね唯子ゆいこ。恋を成就できても、あなたが〝約束〟を果たせないまま死んでしまったとしたら、望月もちづきの誰かが〝約束〟を引き継ぐ事になるわ」

 どうしたって守らなければならない。どうしてもやらなきゃいけない。

 でも怖くて、できると思えなくて。

 おばあちゃんが泣いている。下を向いて、手で顔をおおって。わたしのせいで……。

 わたしの欲のせいで。おばあちゃんの話しを忘れていたせいで。みんな、わたしが。

「ごめんなさい……おばあちゃん。銀子ぎんこさん、ごめんなさい」

 謝ることしかできなかった。

「……今日はもう、寝なさい唯子ゆいこ。『もしもの時は、私がなんとかするから』、ね」

 銀子ぎんこさんがビクッてなって。何か驚いたような。

看恵みえ様、それは!)

唯子ゆいこには、今は言わないでください)

 二人の声が小さくて、落ち込んでたわたしには聞こえなかった。

銀子ぎんこ様も、お休みになってください。唯子ゆいこのそばにいてやってくださいますか?」

「もちろんですわ」

「ありがとう銀子ぎんこさん。おばあちゃん、おやすみなさい」

「思い出して、唯子ゆいこ。私たち望月もちづきは『ペルソナの守人もりと』なのよ」

 おばあちゃんはそれだけ言って口を閉じた。

〝約束〟を必ず守れ、とは言わずに。

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