100 夏⑦
日が暮れた後、浴衣に着替える二人を外で会長と待っていた。
そしてそばでうじうじしている会長。
「どうした? 会長」
「えっ? ああ……、なんかこういうの初めてっていうか。ここに来ていろいろ経験できなかったことをたくさん……、経験したような気がしてさ」
「今更……?」
「そうだね。付き合うってことはこういうことだな……と、楽しいね」
「何言ってんだよ。今からもっと楽しくなるからさ!」
そうやってしばらく会長と話している間、二人が旅館から出てくる。
「ジャーン! 可愛いでしょ!」
「どうかな!」
「お! いいね。ひな、可愛いよ」
「冬子、可愛い……!」
……
手を繋いで昨日の夜みたいに、薄暗いこの道を歩きながら話を続けていた。
「4人で花火大会だなんて、ドキドキする!」
「そうだね! 冬子」
そんなところに行ったことないからか、俺もすごくドキドキしていた。
テレビやネットでしか見たことない花火を……、こうやって4人で見るようになるとはな。そばからぎゅっと俺の手を握るひなが笑みを浮かべていた。隣にいる会長たちも俺たちと一緒だろうな。
テンションが上がっている。
そして花火大会が行われる場所に来た時、人出がすごくてちょっとびっくりする。
これは……、手を離したらすぐ迷子になりそうだな……。
でも、この雰囲気は嫌じゃない。賑やかでいいと思う。
「わぁ!!! すごい! 人多いね!」
「午前には5人くらいいたのに……」
「だよね」
でも、予想より花火大会を見に来た人が多すぎて、座る場所がなかった。
「…………」
とはいえ、座る場所がなくても一応花火は見えるから人混みから抜け出して、良い場所を探していた。やっぱり、花火大会は花火大会だなと思いながら……、そこからちょっと離れたところに座る。
あっちに比べるとここはちょっと暗いけど、それでも良い場所だと思う。
そのままそこで花火を見る俺たち。
「あははっ、人多すぎ〜」
「だよね」
「でも、ここなら大丈夫だよね? 人が多いところはうるさいから……」
「まあ、仕方ないね。てか、ひな?」
「うん?」
「なんで足の間に座るんだよ……」
「ここがいいの〜」
「まったく……」
そして「ヒュー」と花火を打ち上げる時の音が聞こえてくる。
じっとそれを見ていたら「ドン」と……綺麗な花火が一瞬の間に夜空を埋め尽くして、それに気を取られてしまった。思わず「綺麗」という言葉が出てきて、さりげなく前にいるひなを抱きしめてあげた。
綺麗だ、本当に。
「綺麗だね、奏多」
「そうだね……。これ……、直接見るの本当に初めてだからさ。なんか……、すごく不思議だ」
「私も、自分の目で花火を見るの初めてだからね」
「綺麗……。夜空も、花火も、ひなも…………。全部」
しばらくの間、俺は夜空を眺めていた。
すぐ隣に会長たちもいるけど、なんかすごく綺麗だなと思って、ずっと花火を見ていた。そしてなぜ今までこんなことをしなかったんだろうと、なぜこんな思い出を作らなかったんだろうと、自分に言い返していた。
そしてさりげなくひなの肩にあごを乗せる。
すべてが完璧。
「奏多……?」
「うん?」
「来年も花火大会を見に行こう……。みんなと一緒にね」
「うん。俺も……そうしたい。でも、来年は卒業かぁ」
「はい! そこにいる二人! こっち見て?」
「えっ?」
声が聞こえる方向を見た時、なぜか俺たちの写真を撮る如月だった。
「あらあら、イチャイチャしてますね〜。二人とも〜。でも、可愛い!」
「冬子……」
「今送ってあげるからね、ふふふっ」
「もう〜」
そして如月が送ってくれた写真をすぐプロフにするひな。
「奏多も! 早く!」
「な、何を?」
「プロフにしてよ! 冬子がさっき写真送ったんでしょ!?」
「えっ? 俺も? は、恥ずかしいけど!」
「いいから! 早く!」
そのままうじうじしていたら、ひなが俺のプロフを変更してくれた。
そして後ろからじっとその写真を見ているひなを見つめていた。こういうのが幸せだよな。
ひなの肩にあごを乗せて、そのままじっとしていた。
「じゃあ、今度は4人で写真を撮ろう! みんなこっち来て!」
「はいはい〜。奏多! 後ろから私を抱きしめて!」
「えっ?」
「じゃあ、私も! 陸くん!」
「はいはい〜」
綺麗な花火が見える場所で、俺たちは夏の思い出を作った。
ピースサインをする俺たち、そして笑みを浮かべる俺たち。
「いいね! たくさん撮ろう! 私、ひなちゃんと写真撮りたい!」
「いいよ〜」
「じゃあ、俺は宮内くんと!」
「いいね」
やっぱり……、俺はひなと……、そしてみんなとたくさんの思い出を作りたい。
これが……、青春の始まりって気がした。
「奏多、奏多! 4人で写真撮ろう!」
「また!?」
「ええ、一枚だけじゃ足りないでしょ! たくさん撮らないと! このチャンスは二度とこないから!」
「そうだね」
「じゃあ、撮るから!」
その時、ひなが俺の頬にキスをした。
「あっ!」
「あっ!」
「三木さん大胆……!」
やられたね。
「イェーイ!!! ふふふっ」
また、また……、たくさんの思い出を作ろうね。ひな……。
一緒に。
そして時間はたくさんあるから!
彼女に裏切られた俺は、彼女の妹とキスをする 棺あいこ @hitsugi_san
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