99 夏⑥
「来たばかりの時はよく知らなかったけど……、すぐ隣にこんなに綺麗な公園があったんだ……」
「そうだね」
会長と如月が旅館を出た後、俺たちもゆっくり二人っきりの時間を過ごすことにした。と言っても、公園で歩いているだけだけどさ……。それでも、すごくいい。涼しい風と綺麗な景色、それを眺めながらひなとブランコに乗る。
「へえ……、これ久しぶりだね。幼い頃にはたまに乗ってたけど、体が弱いからすぐ降りたよね。私……」
「そうだな。3分くらい乗った後、眩暈がしてすぐ家に帰ったからさ」
「ねえねえ、後ろで押してくれない? へへっ」
「いいよ」
ひなの後ろで背中を押してあげた。
揺れるブランコ、そして靡くひなの長い髪の毛。高く……、だんだん高く……。
その後ろ姿を見つめながらほんの少し子供の頃に戻る。
「気持ちいい〜」
「そうか」
「もっと高く……!」
「危ないよ、ひな」
「大丈夫! 楽しいから!」
静かな場所、ここには俺とひなだけ。
そしてテンションが上がったひなが声を上げる。すごく気持ちよさそうに見えた。普段はこんなことしないから……、その前にこんなところに来るのもできなかったからさ。俺たち。
俺はテンションが上がっているひなを見て、くすくすと笑っていた。
本当に可愛い。
「奏多も乗ってみて! 私が押してあげるから!」
「いいよ……、俺は」
「いいから早く!」
「ええ……」
高校3年生になってブランコだなんて……。
しかも、後ろから背中を押してくれるなんて……。どういう状況だよ……。ひなが乗った時はすごく可愛く見えたけど……、俺がブランコを楽しむ姿はなんか想像できない。でも、幼い頃に……こうやって俺の背中を押してくれたからさ。なんか懐かしいなと思っていた。
「はあ……、はあ……。もう限界!」
そうだ……。あの時もちょっと押しただけなのに、すぐ限界って言ってたよな。
スポーツ苦手だし、運動とかあまりやってないからさ。
それでも精一杯押してくれたんだ……。
「そうだ……。ここから遠くないところに、アイスを売ってるお店があった気がするけど」
「アイス! 食べたい!」
「行こうか!」
「うん!」
そして近所のお店でアイスを買う時、会長からラ〇ンが来る。
「あ、会長だ」
「へえ、見せて見せて」
「花火大会が行われる場所に行ってるらしい。てか、会長……如月と撮った写真を送るなんてやるね」
「やるねぇ〜。じゃあ、私たちも写真! 送ってあげよっか!」
「いいね!」
どんな写真がいいのかしばらく悩む二人、そしてあの二人を煽るにはこれが一番だと思った。
「顔をくっつけて、アイスを食べてるのを見せてあげよう。ひな」
「いいね!」
「よっし、チーズ!」
そういえば、ひなと写真を撮るのは久しぶりだな。
こういうの慣れてないからあまりやってないけど、会長に負けたくないから仕方がないことだった。頬をくっつけて笑顔を作る二人、そうやって大切な思い出になりそうな写真が撮れた。
可愛い……。
「いいね! 可愛い! 奏多」
「ひなの方がもっと可愛いよ。じゃあ、これを送って会長たちに自慢しよう」
「いいね! ふふふっ」
(会長) おい! それはひどいだろ!
と、写真を送った後、すぐ一言を言われる俺だった。
……
そして午後1時半、一度旅館に集合して少し遅いお昼を食べる。
「てか、あの写真はなんだよ! 宮内くん!」
「ええ、だって会長も如月と撮った写真を送ったから……」
「俺はただ後ろの湖が綺麗だからそれを見せたかっただけだぞ!?」
「ええ〜、なのに如月と撮ったのか? それはちょっと〜」
「と、とにかく……! お昼食べろ! 宮内くん!」
「ええ……」
そばでくすくすと笑っているひなと如月、会長一人だけすごく照れていた。
「あっ、そうだ。ひなちゃん! さっき莉子ちゃんから電話が来たけど、叔母さんがせっかくの花火大会だから浴衣を貸してくれるって!」
「ええ!? 本当に?」
「そうそうそう!」
その話を聞いてドキッとする一人がいた。
そう、会長のこと。
「会長、バレバレだぞ?」
「な、なんだと!?」
「顔、真っ赤になってるし〜」
「ち、違う! 冬子! 俺は……!」
「へえ〜、会長期待していたんだ〜。冬子の浴衣姿」
「そ、そういう宮内くんは!? 期待してないのか!?」
「俺は! めっちゃ期待している!」
堂々と言い放った。
「あっ、うん……。ええ、俺と反応が全然違ってちょっとびっくりした」
「ふふっ」
「でも、花火大会って言ってもね。私一度も行ったことないから」
「えっ? ひなちゃん行ったことないの? 実は私も行ったことない……」
「俺も……」
「なんだよ、みんな行ったことないのか?」
「そういう宮内くんは?」
「行ったことない」
「…………」
冗談だろ。みんな……、初めてなのか。
田舎に住んでいた時は花火大会けっこうやってた気がするけど、ひなを放置して一人で行くわけにはいかないからさ。そして都会に引っ越してきてから花火大会の存在を忘れてしまった。うみは……人が多いところ嫌だって言ってたからさ。花火は動画でしか見たことないような気がする。
でも、そこに行ったらどうなるのか一度は経験してみたかった。
すごく楽しいんだろう。
「高校時代最後の夏だからね、思い出を作るんだよ! 4人で写真いっぱい撮ろう」
「いいね! 冬子!」
「そうしよう」
そしてお昼を食べた後、しばらく部屋で休んでいた。
ひなの話通り、夢みたいだな。この状況———。
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