98 夏!⑤

 朝から息苦しいっていうか……。

 そんな気がしてすぐ目を開けてみたら、布団の中にひながいた。なぜ、女子部屋にいるはずのひながうちの部屋にいるんだろう。一瞬……、頭の中が真っ白になってしまった。


 しかも、いつものように俺を抱きしめている。

 これじゃ家にいる時と一緒だろ? マジで……。


「おい……、ひなぁ! 起きろ」


 頬をつついて、小さい声でひなに声をかけてみても無駄だった。

 これじゃ隣で寝ている会長にバレそうだけど……、今は寝ているからいいか。とはいえ、ひなが起きないからよくないか。そして浴衣姿、昨日はみんなと川辺に行ってきたからちゃんと見てないけど、やっぱり可愛いな。


 じゃなくて……! 早く起こさないと!


「あっ、みんな起きてぇ〜」


 よりによって外から如月の声が聞こえてくる。

 びっくりしてすぐひなに布団をかけてあげた。


「あっ! 宮内くん起きてたんだ〜。てか、ひなちゃんどこ行ったのか知らない?」

「……ああ、ひなならトイレに行ったんじゃないのか?」

「トイレならさっき行ってみたよ〜。一体どこに行ったんだろう。朝起きたらそばにいるはずのひなちゃんが消えてしまってね。もしかして……、幽霊が!?」

「んなわけないだろ? まあ、そのうち戻ってくるだろ」

「と、冬子……? おはよ〜」

「会長おはよ〜」


 目を閉じたまま挨拶をする会長、そしてすぐそばで寝ているひな。

 万事休す。ここはどうしたらいいのかもう分からなくなってきた。


「そういえば、今夜花火大会やるって莉子ちゃんたちに言われたけど! みんな、行くよね!?」

「いいね! 花火大会か」

「ここからけっこう遠いけど、せっかくここまで来たし! 行ってみないと!」


 二人が楽しそうに話している間、ひなが俺の腰を抱きしめた。

 それにビクッとして体が固まってしまう。そんなことよりこの状況で起きないのもいろんな意味ですごいな。普段ならすぐ起きるはずなのに……、今日はどうして起きないのか分からない俺だった。


 もしかして……、わざと?


「そうだね。宮内くん? どうした?」

「い、いや……! なんでもない!」


 てか、ひなぁ……。顔をやばいところに置くのはやめてくれぇ。

 それは枕じゃないからぁ、と心の底で叫んでいた。


「えっ、宮内くん。顔が真っ赤になってる! ね、熱でもあるのか?」

「いや、俺は……もうちょっと寝てもいいのか? 寝不足だったみたいだ。昨日、会長といろいろ話してさ」

「へえ〜、そうなんだ。じゃあ、陸くん! 先にひなちゃん探しに行こう!」

「仕方ないね。俺たちは三木さんを探してみるから」


 いや、ここにいる。


「う、うん……! 分かった! ありがとう。もう少し寝るから!」

「そういえば、朝ご飯の後……、デザートでケーキが出るって言われたからね。ひなちゃんすぐ出てくるかも?」

「ケーキ!!!」


 あ。


「うん? 今のは……、ひなちゃんの声? どこ!? 怖い!」

「えっ? どこから? この部屋にまさか……三木さんの幽霊が!」

「ここだよぉ!!! 幽霊なんかじゃない!」


 さっきまで寝ていたのに、ケーキという単語に反応してしまうのか? マジか?

 俺が頬をつついても起きなかったひなが……、ケーキなんかに反応したのかよぉ。

 ケーキに負けてしまったのか、俺……。


「あれ? いつそこに!?」

「み、三木さん!?」

「みんな! おはよう! で、どうしてみんな女子部屋にいるの?」

「じゃなくて、ここ男子部屋だよ?」

「えっ? そうなの?」

「ひ、ひなちゃん……。もしかして、昨夜はずっとここにいたの!? そばに誰もいないような気がしたけど、本当にいなかったんだ……」

「えへへっ、トイレ行って……。その後は思い出せない」


 そう言いながら、さりげなく横になるな!


「帰るのは明日だから、今はもう少し寝たい気分〜。私も昨日冬子といろいろたくさん話したからね」

「…………っ」


 へえ、あっちもいろいろ話していたんだ。


「じゃあ、私たちは先に朝ご飯を食べに行くからね! ひなちゃんを起こして連れてきて! 宮内くん!」

「はいはい……」

「宮内くん! エッチなのは禁止だ!」

「そんなことしません! 会長」

「禁止だぁ……!」


 そして如月と1階に降りる会長だった。


「なんで、ここにいるんだよぉ。みんなに誤解されるんだろう」

「へへっ、私……ずっと奏多のそばで寝ていたからね。それが癖になってしまって、一人じゃ寝られない」

「子供かよ、ひな。子供かよぉ〜」

「子供です! ふふっ。でもね……。恥ずかしいけど、本当に寝られないから」

「如月いただろ?」

「冬子は冬子……、奏多は奏多だよ?」

「よく分からない。まあ、でも……。あの二人はあまり気にしてないように見えたからいいか」

「あの二人も今頃……、私たちの知らないところでイチャイチャしてるかも?」

「そうか、まず朝ご飯食べに行こう。そして今日は……花火大会を見に行くんだ」

「いいね! ふふっ。じゃあ、おやすみ〜」

「じゃねぇよ!」


 温泉旅館、二日目の朝。

 そばで寝ているひなを起こして、朝ご飯を食べさせる俺だった。


「おいひい〜」


 そして目を閉じたままもぐもぐとご飯を食べるひな。


「朝に弱いね、ひなちゃんは……」

「冬子が寝かせてくれなかったから〜。私は早く寝たかったのにぃ」

「ケホッ! きょ、今日は自由行動! しよう! 花火大会が始まるまで私は陸くんと! ひなちゃんは宮内くんと! 分かった!?」

「うん。私も今日は奏多とゆっくり歩きたいからね」

「会長、頑張れ〜」

「…………」

「俺のパーフェクトプラン、まだ覚えているよな? 会長」

「う、うるさいから!!! 宮内くん、早く食べろ!」

「あははっ」


 今日は……、天気がいいな。

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