97 夏!④

 結局……あの暗いところで二人きりの時間を満喫する俺たちだった。

 ひなと席を外して二人っきりの時間を作ってあげるつもりだったけど、知らないうちに俺たちがその時間を楽しんでいた。そして相変わらず俺に甘えてくるひな……。しばらくその場で夜空を眺めていた。


 後ろからひなの体を抱きしめて、星を数える。


「冬子がね」

「うん」

「私に聞いたの。どうすればひなちゃんみたいに、さりげなく手を繋いだりハグしたりできるのかって」

「それ、ひなにも聞いたのか」

「奏多にも? ふふっ、二人は付き合ったばかりだからね。私たちと違って」

「それはそうだね」


 軽く唇にキスをするひな。いきなり……?


「こんなことができるのは私たちだけ。だから、ちょっとからかってみた。すぐキスしちゃえ!って。先に襲ってみればきっとチャンスができるって! ふふふっ」


 俺と同じことを考えてたんだ……。

 確かに、そっち方が一番早いよな。でも、会長はまだそんなことできないから。


「そろそろみんなのところに戻ろうか! 待ってるかもしれないし」

「そうだね」


 ……


「…………」

「…………」


 タイミングが悪いね。もうちょっとひなと話した方がよかったかもしれない。

 そしてすごい。俺たちがいない間……、あっちもいろいろやっている。


「ロマンチックだね〜。奏多」

「そうだね。先に戻ろうか? 二人の時間を邪魔したくないから」

「うん、そうしよう」


 会長にラ〇ンを送った後、俺たちは旅館に戻ってきた。

 そして二人が戻ってくるまでしばらくアイスを食べる。


「正直、まだ夢の中にいるような気がする」

「なんで?」

「こうやって奏多と一緒にいるのがね。前には想像すらできなかったよ。あの時、奏多は私に何も言ってくれなかったから……。私すっごく傷ついたよ」

「あの時は……、ずっと避けられてると思っていたから。思い返せば、それはうみの一方的な主張で俺がひなに声をかけてみたらこうならなかったかもしれない。でも、あの時は……うみのことをひなだと勘違いしたから」

「へへっ、大丈夫……」

「…………」

「たまにね……、3人で仲良く遊んだ時の夢を見るの。どうしてこうなってしまったのか。どうして嫌われたのか……、それをずっと考えていた」

「俺は……ずっとうみに振り回されるだけだったけど、それでもうみが普通の人生を送ってほしかった。でも、俺の話は全然聞いてくれないからさ。だから、諦めちゃった」

「昔みたいに3人で遊びたいけど、もう無理だよね?」

「…………」


 どうやら、ひなはずっとうみのことを心配していたみたいだ。

 もう赤の他人になったけど、それでも姉妹は姉妹ってことか……。

 できれば、俺もあの時に戻りたいけどな。


「よっ! 二人とも! ごめんね。遅くなっちゃって」

「冬子〜。さっきよりテンションが上がったね! あはははっ」

「ふふっ」


 そして……、こっちはなぜかテンションめっちゃ下がってますけどぉ。

 一体、そこで何があったんだ……。会長……。


「じゃあ、私はひなちゃんと部屋に入るから二人ともおやすみ〜」

「お、おやすみ……」

「俺たちも部屋に行こう、会長」

「おう……」


 川辺で線香花火をする時まではめっちゃテンションが上がっていたのに、どうしていきなりテンションが下がってしまったんだろう。そして寝床で膝を抱えている会長に……、俺は何を言ってあげればいいのかずっと悩んでいた。


 てか、イチャイチャしただろ? そこで。何があったんだ!


「会長、何かあったのか? 如月と」

「…………宮内くん、俺は……俺はやはりアホだった!」

「えっ? いきなり?」

「俺たち……、雰囲気がめっちゃよかったぞ! 宮内くんの話通り! ちゃんとハグをして、そこでくっついてて……めっちゃ雰囲気が良かったのに……!」

「えっ? ハグしたんだ〜。おめでと〜」

「問題はそこからだ!」

「えっ?」

「二人……、二人が席を外してくれたからなんとなくハグまでできたけど、なんかもうちょっと……」

「我慢できなかったみたいだな。会長……。それで何がしたかったんだ?」

「完全に……キスをする流れだったからさぁ……」


 おお、そこまでやるつもりだったのか、会長男らしい。

 でも、失敗したからテンションが下がってるよな。会長……。


「へえ……、それで如月とキスしたのか?」

「それがさぁ。やり方がよく分からないから……、なんか変な雰囲気になっちゃってさぁ」

「…………」


 そっか。確かに……、やったことないならそうなるかもしれない……。

 そういえば、俺も初めてひなとキスをした時、ひなの方からやってくれたからさ。

 ごめん、会長。そこはアドバイスできないかもしれない。


「くっそ……。その後、冬子にみんなのところに行こうって言われて……今に至る」

「…………マジですか」

「マジ」

「まあ、でも……! またチャンスあるはずだから元気出してよ。会長」

「てか、宮内くん」

「うん?」

「キスって……、めっちゃ気持ちいいことだったんだ……。心臓が爆発しそうで、すごく……気持ちよかった」

「やってないだろ?」

「ほんの少し! 触れたっていうか……」

「へえ、そうなんだ……」


 なんか、初めてひなとキスをした時の俺を見ているような気がする。

 テンションは下がってるけど、それでもすごく嬉しそうに見えた。


「くっそ! こうなったら宮内くんにキスを学ばないと!」

「それ……、学ぶ必要あるのか? 会長……」

「今日は夜更かしだ! 宮内くん!」

「寝たい……」

「ダメだよ! いろいろ話したいことたくさんあるから、寝ないでぇ!!!」

「ええ……」


 勘弁してぇ。

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