96 夏!③

「おいひい〜」

「またあるからたくさん食べてね!」

「ありがとう〜」


 子供たちが明るくていいな、昔の俺とひなを見ているような気がして懐かしい。

 それにさっきからずっとひなとくっついているけど、気に入ったみたいだな。可愛いお姉ちゃんって言いながらさりげなくくっつく。ちょっと羨ましくなるのは気のせいかな? なぜか、子供たちに嫉妬してしまう俺だった。


 そういえば、これから何をするんだろう。もう夜だしさ。


「ところでみんな! 今から川辺に行かない?」

「川辺?」

「そうだよ! そこで見る夜空がめっちゃ綺麗でね。どう!? 線香花火もしよう! めっちゃ夏っぽくない!?」

「あはははっ、冬子。テンション上がってるね。いいよ、俺は行く。宮内くんと三木さんはどうする?」

「私も行く!」

「俺も」


 そしてニコニコしている会長に気づく。チャンスが来たな。

 外はあっという間に真っ暗になって、俺たちは如月と川辺に向かっていた。てか、さっきまで夕焼けを眺めていたのに、もうこんな時間か……。俺とひな、そして会長と如月が手を繋いでこの暗い道を歩いている。


 そういえば、部屋でゲームとかすると思ってたけど……、川辺か。

 まあ、こっちの方がもっといいかも。


「ちょっと怖いかも……。奏多」

「そう? 俺がいるから大丈夫」

「へへっ、うん!」

「陸くん〜、私もこわ〜い!」

「…………」

「陸くん?」

「あっ! うん、お、俺がいるからね! 冬子!」


 そうだよな……。会長……、こういうの苦手だったよな。

 さっきから何も言わないなと思ったら、緊張しすぎて声が出てこないだけだった。

 てか、幽霊とか出てくるわけないだろ? こんなところで。


「怖いなら私がハグしてあげよっか? 陸くん」

「……お、俺は! こ、怖くないからな! ちょっと……、暗くて前が見えないだけさ!」

「へえ、会長男らしい〜」

「三木さん……! ありがと!」


 そして川辺に着いた俺たちは綺麗な夜空を眺めながら、しばらくその場でじっとしていた。星とか、涼しい風とか、すごくいい。


「綺麗〜」


 そう言いながら、俺の手をぎゅっと握るひなだった。


「最初は肝試しとかやってみたかったけどね」

「き、肝試し……!?」

「でも、周りに何もないから……。みんなと川辺に行くことにしたよ。こっちの方がいいよね? 陸くん」

「お、俺は! き、肝試しとか怖くないから……へ、平気だぞ! 冬子」


 声が震えている会長……。


「奏多」

「うん? どうした。ひな」

「なんか……、懐かしくない? 小学生の頃に一度だけ一緒に川辺に行ったことあるよね?」

「そうだね……。ひながいきなり夜空が見たい!って言ってて、迷子になりそうだったよな。覚えている」

「えへっ」

「みんな! こっち来て!」


 線香花火に火をつける冬子。

 すると綺麗な花火が瞳に映り、ひなのあどけない笑顔が見えてくる。正直……、線香花火とか、どうでもいいと思っていた。俺が見たかったのは多分それを見て笑っているひなの笑顔……。ほとんどの時間を部屋で過ごしていた俺たちに、こんな経験は少ないからさ。


 ほんの少し、子供の頃に戻ったような気がする。


「あっ」


 終わってしまった。

 そしてまた真っ暗になる。


「ええ、終わっちゃった〜。綺麗だったのに」

「またあるから! ひなちゃん」

「あっ、私! 奏多とちょっと歩きたいから、二人はどうする?」

「お、俺たちはもう少し……」

「そうなんだ。じゃあ、行こう! 奏多!」

「うん。二人きりの時間を楽しんで、会長」

「…………」


 懐中電灯を持ってきたおかげで、周りが真っ暗になってもひなとこうやって歩くことができる。そういえば、俺たちが住んでいた田舎もこんな感じだったよな。懐かしい。あの時の景色と似ているような気がする。


 ひなが寝ている時にこっそり一人で眺めていたからさ。


「今日、冬子と一緒に温泉入ったけどね」

「うん……」

「なんか、ちょっと足りないなと思って」

「何が?」

「奏多がいないから。冬子と話すのも楽しいけど、やっぱり奏多と一緒に入った時がもっと楽しかったような気がする」

「そうか? でも、たまには女子同士で話すのもいいと思う。ひな」

「そうだよね〜」

「会長は今頃……、如月と何をしているんだろう」

「ふふっ、何か起こるかもしれないね! ドキドキする!」


 ぎゅっと握ったひなの手。

 あの二人と少し離れたところで俺たちはくっついていた。


「奏多……。ここ、誰もいないよね?」

「そうだよ」

「キス、しよっか? 私、やってみたかったよ。綺麗な夜空を眺めながら彼氏とキスをすること! 多分、あっちにいる二人ももうやってるかもしれない」

「確かに……、会長もいろいろ悩んでたよな。でも、如月との距離を縮めるチャンスが来たからなんとかなると思う」

「だよね……」


 そして二人の間に静寂が流れる。


「今は……、ひなに集中したい」

「私も……」


 てか、ずっと俺とのキスを我慢していたのかな……? いつもより激しい。

 それに体をぎゅっと抱きしめて、俺の膝に座る。


「ひなぁ、ここ外だぞ?」

「だって、ずっと我慢していたから。もうちょっと奏多とくっつきたい! へへっ」

「まったく……。てか、ずっと俺とくっついていただろ?」

「それは昨日のことでしょ?」

「ええ……」


 そしてさりげなく俺の首を噛むひなだった。

 これ、ちょっと痛いかも。


「ちょ、ちょっと……! 首を噛むのはやめてぇ」

「ひひっ♡ 好き〜。奏多」

「もう……、こんなところで恥ずかしいこと言わないでよ」

「好き〜」

「ひなぁ」

「好き〜」

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