95 夏!②

 現在、俺たちはバスに乗って旅館に向かっている。

 てか、夏と言ったら海とかお祭りとかいろいろあると思うけど、まさか友達と温泉旅館に行くようになるとはな。それに如月の親戚がやっている旅館だからめっちゃいい客室を貸してくれるって言われて、さっきからめっちゃテンションが上がっているひなと会長だった。


「テンションめっちゃ上がる!!!」

「おう!!!」

「温泉!」

「俺さ! 来る前にちょっとネットで調べてみたけどさ! めっちゃいい旅館だったよ! 楽しみだぁ!」

「えへへっ、みんなと一緒に行ってみたくてね。叔母さんも冬子ちゃんならいつでもいいよって言われて、ふふっ」

「神!」

「冬子は神!」


 小学生かよ、この人たち……。

 てか、俺は……眩暈で死にそうなのにどうしてあの3人は平気なんだ……。


「奏多もテンション上がっ———。奏多!? ど、どうしたの!? か、顔色が悪いよ!」

「あら、宮内くん眩暈か?」

「恥ずかしいけど、今死にそうだからこのまま目的地に到着するまで……寝る」

「じゃあ、私は奏多のそばにいるから!」

「…………」


 何もしてないのに、疲れてしまった。

 マジか、俺。


 ……


 一応、目的地に着いたけど、俺一人だけめっちゃテンションが下がっていた。

 多分、眩暈のせいだろう。

 そして俺たちを待っていた子供たちが、旅館の前で挨拶をしてくれる。


「冬子姉ちゃん!」

「あら、久しぶり〜。莉子ちゃん」

「お母さん忙しいから、私が代わりに案内するからね〜!」

「ありがと〜」


 俺と会長の部屋は3階の奥。

 てか、会長さっきからめっちゃニヤニヤしているけど、何か期待していることでもあるのかな? 確かに、恋人同士でこんなところに来るとそうなるよな。分からないとは言わない。


 そして女子たちの浴衣姿が見られるかもしれないし、狙いはそっちかも?


「宮内くん! すぐ温泉に行くよな?!」

「えっ? すぐ? 分かった……」

「そしてその後、冬子の浴衣姿が……。ふふっ」

「会長……、ごめん。キモい」

「えっ!? ひどーい!」

「冗談だよ。まあ、彼女の浴衣姿が見たいのは男として当然だと思う。てか、会長さっきからずっとそれ考えてたよな?」

「そ、そんなことないんですけどぉ……」

「嘘〜」

「一応……、行こうか!」

「うん」


 女子たちは女子同士で行くはずだから、俺たちは先に行くことにした。

 そして一幅の絵のような景色に目を取られてしまう。すごく綺麗だ。

 その道を歩きながら会長とさっきの話を続いていた。


「それで、幸せか? 会長」

「うん。めっちゃ幸せだよ! 付き合った後すぐデートをして、いろいろやったからさ!」

「へえ、いろいろやってたんだ……。いいね」

「俺……! 冬子と手を繋いだぞ! 褒めてくれ! 宮内くん」

「ん?」


 そこ……、褒めるべきなのか? 手を繋ぐのは普通にできるんじゃないのか?

 もし、ハグなら褒めてあげたかもしれないけど、手は…………ちょっと。


「なんだよ、その顔! 最後までちゃんとやってる宮内くんには簡単なことかもしれないけど、俺は精一杯頑張ったぞ!」

「よくやった。会長。そして最後までちゃんとやってるってどういう意味だよ」

「ケホッ!」

「なんだ……」


 温泉に入る前に体を洗う二人、高校3年生になってやっとこんなことができるなんて。ちょっと不思議だと思う。今までずっとうみと恋人ごっこをやっていた俺が、こうやって友達と一緒に温泉……。


 そして眺めのいいところで恋バナかぁ。

 確かに、今はその話が一番楽しい年だから仕方がない。


「で、俺聞きたいことがあるけど、いいかな?」

「うん」

「二人は……、その……どこまでやったの?」

「ん? なんって?」

「キスとか! そういうのあるだろ!? なんか、俺も……冬子とハグとかしたいからさ! どうすればいいのか教えてくれ!」

「えっ?」


 そういえば……、そうだよな。

 俺とひなは幼馴染だから、さりげなく手を繋いでハグして……、ずっとそんな風に過ごしていたよな。だから、よく分からない。会長と冬子は幼馴染じゃないから、どうすれば俺たちみたいにさりげなくハグができるのか答えづらい。今の俺にできることは……、何もない。アドバイスすらできない俺だった。


 でも、めっちゃ悩んでいるように見えて、なんとか言ってあげないと。

 

「ハグがしたいのか? 会長は」

「そう! イチャイチャしたいんだよ! 二人みたいに! しょっちゅう学校でくっついているだろ!?」

「見ていたのか?」

「生徒会室でイチャイチャしてたから、当たり前だろ!?」

「いや、ずっと戻ってこないなと思ってたら外で見ていたのか!?」

「とにかく、教えてくれ! 俺は何をすればいいんだ!?」


 なぜか、熱くなる男たちの友情。


「そうだな。まず、俺とひなが席を外すからさ。会長はすぐ如月の部屋に入るんだ! 付き合ってるからそれくらいできるよな?」

「うん! もちろん! それで!?」

「明るい顔で挨拶をする。そして……」

「そして!?」

「寝床に倒すんだ! 如月を!」

「ん?」

「そうするとチャンスが来るはずだ! 会長!」


 これじゃ最後までいけそう。

 そして親指を立てる俺。どれだけ考えても完璧で素晴らしいプランだ。


「んなことできるわけねぇだろ———!」

「会長……、男だろ?」

「やっぱり美少女としょっちゅうイチャイチャしている人の思考は俺と違うのか!」

「ハグとかさ、そんなの普通にすればいいんだよ。深く考えないで会長」

「そうかな? 緊張する」

「でもさ、そういうのは相談することより自分でやってみた方がいいと思う。そっちの方がドキドキして楽しいだろ? 好きな人だから」

「宮内くん……。そんなカッコいいこと言えるのに、どうしてさっきは……」

「好きならそっちの方が早いから」

「だから! そんなことできるわけねぇだろ!」

「あははははっ」


 そう言いながら綺麗な夕焼けを眺めていた。

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